認知症の対応例

採録

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あるグループホームに入所していた認知症のおじいさんが
自殺をほのめかす言葉を残して、外出しました。
後を追った介護士。
引き留めても感情が高ぶるだけなので、雑談をしながら一緒に歩きました。
歩道橋の上で「ここがいいか」というおじいさんに
「いや、もっと他の場所がいいですよ」。
ビルの屋上に来ると「もっといい場所を探しましょうよ」。
そのうちに、おじいさんは当初の目的を忘れ、介護士と散歩している気分になっていきました。
夕暮れ近く、
おなかがすいたおじいさんは、
目に付いたハンバーガーショップに入りました。
注文をして、
レジの女性に「いくらだ」とポケットから取り出したのは、
くしゃくしゃのティッシュペーパー。
介護士は一瞬、青ざめました。
他人から間違いを指摘されると、
認知症の人は逆上して不安定になることがよくあるからです。
でも、レジの若い女性は落ち着いて、
笑顔でこう答えました。
「申し訳ありません。当店においては現在、
 こちらのお札はご利用できなくなっております」
おじいさんは
「そうか、ここでは、この金は使えんのか」と、
あらためてポケットの小銭を取り出しました。