脳と意識

採録

一人目のSteve Flemingは、最近の論文で、ヒトのメタ認知能力に驚くほど個人差があること示した上で、そのメタ認知の個人差が前頭葉(BA10)の灰白質の量と対応しているということを示した。

Fleming et al. (2010). Relating introspective accuracy to individual differences in brain structure. Science, 329, 154-1543. 
二人目のRobert Hamptonは、メタ認知というと非常に高次な機能で人間特有のものと考えられがちであるが、動物(サル)にもメタ認知ができているということを、非常に優れた実験デザインで最初に実証したひと。動物にメタ認知があるかどうかという問題を、操作的(オペレーショナル)に、単純な条件付けではなくできているということを示すのは、なかなか難しい問題を含んでいる。その問題を、大きく克服したデザインでメタメモリー(記憶に関するメタ認知)をサルで示した意義は大きい。特に、動物に意識があるのかという問題を考える上で興味深い。
Hampton, R. (2001). Rhesus monkeys know when they remember. PNAS 98, 5359-5362. 
三人目のPeter Carruthersは哲学者だが、認知神経科学的な観点から、メタ認知と「心の理論(theory of mind、他者の内面を推測する能力)」の進化について非常に洞察力に富んだ総論を書いている。とくに、Carruthersの議論をPrecuneusの機能と進化という観点と照らし合わせて読んでいくと、社会性と意識の意外にも密接な関係が見えてくる。それで、この哲学者のアイデアには注目している。
Carruthers, P. (2009). How we know our own minds: the relationship between mindreading and metacognition. Behavioral and Brain sciences 32, 121-138.
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1980年代、アメリカ人神経生理学者リベットは、近代的人間観をぶち壊すような有名な実験結果を発表した。人間は行動を起こすとき、頭頂葉に運動準備電位という活動が起こるが(脳内信号指令)、運動準備電位が起こって0.35秒あとに、行為の意志が意識されることが明らかになった。なんと、行為を意図したあと、運動準備電位が脳で起こるのではないのである。なんと逆なのだ! 前意識的に脳内で行為が準備された0.35秒後に、「行為の意志」が意識されのである。「人間は理性で行為を選択して、それから意志で実行する」という欧米道徳哲学の根本教理を木っ端微塵にする可能性のある結果であった。
 何よりもリベット自身が焦った。幸いリベットの実験結果には、リベットが多少なりとも自分に弁解できる余地があった。実験結果では、行為の意志が意識された0.2秒後に、実際の動作がなされた。そこで彼は、「自由意志とは、0.2秒の間に、意識された意図に拒否権を提出することだ」と解釈したのである。自由意志の範囲はずいぶん狭くなったが、拒否権という形で何とか一命を取りとめたのである。殴るという行為は無意識に脳内で準備される。しかし、それが意識に昇った0.2秒間の間に、人間はそれを拒否する意志を発動できると信じたのである。しかし、後にロンドン大学のベルマンズが指摘するように、「その意志的拒否権とやらも、0.35秒前に脳内で準備されているのではないか」という疑問が浮かぶのも当然であろう。そして、ベルマンズの解釈の方が、圧倒的に説得力を持つのである。

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http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=finding-free-will