早大の調査委員会(委員長・小林英明弁護士)は17日、文章の盗用など不正行為を認定したうえで、「博士号の取り消し要件に該当しない」と結論づける報告書を発表した。論文審査の責任者の常田聡・早大教授について「非常に重い責任がある」と指摘した。

以下、採録
理解し難い

ーーーーー

 理化学研究所の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダー(30)が3年前に早稲田大に提出した博士論文について、早大の調査委員会(委員長・小林英明弁護士)は17日、文章の盗用など不正行為を認定したうえで、「博士号の取り消し要件に該当しない」と結論づける報告書を発表した。論文審査の責任者の常田聡・早大教授について「非常に重い責任がある」と指摘した。
 鎌田薫総長は「委員会の報告を十分に尊重しながら大学としての対応を決めていく」とのコメントを発表。処分などについては「報告書の内容を精査吟味し、学内で検討する」と話した。
 調査委は、博士論文には文章の盗用などによる著作権侵害が11カ所あり、不正行為にあたると認定。「論文の信頼性や妥当性は著しく低く、審査体制に重大な欠陥がなければ、博士の学位が授与されることは到底考えられなかった」とした。
 一方、「誤って下書き段階の草稿を製本し、大学に提出した」という小保方氏の主張を受け入れ、「完成版」の提出を5月に受けて調査したうえで、不正行為の一部は小保方氏の過失によるものだったと認定した。実験結果の部分に盗用はないとして、「不正の方法により学位を授与されたと判明した場合」という早大の学位取り消し規定には当たらないと判断した。序章部分で確認された4千語以上の盗用は「重大とまで言えない」と結論づけた。
 また、実験ノートの一部を調査し、論文の実験は実際に行われたと認定した。
 論文を審査した教授らは問題点を指摘できず、審査員としての義務違反があったと断じた。大学の審査手続きにも不備があったと指摘した。
 調査委は小保方氏や指導教員らから話を聞くなど、約3カ月半かけて調査。「完成版」がいつ作成されたのかなど、小保方氏側から十分なデータの提供がなく解明できなかった点も残ったという。
 博士論文は、マウスの骨髄や肺などの細胞から万能性をもつ幹細胞を見つけ出すという内容。「STAP細胞」の発想を得るきっかけになったとされる。英文で約100ページ。常田教授と武岡真司・早大教授、大和雅之・東京女子医科大教授、チャールズ・バカンティ・米ハーバード大教授の4人が審査した。常田教授は朝日新聞の取材に「私の責任問題が今後審議されるので、現時点でコメントは控える」と答えた。
 ■草稿提出、常識ではありえず
 《解説》早稲田大調査委員会の報告には疑問点が多い。会見でも納得のいく説明が得られなかった。
 まず、小保方氏が「完成版」と言っている論文は、本当に大学院生当時に書かれたのか。調査委の要請を受けて、小保方氏側からメールで送られてきた論文ファイルは、送信の約1時間前に内容が更新されていて、作成時期が特定できなかったという。それでも調査委は、小保方氏の説明は信用性があると判断した。
 第二に、本来は草稿だったという論文が博士論文として提出されたことを「小保方氏の過失」としたが、過失ですむのか。論文は費用をかけて製本され、国立国会図書館に収められて閲覧される。常識では、間違った草稿を提出するような恥ずかしいことはできないはずだ。
 第三に、引用元を明示せずに長文を引用して論文の序章が書かれた点などを「不正行為に当たる」と認定しながら、学位取り消し要件に当たらないとした。序章は研究者の問題意識や研究の意義を示す重要な部分である。不正を軽視しているようにしか見えない。
 深まる疑問に早稲田大はきちんと答える必要がある。(編集委員・浅井文和)
 ■日本、信用性失う
 大学院教育に詳しい近畿大医学部の榎木英介講師の話 日本を代表する私立大でこのようなずさんな論文が博士号の審査を通ってしまっていたことが世界中に知れ渡れば、日本の学位全体の信用性が失われてしまう。海外の大学や研究機関から日本での学位取得者は信頼できないとみなされかねない。日本で授与された学位に価値がないと判断されれば、日本への留学生も減るかもしれない。
 ■小保方氏博士論文について早稲田大調査委員会の認定
 ◆文章の盗用による著作権侵害など不正行為が計11カ所あった
 ◆論文のもとになった実験は実際に行われた
 ◆草稿を誤って製本してしまった
 ◆論文の信頼性および妥当性は著しく低く、審査体制に重大な不備がなければ学位授与はなかった
 ◆論文の一部は盗用に当たるが、学位を与える上で重要な影響を与えていない。従って、学位取り消しには当たらない
 ◆指導教員や審査の責任者には職務の義務違反があり、非常に重い責任がある

