特定秘密保護法案について参考になる意見

参考になる意見
ーーー「この法案を潰せばすべてOK」とか、「この法案を通したら戦前のような治安国家になる」みたいな議論は、あまりにもこの問題を単純化しすぎだと思う。
現在の秘密指定の最も大きな問題は「各行政機関でバラバラな基準」で運用されていることである。また、その「基準」がほとんど表に出ておらず、各機関ごとにブラックボックスになっていることである。特に「検証」というプロセスが欠けているのが致命的な欠陥である。
そもそも、日本の公文書管理は、明治以来の各行政機関の縦割り制度・意識により、各機関の内部でルールが決められていた。統一的な管理基準は存在せず、また各機関内の文書管理もずさんであった。

2011年4月から公文書管理法が施行され、やっと各機関に共通の文書管理ルールが法定化されることになった。文書の作成から保存・整理、そして最終的に永久保存して公開(国立公文書館等へ移管)するか廃棄(内閣総理大臣の承認が必要)するかという、文書のすべてのプロセスが統一的な基準で管理されることになったのである。
ただ、今回の特定秘密保護法案の検討の中で、まだまだ各機関に独自のルールが残っていることが明らかになってきた。それが「秘密の管理」のあり方である。
たとえば、防衛省の「防衛秘密」について。今回の法案をめぐる議論の中で、この「防衛秘密」が非常に問題のある管理が行われてきたことが次々と明らかになってきている。
まず、そもそもこの「防衛秘密」は、先述した公文書管理法の適用を受けていないことが情報公開クリアリングハウスの調査で今回明らかになった。公文書管理法第3条には次の条文がある。
 公文書等の管理については、他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。
この条文は、法案が作成されたときには、刑事訴訟記録のようなすでに特別な管理規定が定められている場合は、管理法の適用外とされるという説明がなされており、「秘密」を管理から外すという説明は全くされていなかった。
しかし、防衛省は自衛隊法施行令にある防衛秘密の管理を定めた規定(113条の2~14)を元に、「特別の定め」があるとして、「防衛秘密」をこっそりと公文書管理法の枠外に置いていた。
公文書管理法は文書管理のプロセスを透明化し、歴史的に重要な文書は最終的には国立公文書館等に移管をされて公開され、きちんと検証の対象とすることを意図したものである。そのプロセスがきちんと行われているかを検証するために、年1回の内閣総理大臣への報告義務や内閣総理大臣の指令による実地調査などが可能とされている。つまり、一義的には各行政機関の長が文書管理に責任は持つが、統一的な基準を適用することが義務づけられ、場合によっては内閣府や国立公文書館によって管理体制をチェックできるという仕組みになっており、恣意的な運用を行えないような歯止めをかけられているのだ。
公文書管理法は、それまでの文書管理の運用が、各行政機関に任せっきりであったために、恣意的な運用で、重要な文書が作られなかったり残されなかったりしたことへの反省から作られたものである。「防衛秘密」がこのプロセスの枠外に置かれたということは、それ以前から行われていた恣意的な運用がそのまま行われ続けたということになる。
10月に入ってからNHKや毎日新聞などが次々と報じていったが、「防衛秘密」は、保存期限が切れた場合、省内で残したものを除き全て廃棄処分されていた。例えば、2007年から2011年の間に、「防衛秘密」に指定されたのは約55,000件、廃棄されたのは約34,300件であり、解除されたのは1件のみ(しかも解除後廃棄)。毎日新聞の10月14日朝刊の記事によれば、2002年に防衛秘密制度が施行されて以後、「防衛秘密」に適用された文書が国立公文書館に移管をされた件数はゼロであるとのこと。つまり、「歴史的に重要か否か」の判断もされず、防衛官僚の判断のみで全てが廃棄されていたのであり、この流れは公文書管理法が施行されても変わらなかったということである。
なお、この「防衛秘密」の恣意的な運用がここまでバレて来なかったのは、これらの情報が情報公開法では突破できないという根本的な問題から来ている。情報公開法には、請求をされても不開示規定にあてはまれば、墨塗りにしたりして見せなくてもよいという条文が存在する。このうち、「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」(第5条第3号)に「防衛秘密」は当てはまるため、請求されてもほぼ無条件で非公開にされてきた。
監視の対象にもならず、検証するプロセスからも外された結果、それ以前の「省内の論理による文書管理」が貫徹され、「必要なくなったら捨てる」=「重要だから国民に公開せずに捨てる」という論理がまかり通ったのである。そこに国民への「説明責任」という発想は全くない。
ちなみに、防衛省や公安調査庁などから国立公文書館に移管された文書の件数は非常に少ない。防衛省からは1971年から2008年の間に移管されたのは6,844件。おそらく重要な情報はほとんど移管されていないと思われる。公安調査庁に至っては、国立公文書館のデジタル目録を見る限りたったの33件。なお、公安調査庁も情報公開法の不開示規定でほぼ全ての文書をカバーできるので、請求しても情報公開されず、公文書館に移管して検証も受けないという、完全なブラックボックス化している(情報公開を請求する人たちも端から諦めて請求をしないので、年間の請求件数が1桁の年もある)。
このように、すでに「秘密」は存在しているし、これらの文書の多くは「検証」の対象にならずに廃棄されているのだ。
今回の特定秘密保護法案では、「特定秘密」の指定を「行政機関の長」のみでできる仕組みとなっており、指定中は「公文書管理法」の適用外になると政府関係者は明言している。一応、廃棄する前には「特定秘密」を解除して、公文書管理法のプロセスに乗せて移管・廃棄を決めるという話を礒崎信輔首相補佐官が10月1日のブログで記載をしているが、これも「全てが解除されるか」を監視することが不可能である以上、果たして機能するかは未知数と言える。
つまりこのままでは、いま防衛省で行われている「防衛秘密」の管理方法が、そのまま「特定秘密」にも適用されることになる。よって、今までの問題のある管理の仕方が法的に追認されることになるのだ。監視も検証も法によって保証されない状態は、上記のことから考えて危険きわまりない。
よって、今回の法案を廃案に追い込めば全てが終わるわけではなく、むしろこういった防衛や公安関係で作られる秘密文書ですらも、きちんとプロセスを監視し、最終的には国立公文書館に移管され、いずれは検証の対象となるような仕組みを作り上げるきっかけにしないといけない。
そのためのルールをどう構築していくかという視点からの議論も必要だと思う。

