日本人成人の400万人超に「ネット依存」の疑いあり 国際的な診断ガイドラインや評価ツールの必要性も訴え 日本人の成人の400万人超、中高生の50万人超に、インターネット使用障害(IUD)、いわゆる「ネット依存」の疑いがあると推計されることが示された。国立病院機構久里浜医療センターの三原聡子氏が、6月4日~6日に大阪市で開催された第111回日本精神神経学会学術総会(同時開催:WPA Regional Congress Osaka Japan 2015)のJSPN/WPA合同シンポジウム「インターネット使用

日本人成人の400万人超に「ネット依存」の疑いあり
国際的な診断ガイドラインや評価ツールの必要性も訴え
日本人の成人の400万人超、中高生の50万人超に、インターネット使用障害(IUD)、いわゆる「ネット依存」の疑いがあると推計されることが示された。国立病院機構久里浜医療センターの三原聡子氏が、6月4日~6日に大阪市で開催された第111回日本精神神経学会学術総会(同時開催:WPA Regional Congress Osaka Japan 2015)のJSPN/WPA合同シンポジウム「インターネット使用障害の疾患概念確立と診断ガイドライン作成に向けて」で発表した。
国立病院機構久里浜医療センターの三原聡子氏
 厚生労働省の研究班は、1996年から4年に1回、2010年以降は2年に1回、未成年の喫煙・飲酒状況に関する実態調査を行っている。中学・高校の生徒約10万人の回答を得ており、有効回答率は日本における全中学生の1%、高校生の2%に相当する大規模調査だ。最新の2012年の調査には、「インターネットに夢中になっていると感じているか?」「問題から逃げるため、または絶望、不安、落ち込みといった嫌な気持ちから逃げるために、インターネットを使うか?」など、IUDを評価する8項目の診断質問票(Diagnostic Questionnaire:DQ)が含まれている。5項目以上に該当した場合は「病的使用」となり、IUDが疑われる。
 その結果、中学・高校生におけるIUDの有病率は8.1%で、有病者数は約52万人と推定された。有病率は学年が高くなるにつれ有意に高まる傾向があり、いずれの学年でも男子より女子の方が高い傾向にあった。特に低学年においてこの傾向は顕著で、中学1年生では男子2.6%に比して女子5.3%、中学2年生では男子3.6%に比して女子7.9%と女子は男子の約2倍の有病率となっていた。
成人の有病率は5年で約1.5倍に
 また、2008年と2013年には厚生労働省の研究班が成人を対象に調査を行った。米国のヤング氏が開発した20項目の質問からなるインターネット依存度テスト(Internet Addiction Test:IAT)などを実施。2008年は20歳以上の男女4123人(回答率55%)、2013年は4503人(回答率59%)の回答を得た。インターネット嗜癖傾向は年齢で大きく異なっており、男女とも若年であるほど高い傾向があった。成人においては、中高生ほど性差はなかった。
 2008年の調査では全国の成人約275万人にIUDの疑いがあると推計された。その5年後の2013年の調査では、有病率は3%から4%へと1.5倍程度増加し、全国の成人約421万人に疑いがあると推計された。男性は約158万人(3.1%)から約229万人(4.5%)、女性は約117万人(2.2%)から約192万人(3.6%)とそれぞれ推計人数が増加した。
 三原氏は、「IUDの疑いがある成人も増えているが、中高生の有病率は成人に比べはるかに高いことが示唆される」とまとめた。また、IUDは欧米諸国よりもアジア諸国において有病率が高いという報告が多いものの、その報告にはばらつきがあることから「国際的な診断ガイドラインを開発する必要がある。研究にも用いることができる評価ツールを開発し、十分なサンプル数とフォローアップ期間を設定し、グローバルで同一の方法論を用いた横断的研究を実施する必要がある」とのリコメンデーションを示した。
 また同シンポジウムでは国立病院機構久里浜医療センターの樋口進氏も登壇。今年改訂予定のICD-11には「行動嗜癖」という章が新設される予定だが、ICD-11の嗜癖ワーキンググループはIUDを含めることを承認していない。樋口氏らは、「IUDは嗜癖として認められるべき」と主張。国際的なコンセンサスの構築や診断ガイドラインの確立を通じて、ICD-11の初回公開時には間に合わなくても、今後予定されているICD-11の改訂時に反映されるよう働き掛けたい考えだ。