ーーーーー
さらに解説を読むと以下のようである。

まず奇妙なのは、委員長の小林英明弁護士以外の委員が匿名になっていることだ。これでは、彼らが第三者であるのかどうかさえわからない。ポイントは、次の点だ。 
「最終的な完成版の博士論文を製本すべきところ、誤って公聴会時前の段階の博士論文草稿を製本し、大学へ提出した。」と認定した。 
私も博士論文を製本したが、とても大事な作業で、何度も読み直す。誤って草稿を製本するなんてありえない。しかし調査委員会は、彼女が公聴会に提出した「資料」にはテラトーマの図が3枚あったが、問題の博士論文には2枚しかないので、これは草稿のはずだ、と推測に推測を重ねる。委員会はこう書いている。 
[委員会は]小保方氏の主張にいう博士論文が、当時、小保方氏が最終的な博士論文として真に提出しようとしていた博士論文と全く同一であるとの認定をするには、証拠が足りないと判断した。但し、上記事実に加えて、種々の事情を検討した上で「本件博士論文において、リファレンス、及びFig.10が著作権侵害行為等にあたるとされたのは、製本・提出すべき博士論文の取り違えという小保方氏の過失によるものである。」と認定した。 
これは論理がつながっていない。彼女が公聴会に提出した「資料」が完成版なら、それは少なくとも主査の手元に残っているはずだ。ところが審査委員のもっているのは「草稿」だけで、彼女が大学に「完成版」を郵送したのは、今年の5月27日。改竄する時間は十分あった。 
しかも両者の差分を取ったサイトによると、冒頭のNIHの論文のコピペは「草稿段階の過失」ではない。NIHでは"… explained in this document. "となっている部分を博士論文では"… this section"と修正するなど、他のサイトからコピペしたことがばれないように細工している。これは草稿ではなく、明らかに完成版として書いたものだ。 
そして調査委員会は、こう認定する。 
本件博士論文には、上記のとおり多数の問題箇所があり、内容の信憑性及び妥当性は著しく低い。そのため、仮に博士論文の審査体制等に重大な欠陥、不備がなければ、本件博士論文が博士論文として合格し、小保方氏に対して博士学位が授与されることは到底考えられなかった。 
学位が授与されることの考えられない論文に授与した学位は当然、剥奪するのだろうと思って読むと、結論は逆だ。 
「上記問題箇所は学位授与へ一定の影響を与えているものの、重要な影響を与えたとはいえないため、因果関係がない。」と認定した。その結果、本件博士論文に関して小保方氏が行った行為は、学位取り消しを定めた学位規則第23条の規定に該当しないと判断した。 
全体を読むと、調査委員会は「重大な不正があり、普通に審査していれば不合格」と結論しているのに、最後に「諸般の事情」でおとがめなしになったことがわかる。それは最後に書かれているように「早稲田大学がひとたび学位を授与したら、それを取り消すことは容易ではない」からだ。 
これについて鎌田総長が会見していることでもわかるように、これは調査委員会の報告書ではなく、早稲田の大学としての判断である。委員会は「学位が授与されることは到底考えられなかった」と断定したのに、大学側が政治的配慮でその結論をくつがえしたことがわかるように報告書は書かれている。おそらく委員会も、そう書かないと自分の責任が問われることを恐れたのだろう。 
大学の判断は、それなりに合理的である。理研と徹底的に争う小保方氏の博士号を剥奪したら、彼女が大学にも異議を申し立てることは確実だ。その紛争の過程で、少なくとも23件見つかっている同様の博士論文を調査せざるをえない。そうなると学部全体のスキャンダルになり、総長の進退問題になることも考えられる。 
だからここで無理やり蓋をして、世間が忘れるのを待つということだろう。しかしネット時代に、そういう戦術が通用するだろうか。それよりこれで早稲田大学の学位についての信用が決定的に失われ、学問的権威も失われるだろう。今回の決定は「早稲田は大学が全部いい加減なので、彼女だけ処分はできません」と発表したようなものだ。 . .

ーーーーー
氷山の一角、というべきである。

ついでに博士論文審査の謝礼などの慣行も議論してほしいものだ。