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ーーー特定秘密保護法案の歴史的経緯
そもそもこの法案はどういう経緯で出てきたのだろうか。民主党政権下の2010年の尖閣ビデオ流出事件からという見方をする方もいるようであるが、2000年前後あたりに話はさかのぼる。
注記;『世界』2013年11月号で山田健太氏の「秘密保護法の何が、なぜ、問題なのか」が、それ以前からの経緯もかなり具体的に論じられているので、それを参照のこと。本ブログでは、2000年前後から具体策が採られるようになってきたと考え、そこから話を組み立てる。
1.前提A:アーミテージ・レポート(2000年)
そもそも秘密保護法制は、米国の要請によって作られようとしていることは疑いない(このあたりは安倍首相や石破幹事長なども明言している)。これ以前からも米国からの要求はおそらくあったであろうが、日本の防衛・外交政策に大きな影響を与えたとされるこのレポートから話を始めてみる。
これは、アーミテージやジョセフ・ナイなどの知日派のメンバーが出したシンクタンクの報告書。アーミテージは後にブッシュ政権の国務次官となり、イラク戦争の時に自衛隊の出動を要請する際に「Boots on the ground」と言ったことで知られる人である。知日派の国防族。
この報告書の「諜報」(Intelligence)の部分に、日米の諜報協力の話が書かれている。そして日米協力を緊密にするためには、日本政府は秘密保護の法律を作るための支持を国民や政治家から得る必要があるということが記載されている(5ページの真ん中の段の下の方)。→翻訳している人がいるのでこちらも参照

