22章 気分障害に対する心理療法 MD2012-13

22章 気分障害に対する心理療法まとめ・気分障害においては、症状の改善と機能の改善との間にずれのあることが多い。・症状が改善しても、仕事や社会生活において不適応が続くことがしばしば見られる。・機能の回復のために、心理療法や心理社会的介入が有効かもしれない。・患者が運営するサポートグループも重要な心理社会的介入であり、良い効果が報告されている。・存在に関する絶望感が慢性的な大うつ病のエピソードの1つとして間違って解釈されることがある。 医師と患者間の治療的な関係が、心理療法のセッションとして構造化されていなくても、この絶望感に 対して実際に有効な心理療法として作用することがある。
機能の問題気分障害においては、薬で症状を治すことが出来ても、機能が回復されないことがあるため、心理社会的介入の重要性を心に留めておくべきである。言い換えると、患者の症状が改善しても、普通の生活に戻れないことがしばしば起こるのである。ここで言う普通の生活に戻れない(機能が回復されないこと)とは、以前と同じレベルの仕事や勉学に戻れなかったり、以前のようなレベルの対人関係を持つことができないということである。この症状と機能のずれは双極性障害の治療において顕著である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーここのところは品川心療内科でいえばBDIとSASSの点数の差になるでしょううつ症状とQOLに対応しますBDIが回復して2点とかなのにSASSが良くないなんていうのがこのタイプそこを精神療法で何とかしてねということらしい
こういう言い方は http://shinagawasn.blog.so-net.ne.jp/2012-01-28-6 ここで書いたように 「X」の事 機能低下するのはSであると従来は定義していたのです。うつ症状から構成されるSということになる。または(陰性症状とうつ症状を鑑別しないといけないんだけど、非常に粗雑に言うと)単純型S。それを平気でXを双極性と言うんだから、やはり問題。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
躁エピソードから症状はほぼ完全に回復したにもかかわらず、2年後に機能が回復している患者は40%に過ぎないというエビデンスがある。大部分は引き続き家庭において伴侶や家族との問題を抱え、正社員として雇用されないままである。さらに通常、うつや双極がわずかに残っている部分寛解においては、機能の回復は不完全である。
・心理療法の選択 心理療法はエビデンスのあるものを選択することが望ましい。 CBTとIPTを用いたうつ病の治療については8章で述べた。CBTとIPTは双極性障害の再発予防にも有効である(family-focused therapyと心理教育も同様)。著者の意見では、心理教育は、学びやすいことと、双極性障害では病識を持つことが主要な課題であることから、広く用いることができる。 支持的療法と精神分析を行っている人は多いので否定はしないが、ほとんどエビデンスがないので、他のアプローチがあればそちらを勧める。 個人的にはexistential心理療法的な方法を多く用いている。existentialな方法とは、単純に、患者のために「そこに存在する」ことの効果を意味している。共感的な対応だけでなく、常に治療同盟を評価しながら進めていくものである。治療同盟は治療の要と言ってもよく、Ronald Piesが提案したように、気分安定剤の役目を担うとも言える。 双極性障害の場合、大きな気分の波を薬剤で治療し、気分の波の残渣を心理療法で安定させるイメージである。  気分障害において機能が回復しないのは、1)症状の残渣(多くはうつ症状)、心理療法的介入で改善の可能性あり、2)症状がほとんど残っていなくても起こるもの。この場合は、例えば、エピソードの結果として長期間認知が歪んでいた結果であるか調べる必要がある。3)また、病気であることに慣れてしまって、抑うつでも、マニ―でもないライフスタイルに適応できない場合もある。 これらのケースに対しては、よくトレーニングされた心理療法家の注意深い援助が求められる。
・絶望と慢性的subsyndromalうつ症状 最適な治療を行っても、多くの患者が、穏やかな、または中程度に慢性的なうつ症状を呈する。それは、うつが残っているせいであることもあるし、長期にわたって苦しんだことに対する心理的な反応――実存的な絶望感(長期間、多くのものを失ってしまった絶望感)であることもある。これに対しては、existencialな心理療法が効果的である。この場合は、医師と患者との治療同盟もexistentialな治療として機能することができる。重い気分エピソードからやっと回復した患者が抱える低いレベルの絶望感に対して「ミニ気分安定剤」として機能する。 急性のうつやマニーを伴う重症例には薬剤が有効であるが、穏やかなうつ症状に対しては抗鬱剤は効かないか、逆にマニアや気分の循環を生じてしまう。穏やかなうつ症状には、薬剤のような大ハンマーではなくて音叉のような、強力な治療同盟やexistentialやそのほかの心理療法が向いている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【解説】ここの部分は誤訳でもなくて大ハンマーと音叉でいいのだと思う
最初は薬剤は大ハンマーsledge hammer で 精神療法はtuning forks というので要するに大なたと小刀の対比かと思った
しかしそれでは話が合わないので考えてみると大ハンマーは物理的に対象を変化させるこれは薬だろう
音叉は物理的に変化させるわけではないが音波を出して楽器と共鳴して楽器の状態を知らせる
物理的な力で変化させるわけではないが変化のきっかけになるまたはガイドになる
これが実存的精神療法だという比喩であってなかなか妥当な比喩だと思うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・その他の心理社会的介入  心理療法は精神科医だけでなく、ソーシャルワーカー、心理士、ナースプラクティショナーも行うことができる。ソーシャルワーカーと心理士は特に心理療法を提供するのに適しているかもしれない。というのは、精神科医や看護師よりも心理療法に関する正式なトレーニングをより多く受けていることが多いからである。その他の心理社会的介入もあるが、ソーシャルワークの分野により近いものが多い。例えば、ハーフウェイハウスなどの住宅支援やデイケアなどである。こういった環境は医療のコンプライアンスを高めるだけでなく、機能の改善にも貢献する。職業上のリハビリテーションも重要である。それは病状の回復状況に応じた就業条件をこなせるように、患者を再訓練するプロセスである。職業カウンセリングも、仕事をはじめるための基礎を教育するのに適している。家族療法も患者を支援するネットワークを評価し最大にするためにとても大切である。
・サポートグループ 気分障害の患者のための心理社会的サポートネットワークとして最も新しいものは、この20年の間に発展してきた患者が運営する、あるいは家族が運営する組織であろう。ナショナル・アライアンス・フォ・ザ・メンタリー・イル(NAMI)やディプレッシブ・アンド・バイポーラー・サポート・アライアンス(DBSA)などがある。医療従事者のように権威のある人物からよりも、同じような状況にある仲間たちから最大の援助を得る場合が多いようである。深刻な病気に対処するに当たり、家族もこれらのサポートグループに助けられている。これらのサポートグループに定期的に参加している人たちは、治療に対してより協力的で、より良い結果を得ている。原因と効果ははっきりしないが、組織は有益である。 患者がサポートグループの存在を知り、臨床医がサポートグループと協力して気分障害にかかっている人々の助けとなることが大切であると著者は考えている。長期的に見て、患者と治療者と家族間の連携が多いほど、良い結果が得られている。
2013-03-27 19:28