“俺は君に知らせたかったんだ。 この世界を変貌させるのは認識だと。 いいかね、他のものは何一つ世界を変えないのだ。 認識だけが、世界を不変のまま、 そのままの状態で、変貌させるんだ。 認識の目からみれば、世界は永久に不変であり、 そうして永久に変貌するんだ。 それが何の役に立つかと君は言うだろう。 だが、この生を耐えるために、 人間は認識の武器を持ったのだと言おう。 動物にはそんなものはいらない。 動物には生を耐えるなんて意識はないからな。 認識は生の耐えがたさがそのまま武器になったものだが、 それでいて

“俺は君に知らせたかったんだ。
この世界を変貌させるのは認識だと。
いいかね、他のものは何一つ世界を変えないのだ。
認識だけが、世界を不変のまま、
そのままの状態で、変貌させるんだ。
認識の目からみれば、世界は永久に不変であり、
そうして永久に変貌するんだ。
それが何の役に立つかと君は言うだろう。
だが、この生を耐えるために、
人間は認識の武器を持ったのだと言おう。
動物にはそんなものはいらない。
動物には生を耐えるなんて意識はないからな。
認識は生の耐えがたさがそのまま武器になったものだが、
それでいて耐えがたさは少しも軽減されない。
それだけだ。”
三島由紀夫『金閣寺』