B:ボガチョンコフ事件(2000年)
ロシアのスパイに海上自衛隊の幹部が情報を流出していた事件。この事件を受けて、「防衛庁・秘密保全等対策委員会」が「秘密保全体制の見直し・強化について」(2000年10月27日)を報告書として作成した(上記リンクは2006年の政策評価のもの)。
この文書によると、それまでの「秘密」指定は「訓令」によって基準が決められていたようである。また罰則は国家公務員法と同様で懲役1年以下か3万円以下の罰金であった。つまり、もともと「秘密」は存在していたわけだ。
そこには、システム面の改善だけでなく、罰則の強化をすることを検討すると書かれていた。それが9.11事件後に法制度として整備される。

2.自民党政権下での動き(2001~2009年)
A:テロ対策特措法(2001年11月)
米国の世界貿易センタービルへの航空機突入事件などの9.11事件が起きると、日本でもこの対応としてテロ対策特措法が作られた。この際に、自衛隊法の改正が行われ、そこで情報保全隊新設や「防衛秘密」制度が作られた(施行は2002年11月)。
この当時にどのような議論が国会で行われたかはまだ調べていないが、いずれにしろここで「防衛秘密」が作られたのが今回の関連としては重要。この時に自衛隊法第96条の2が新設され、新たに罰則が強化された(懲役5年以下)。
今回の特定秘密保護法案には、この「防衛秘密」がそっくりそのまま含まれている。よって、「防衛秘密」がこれまでどのように扱われてきたのかを考えれば、特定秘密保護法の下で何が行われるのかはおおよそ予測がつくことになる。
2001年4月に情報公開法が施行されていたが、元々防衛関係については、情報公開法第5条第3号で「国の安全が害されるおそれ」のある場合は非公開にできたので、いずれにしろ「防衛秘密」ができる以前から、これらの情報は市民には公開されなかっただろう。

B:「政府機関の情報セキュリティ対策の強化に関する基本方針」及び「政府機関の情報セキュリティ対策における統一基準の策定と運用等に関する指針」(2005年9月)
インターネットの普及による情報セキュリティ対策として、各省庁横断的に対策を取ろうとした方針。情報漏えい対策という意味合いが強い。詳しい経緯は、内閣官房情報セキュリティセンターが書いているのでそちらを参照。

C:「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」(2007年8月)
政府の「カウンターインテリジェンス推進会議」によって出された基本方針。第1次安倍政権の時に作られた。安倍政権が一貫して秘密保全法制に関心を持っていたことがうかがえる。なお基本方針の「概要」しかネット上には上がっていない(どうやら全文は公開されていないとのこと)。
「カウンターインテリジェンス」とは、大辞泉によると「外国の敵意ある情報活動を無効にするための防諜活動。敵国の破壊・怠業活動などの謀略活動から、人・物資・施設を防護するための諸活動を含んでいう。」とのこと。つまりスパイ活動への対抗といったところか。
この時に「特別管理秘密」という制度が新たに作られた。「特別管理秘密」の定義は、「国の行政機関が保有する国の安全、外交上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項であって、公になっていないもののうち、特に秘匿することが必要なものとして当該機関の長が指定したもの」とのことである。なお、「特別管理秘密」を扱う人を限定するために、「秘密取扱者適格性確認制度」がこの時に作られている。
共産党の塩川鉄也議員が2012年10月から11月にこれに関連する質問主意書を提出しており、その答弁が出ている。(質問主意書→答弁→さらに質問主意書→答弁)これによれば、「秘密取扱者」は64,361人(ほとんどが防衛省)。件数も内閣官房で274,191件など、様々な行政機関で「特別管理秘密」の指定がすでに行われている。
職員の「適性評価」がここで事実上行われていること、防衛秘密などが「特定管理秘密」に指定されているなど、今回の秘密保護法案の原案のようなものが、すでに「政府の基本方針」という形で運用されていることが分かる。

