“米長さんは「40代半ばのスランプ」のときのことを書いておられます。 「どうしても20代の若い棋士に勝てなくなった」という米長さんは、ある若手に「理由を率直に訊ねてみた」のです。 「先生と指すのは非常に楽です。先生は、この局面になったら、この形になったら、絶対逃さないという得意技、十八番をいくつも持っていますね。でも、こちらのほうも先生の十八番は全部調べて、対策を立てているんです。だから以前には通用しても、もう今は通用しません。しめた、自分のパターンに入った、と先生が思う時を僕らも待っている。それを先生

“米長さんは「40代半ばのスランプ」のときのことを書いておられます。
「どうしても20代の若い棋士に勝てなくなった」という米長さんは、ある若手に「理由を率直に訊ねてみた」のです。
「先生と指すのは非常に楽です。先生は、この局面になったら、この形になったら、絶対逃さないという得意技、十八番をいくつも持っていますね。でも、こちらのほうも先生の十八番は全部調べて、対策を立てているんです。だから以前には通用しても、もう今は通用しません。しめた、自分のパターンに入った、と先生が思う時を僕らも待っている。それを先生はご存知ないものだから、僕らとしてはやりやすいのです。
 優勢だと思っていた局面は、実は私にとって不利な局面だったのである。
 では、私はどうすればいいのだろう。
「自分の得意技を捨てることです」
 と、彼は答えた。なるほど、一理も二理もある意見だ。
 自分の「十八番」だからこそ、「しめた!」と思ってしまうからこそ、ハマってしまう落とし穴。
 40代である僕にとっては、ハッとさせられる話でした。
 年齢とともに、自分の「型」みたいなものができて、それなりの自信もついてくる。
 ところが、その自信が、自分のアップデートを止め、「弱点」を生んでしまう。
 「自分よりも若い人に率直に聞いた」心構えと人脈があればこそ、米長さんはこのことを知ったのですが、これに気づかないまま「なんで自分のやりかたが通用しなくなったんだ?」と悩みつつフェードアウトしていく中年世代は、少なくないはず。”