治療抵抗性うつ病に対する認知行動療法 Cognitive-Behavioral Therapy for Patients with Treatment-Resistant Depression プライマリケア施設では抗うつ薬に認知行動療法(CBT)を追加すると有用であった。 プライマリケア医(PCP)が抗うつ薬を処方することは多いが、初回薬物療法に対して十分な治療反応性を示す患者は約1/3にすぎない。初回薬物療法が失敗した場合の選択肢としては、用量の増加、薬剤の変更、あるいは心理療法などがあげられる。

治療抵抗性うつ病に対する認知行動療法
Cognitive-Behavioral Therapy for Patients with Treatment-Resistant Depression
プライマリケア施設では抗うつ薬に認知行動療法(CBT)を追加すると有用であった。
プライマリケア医(PCP)が抗うつ薬を処方することは多いが、初回薬物療法に対して十分な治療反応性を示す患者は約1/3にすぎない。初回薬物療法が失敗した場合の選択肢としては、用量の増加、薬剤の変更、あるいは心理療法などがあげられる。簡易的な認知行動療法(CBT)は未治療のうつ病患者に対しては有効であるが、2次治療として抗うつ薬に追加した場合の役割については十分な検討がなされていない。
本論文の著者Wilesらは英国のプライマリケア施設において、少なくとも6週間以上の抗うつ薬療法で十分な効果が得られなかった成人うつ病患者469例を特定した。患者は主治医のPCPによる通常治療(抗うつ薬を含む)を継続し、無作為に2群に割り付けられて一方のみにプライマリケア施設内または近くの別施設で12~18回のCBTセッションが提供された。通常治療単独群でも臨床的に妥当であると判断された患者に対してはカウンセリング、CBT、あるいは補助的治療の紹介が可能であった。
6ヵ月後、CBT群では通常治療単独群に比べ、主要評価項目(63点式 Beck Depression Inventory[BDI]を用いて測定したうつ症状スコアが50%以上低下)に達した患者の割合が有意に高かった(46% 対 22%)。CBT群では6ヵ月後の寛解率(BDIスコア<10)も有意に高かった。これらの評価項目に関する両群間の差は12ヵ月追跡後も有意であった。
Journal Watch General Medicineの見解
精神疾患と身体疾患が併存したり相互に関係したりしている患者を診ることが多いプライマリケアの診療現場にメンタルヘルスサービス*を統合しようという動きへの関心が高まりつつあり、本研究はそうした考え方を支持することになるであろう。今後、新たな臨床モデルや経済モデル(による検討)が必要になると思われるが、患者の健康と生産性にもたらす利益はかなり大きいと考えられる。 
Bruce Soloway, MD
*:訳注
http://www.sj-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt49-1.pdf
この解説によれば、“behavioral healthcare”とは、包括的な用語で、精神障害、行動障害、あるいは嗜癖障害のリスクのある者または既に発症している者に対する一連のサービスを指すものであり、専門分野としては、精神保健、精神科領域、結婚や家族に関するカウンセリング、および依存症治療を指し、ソーシャル・ワーカー、カウンセラー、精神科医、精神分析医、神経科医、および一般の医師により提供されるサービスを包括するとされている。この定義に過不足なく適切に対応する日本語の定訳は見当たらないので、本稿では、広義に解釈する前提で、「メンタルヘルス」と訳出することとした。また、これと見分けるため、原語で“mental health”という用語が使われている場合は適宜「精神保健」と訳出して本稿を進めることとする。
Journal Watch Psychiatryの見解
プライマリケアにおいて精神薬理学的な診療を行う精神科医は、薬物療法を開始あるいは薬剤を変更するにしても、CBTの追加を検討すべきであろう。とくに、治療抵抗性うつ病に対する2次治療としての薬物療法ではこれまでに報告されている治療必要症例数(NNT)が10前後であるが、本研究の“4”という素晴らしい成績は、この主張の正しさを示している。 
Peter Roy-Byrne, MD
—Bruce Soloway, MD, and Peter Roy-Byrne, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry January 18, 2013