D:「官邸における情報機能の強化の方針」(2008年2月):内閣に設置された「情報機能強化検討会議」によって作られた方針。「国家安全保障に関し、官邸司令塔機能の強化が図られる中、官邸における情報機能の強化が急務」として、官邸の情報収集機能をどう改善するかについて作られた方針。この中で、「セキュリティクリアランス制度(秘密取扱者適格性確認制度)」の整備や「秘密保全に関する法制」を作成して罰則を強化することが書かれている。

E:「秘密保全法制の在り方に関する基本的な考え方について(案)」(2008年4月)
Dを受けて2008年4月に設置された「秘密保全法制の在り方に関する検討チーム」によって作られた基本方針案。どうやら、秘密保全法制(秘密保護法)を作ろうとして、関係官僚を集めて方針を考えたようである。
しかし、ほぼ資料が公開されていないし、とりまとめた基本方針も公開されていない。また、これを情報公開請求した情報公開クリアリングハウスがその文書を公開しているが、墨塗りだらけで何を検討しているのかさっぱりわからない。
その後、基本方針案を議論してもらうために、2009年4月から有識者を呼んで「情報保全の在り方に関する有識者会議」が作られた。しかし、政権交代により2回で中断。
なお、この有識者会議、ネット上で公開されている資料と、実際に配布されている資料が異なることが、情報公開クリアリングハウスの調査でわかっている。配付資料は墨塗りだらけで何もわからないが。

3.民主党政権下での動き(2009~2012年)
A:「国際テロ捜査情報流出事件」(2010年10月)と「尖閣衝突ビデオ流出問題」(2010年11月)
民主党に政権交代して秘密保全法制の動きはストップしていたが、それがリバイバルされたのはこの2つの事件がきっかけ。
前者は、警視庁公安部が持っていたテロ捜査情報が、ファイル交換ソフトWinnyによって流出した事件。在日イスラム教徒の協力者や監視対象者の情報が流出したことで知られる。
後者は中国船と海上保安庁の監視船が衝突したときの映像を、海上保安官がYoutubeにアップロードした事件。野党が全ての映像の公開を求めており、政府はそれを拒んでいたいたさなかにおきた事件であり、大きな注目を集めた。
この両方は、情報セキュリティが不徹底であることから起きたと政府は認識した。

B:「政府における情報保全に関する検討委員会」設置(2010年12月)
Aを受けて設置された。ここから自民党政権の置き土産である秘密保全法制の再検討が動き出した。この委員会を受けて、「法制」と「システム」の双方から検討を加える有識者会議として、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」と「情報保全システムに関する有識者会議」が設置された。
発想としては、「法制」は「人」を規制するもの、「システム」は「仕組み」で規制するものと言えるだろうか。

C:「特に機密性の高い情報を取り扱う政府機関の情報保全システムに関し必要と考えられる措置について(報告書公表版)」(2011年7月1日)
「情報保全システムに関する有識者会議」の報告書。内容は情報を漏らさないためのシステムの改善に関するもの。正直素人目に見てもたいしたことが書いているとも思えない。
ただ、「公表版」と書いてあるので、別にもっと詳しい報告書があるものと思われる。システムの具体的な話が書いてあるから公表できなかったのだろうか?

