“ 例えば、片岡はカポーティの『冷血』で、Holcombという集落を、ハルコーム、と訳す。正確さより不吉な感じを出したかったからだそうだが、確かに既訳にある、より原音に近い「ホルカム村」より、「ハルコームの集落」のほうがほうがぐっとくる。鴻巣も別の小説で、原音では「ムサダグ」となるであろう地名を「ムーサダーグ」と訳出したそうだ。 “ 「音引きには、かすかに憧憬の念のようなものをかきたてる働きがある」(鴻巣) 「音引きひとつで、どこかちがう場所、なにかちがうものを、あらわすことができます」(片岡)。

例えば、片岡はカポーティの『冷血』で、Holcombという集落を、ハルコーム、と訳す。正確さより不吉な感じを出したかったからだそうだが、確かに既訳にある、より原音に近い「ホルカム村」より、「ハルコームの集落」のほうがほうがぐっとくる。鴻巣も別の小説で、原音では「ムサダグ」となるであろう地名を「ムーサダーグ」と訳出したそうだ。
「音引きには、かすかに憧憬の念のようなものをかきたてる働きがある」(鴻巣)
「音引きひとつで、どこかちがう場所、なにかちがうものを、あらわすことができます」(片岡)。
音引きにさえ、神経を行き届かせていることにあらためて驚く。