医学部長らの自由意見では、学力低下の詳細として、(1)基礎学力の低下、(2)社会規範の欠如(遅刻、欠席、教員の指示に従わない、授業態度不良、呼び出しに応じない、など)、(3)メンタルな問題を抱える、(4)モチベーションが低い、などが挙がった。回答があった49大学中、成績下位者にチューターやメンターを付け、学習面・生活面で個別指導を行っているのは23大学、基礎科目の補修21大学であるなど、各大学とも対応策を講じている。

 全国医学部長病院長会議は9月19日の記者会見で、「医学生の学力低下問題に関するアンケート調査結果2013年」を公表、2008年度の医学部の入学定員増を機に、留年者、休学者、退学者がいずれも増えており、多くの教員が医学生の学力低下を実感している実態が明らかになった。2008年度以降、2013年度までの間に1416人の入学定員増を図っているが、実際の医師免許取得者は、定員増分ほどには増加が見込めない状況になっている。
同会議の顧問で、北里大学名誉教授の吉村博邦氏は、「学力以外にも、社会性の乏しい学生や、精神的な問題を抱えた学生などが増えていることも指摘されている。今後、少子化の進展により、医学部入学の門戸はさらに広がることが予測される。これ以上の医学部定員増あるいは医学部新設は、医学生の資質の一層の低下を招く恐れがあり、教員の負担増も強く懸念される」と述べ、今後の入学定員増をけん制した。
 調査は、全国の80大学医学部・医科大学の医学部長もしくは教育担当責任者を対象に実施、2012年4月から2013年4月の在籍学生について調べた。
 2008年度の入学定員(7793人)は、2007年度(7625人)と比べて168人増加。留年生等の数がほとんど変わらなければ、2013年度の6年生は、2012年度と比べて168人程度増えるはずだが、実際には8010人で、2012年度の6年生8036人と比べ、26人減少している。4年生、5年生でも同様の傾向が見られる。
 留年は1年、2年生に多い。2012年度の1年生は9023人。留年等がゼロであれば、2013年度の2年生は9023人のはずだが、実際には9725人。700人以上は2年生の時点で留年していることが分かる。
 経年データがある53大学(国立30校、公立2校、私立21校)に限ると、2年生の留年者は、2008年度321人、2012年度472人で、有意に増加(P=0.0037)。50大学のデータでは、2012年度の2年生の休学者115人でトレンド検定で有意な増加傾向が認められ、2年生の退学者は46人だった。
 ただし、4年生が受ける共用試験(OSCEとCBT)の平均点、最低点には変化はなく、共用試験までの間に医学生の選別が起きていることが分かる。
 医学部長らの自由意見では、学力低下の詳細として、(1)基礎学力の低下、(2)社会規範の欠如(遅刻、欠席、教員の指示に従わない、授業態度不良、呼び出しに応じない、など)、(3)メンタルな問題を抱える、(4)モチベーションが低い、などが挙がった。回答があった49大学中、成績下位者にチューターやメンターを付け、学習面・生活面で個別指導を行っているのは23大学、基礎科目の補修21大学であるなど、各大学とも対応策を講じている。
 同会議相談役で、千葉大学医学部教授の中谷晴昭氏は、「留年させることは、医学教育に投入されている税金を無駄にすることにもなる。しかし、不適格な学生を進級させて、医師にしていいのか、という思いはある」と、対応の難しさを語る。約30校のデータだが、医学部入学者の大学入試センター試験の主要6科目の平均点は、全国平均よりも20点以上も高い上、「入試時に面接しても、モチベーションが高い」(中谷氏)。ここ数年、入学定員について量的拡大を図ってきたが、入試方法の再考や、教員増を含めた医学教育の充実を図らなければ、医師不足対策の効果は薄れる。
 9月19日の記者会見では、「医師国家試験に関するアンケート調査結果報告」も公表された。これは毎年、医師国家試験後に実施している調査で、今年は10大学医学部・医科大学の卒業生887人(回収率76.8%)と、80大学の国試関連担当職の教員(回収率100%)を対象に実施。国試の内容は改善傾向にあるものの、「臨床実習の成果を問う問題」はいまだ少なく、改善の余地があることが浮き彫りになっている。
卒業生への調査では、臨床実習の成果を問う良質の問題が多くなっていると評価しており、試験に対する満足度も高い。試験全般に関する意見は、「満足」38.3%、「少し不満」30.4%、「不満」7.5%など。また各大学における国試対策は年々拡充しており、60.8%の卒業生が「十分であった」と回答。
 教員への調査では、2013年2月実施の第107回国試に出題された全500問の評価も行った。「模範的良問」もしくは「良問」と判断されたのは41.2%で、前回国試の39.5%よりも1.7ポイント増加。ただし、「臨床実習の成果を問う問題」と判定されたのは全体の5.6%にとどまった。
 そのほか教員への調査では、一般問題と臨床実地問題の合格基準が相対評価であり、国試の合格率は約90%に設定されているため、最低合格ラインが上がり、「国試は資格試験ではなく、競争試験になっている」との指摘も出ている。国試対策が充実し、受験テクニックの向上などが一因だという。
 全国医学部長病院長会議では、今回の調査を基に、8月28日に文部科学省と厚生労働省に対し、(1)試験に関する情報公開、臨床実習の成果を問う質の高い良質な問題の出題、受験環境の整備、(2)難易度の高い問題および必修問題で正解率の低い問題は採点から除外するなど、受験生の不利にならない適切な処置、(3)同会議が公表した「医師養成の検証と改革実現のためのグランドデザイン:地域医療崩壊と医療のグローバル化の中で」を参考にした、国試改革の検討――の3点を要望している。