D:「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(2011年8月8日)
「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」による報告書。
この報告書が、現在出ている法案の原案にあたるものと考えて良い。関連資料も充実しているので、興味がある方は目を通しておくと良いと思う。ちなみに、こういう報告書が公表されていることを考えると、やはり民主党の方が情報公開の姿勢は自民党よりはるかにマシだと思える(上記2のE参照)。
少々長いが、なぜ秘密保全法制が必要なのかという目的が書かれているので、全文引用してみる。
 我が国では、外国情報機関等の情報収集活動により、情報が漏えいし、又はそのおそれが生じた事案が従来から発生している。加えて、IT技術やネットワーク社会の進展に伴い、政府の保有する情報がネットワーク上に流出し、極めて短期間に世界規模で広がる事案が発生している。 我が国の利益を守り、国民の安全を確保するためには、政府が保有する重要な情報の漏えいを防止する制度を整備する必要がある。 また、政府の政策判断が適切に行われるためには、政府部内や外国との間での相互信頼に基づく情報共有の促進が不可欠であり、そのためには、秘密保全に関する制度を法的基盤に基づく確固たるものとすることが重要である。 しかし、秘密保全に関する我が国の現行法令をみると、防衛の分野では、自衛隊法上の防衛秘密や、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(以下「MDA 秘密保護法」という。)上の特別防衛秘密に関する保全制度があるが、必ずしも包括的なものではない上、防衛以外の分野ではそのような法律上の制度がない。また、国家公務員法等において一般的な守秘義務が定められているが、秘密の漏えいを防止するための管理に関する規定がない上、守秘義務規定に係る罰則の懲役刑が1年以下とされており、その抑止力も十分とはいえない。 以上のことを踏まえると、国の利益や国民の安全を確保するとともに、政府の秘密保全体制に対する信頼を確保する観点から、政府が保有する特に秘匿を要する情報の漏えいを防止することを目的として、秘密保全法制を早急に整備すべきである。
これを見ると、インターネットの普及に対応できていない状況への対策が主眼であり(だから外国から信頼されない)、漏えいを防止するためには罰則強化をするという方針が明確である。
ただし、これ以上は話が進まず。法制化は棚上げに。東日本大震災があったこともあり、国民から反発を確実に食うであろう政策を進める状況にもなかったのだろう。
そして、これを引き継いだのが第2次安倍内閣ということになる。引き継いだというより、自分たちで検討していたものの続きをやっているということの方が正確であろうが。

