ファスト&スロー: あなたの意思はどのように決まるか? 著者:ダニエル・カーネマン

採録

ファスト&スロー: あなたの意思はどのように決まるか?
著者:ダニエル・カーネマン
(2012-11-22)
販売元:Amazon.co.jp

本書は行動経済学をデカルト以来の「意識中心主義」を否定する知的な革命として位置づけるもので、原著が出て1年あまりで21世紀の古典としての地位を確立した。ナシーム・タレブが「『国富論』や『夢判断』と並ぶ社会思想のランドマーク」と絶賛しているように、すべての人の世界観を変えるインパクトがある。

といっても本書は専門書ではなく、「オフィスでの井戸端会議」のネタが豊富に例示されている。「人間が意識的に行動している」という新古典派経済学は神話だが、その原因は脳がきわめて非効率的にできているためだ。脳の重さは体重の2%程度だが、基礎代謝の20%も消費する。このため、なるべく直感的なシステム1で情報を処理し、意識的なシステム2の負荷を小さくしようとする。これが拙著『イノベーションとは何か』でも紹介した、彼の2段階モデルである。
kahneman
このモデル自体は著者の独創とはいえず、システム1はフロイトが「無意識」と呼び、ポランニーが「暗黙知」と呼んだものに近い。しかし著者はシステム1をフロイトの無意識のような神秘的な存在と考えず、システム2の遅い思考と互換的な速い思考と考える。たとえばピアノの演奏を最初に習うときはシステム2で意識して鍵盤をたたくが、システム1で自動的に指が動くようにならないとピアニストにはなれない。

逆にシステム1による自動的な情報処理が、うまく機能しないことがある。それが著者の初期の業績でバイアスとして示されたものだ。本書にもバイアスの例がいろいろあげられているが、これは「不合理な行動」ではなく、むしろ脳の機能としては合理的に(システム2の処理を省略して)速く処理する結果なのだ。そして現実の人間の知的な処理の大部分は、システム1で無意識に行なわれる。

このシステム1とシステム2の役割分担は、人によっても文化圏によっても違う。日本人に応用すると、日本の製造業の「すり合わせ」の効率性は、システム1で情報処理していることによるのではないか。誰も命令しなくても多くの人々が整然と行動する日本人の特長は、震災でも世界から称賛されたが、システム1で共有している情報が多く、人々の均質性が高いためだろう。

しかし、このように意識的な処理を省いた効率的な行動は、大きな変化に直面したとき困る。たとえばTPPに参加するか否かという問題は、システム2で論理的に処理しなければならないのに、システム1で過剰なコンセンサスを求め、みんなの意見をまとめようとする結果、民主党政権のような堂々めぐりが起きてしまう。

逆にアメリカ人はシステム1で共有している情報が少ないため、ほとんどの処理をシステム2で行ない、問題を契約や訴訟で論理によって解決しようとする。このような情報処理は効率が悪いのだが、システム1が個別の文化圏に依存するのに対してシステム2には普遍性があるため、新古典派的な合理主義が一定の有効性をもつ。

以上採録。
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大脳運動野の情報を小脳にプールしておいて効率化するのと同じ話。
このように偉い人が平易に解説してくれると考え方そのものが一般化するので
同じように考えている人にはありがたい。

私の考えは
システム1とシステム2の間の時間差を考えて、そこで自意識が発生しているし、
時間差のズレが崩壊すると、自意識の障害が生じるという仮説である。

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このようなモデルで考えると、
システム1は、どうしても、過去の経験からの抽出物になるので、
本質的に新しい環境に適応するのが難しい

古い環境に対する古い問題の解答は用意されているのだが
新しい環境に対する新しい問題については
システム2を用いて新しい解答を探さなければならない

この時間差が良くないこともある