A社に勤務する男性営業マンのBさんは、A社の営業車で客先を回っているときに他の車に接触され、首に痛みを感じたとして労災保険を申請し認定されましたが、その後1年以上出勤していません。車の接触に伴う破損はドアが少しへこんだだけで、Bさんは医師から「頸椎損傷」という診断がなされているだけでした。A社では事故の程度は軽いはずであるのに出勤しないことや、Bさんが3カ月ごとに医療機関を変更することなどを不審に思い、出勤要請を行いました。
しかしBさんは弁護士のCさんに依頼し、会社の出勤要請に対してC弁護士を介して「出社できない状態のBさんに無理な要請をしないように」と抗議しました。A社では労務の専門家に相談し、根気強く出社を要請した結果、ようやくC弁護士とBさんの2人に来社の約束を取り付けました。A社では、Bさんが出社する時間に合わせて、探偵事務所に自宅から会社までBさんの様子を録画するよう依頼しました。
その結果、Bさんが自宅から両脇に松葉づえを抱えスタスタと歩き、信号が青から黄色に変わりそうになると走って横断歩道を渡る姿や、BさんがC弁護士との待ち合わせの場所に近づくと、急に両手で松葉づえをつき、歩きだした姿がバッチリ録画されました。会社にBさんと訪れたC弁護士は、若くて見るからに真面目な人であり、Bさんを指さして「こんなに大変な状況の彼を呼び出すとは問題ですよ」と強く抗議しました。会社担当者は、Bさんを残しC弁護士だけを別室へ案内し、録画したビデオを見てもらいました。C弁護士は、「Bさんと2人だけでこれを見させてもらいたい」と希望し、1時間後、Bさんはその日で退職すると記載した退職願を提出し、C弁護士と共に帰って行きました。
A社では、専門家を交えてBさんへの対応について打ち合わせを行いました。その矢先に、A社の社員が元気に歩くBさんらしき人を目撃したとの話があり、A社では紹介された探偵事務所にBさんの日常生活を録画することを依頼したところ、日常生活を全く問題なく過ごしていることが把握できました。そこでBさんが日常生活に支障がないことについて「動かぬ証拠を突きつけて即解決に持ち込む」と決め、それが功を奏してBさんが退職するに至ったのでした。