さて、ここまでまとめてみたが、正直うんざりしている。というか疲れた。おそらく我慢してここまで読まれた人も「長いよ」と思ったのではないか。
ただ、これを見るとわかるように、特定秘密保護法案はいきなり最近現れた話ではないということだ。そもそもは諜報機関の情報交流をどうするかというアーミテージレポートから始まり、インターネットの急速な普及により諜報情報が漏れる危険性が高まる中で、その対策をあの手この手で政府はやってきた積み重ねの集大成がこの法案なのだ。
その意味で、この法律が防衛省や外務省で無く「内閣情報調査室」が担当していることが、その本質を示唆している。「集団的自衛権行使」との関係で論じられることが多いので、安倍首相の個人的なパーソナリティや尖閣問題などの東アジア情勢の悪化からこの法案が生まれているように見えるが、実際には諜報(インテリジェンス)の問題がメインであることが、この流れで見ていると分かる。そうなると、特定秘密保護法案とセットで議論されている日本版国家安全保障会議(NSC)のねらいも、むしろ公安問題が中心なのだなということが見えてくる。
よって、以後の回で述べることになる監視機能が特定秘密保護法案に無いことが相当にまずいということは、この経緯からうかがえるだろう。
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ーーー監視・検証のしくみ
前回のブログで、「秘密」に対する監視や検証のしくみが法案には存在しないということを指摘した。この機能は「特定秘密」をコントロールするためには絶対に必要な仕組みである。
そもそも「秘密」というものは過剰に設定されるものである。一つを秘密にすれば、関連情報も秘密にしたくなり、次第にふくれあがっていく。なので、それが過剰に設定されないように監視することが必要である。また、「こんなものを秘密に指定していたのか」という検証も必要である。
さらに言えば、「秘密」の管理は「無料ではない」。管理するための特別なシステムや人が必要であり、増えれば増えるほどその管理のコストは膨大にかかっていく。そして秘密指定文書が多くなればなるほど、管理が末端まで行き届かなくなり、結果的に漏えい事件へとつながりやすくなる(米国のスノーデン事件はそういった末端が極秘文書に触れることが可能であったことも一因)。
よって、監視と検証という機能があって、はじめて「秘密」というものはコントロール可能なのだ。
さて、特定秘密保護法案の条文からこの点について確認すると
・「秘密指定」は「行政機関の長」が行う(第3条第1項)・「秘密指定」の期間は5年以内。延長可(第4条第1、2項)
「秘密指定」は「行政機関の長」のみで指定が可能で、延長はいくらでもできるということになる。つまり、監視や検証が保証されていない。これによって恣意的に秘密指定が拡大し、隠される(捨てられる)のではないかとの批判が出た。
こういった批判に対し、政府はいくつかの反論をしている。
A:政権交代があるのだから、政権が代われば「行政機関の長」が指定を見直すこともありうる(安倍首相、10/24参院予算委)
B:30年を経過した後にまで「特定秘密」を続けたい場合は、内閣の承認を得る必要がある(第4条第3項)。政府がどうせ判断するから変わらないとか言われるが、一定の基準を元に内閣官房としっかり協議するから、行政機関の恣意的な判断にはならない(礒崎信輔首相補佐官、10月28日ブログ)
C:「特定秘密」を指定・解除の基準を定めるために、「第三者機関」である有識者会議を首相か官房長官の下に置いて意見を聞く(10月9日の公明党プロジェクトチームで官房が説明→第18条第2項に加わる)。
D:廃棄する前には「特定秘密」を解除して、公文書管理法のプロセスに乗せて移管・廃棄を決めることになる(礒崎信輔首相補佐官が10月1日のブログ)
こういった保証があるから、恣意的な運用は避けられるというのが政府の主張である。
これは国会で実際に首相や担当相に答弁をさせてみないとわからないことも多いが、一つ一つに懸念を示しておきたい。
まずA。確かに政権交代はありうる。民主党政権になった際に、外務省で密約問題の調査が行われて関連文書が公開されたようなことはたしかにある。だが、「特定秘密」に指定される文書は数万件単位で存在する。その一つ一つを政治家がチェックして再指定をするというのは現実的に考えてもありえないだろう。米国のように政治任用の幅が広く、政権交代で官僚がガラッと変わるならまだしも、大臣・副大臣・政務官+αぐらいしか政治任用されない日本においては機能するとは思えない。
次にB。内閣が承認するというのは、公文書管理法における廃棄の際に承認を得る手続きに近いということになるだろうか。ただ、これを機能させるためには「手続き」がどのようなものになるのかが必要。たとえば、一覧表が提出されて、閣議でサックリ決まるというレベルの話なら、ほぼノーチェックになる。
機能させるには、最低限次の仕組みは必要だと考える。
・最長30年で「秘密指定」は自動解除させる。・延長する文書の類型を限定する(暗号などに限る)・延長する際の審査を行う機関を内閣官房とは別に作る。
まず原則解除であることは明確にするべき。あくまでも「延長」が例外であるという規定にしなければならない。また、延長できる書類の類型を限定するべきだろう(読売新聞11月1日夕方ぐらいのニュースでは政府関係者が類型を限定することを検討と報道されていたが)。さらに、審査をする機関をできる限り政府外に置くべき。これはなかなか簡単には行かないだろうが、国立公文書館の拡充化なども図りながら、審査をできる機関自体を作っていくことが必要だろう。
Cについて。指定や解除の手続きをきちんと定めるのは当然必要だが、この「第三者機関」がくせ者。はっきり言うと、政府が言うような「第三者機関」は「無意味」。
「第三者機関」であれば何でもいいというものではない。そもそも、第18条第2項には「我が国の安全保障に関する情報の保護、行政機関等の保有する情報の公開、公文書等の管理等に関し優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない」とあるが、そもそも「聴く」だけなので、「ご意見頂戴」のみでいい。これはなんら抑止力になってない。
監視するための第三者機関を作るのであれば、最低限、公文書管理法における公文書管理委員会レベルの権限は必要。委員会を法定で置く。法律で権限を決める。たとえば、監査や国民からの不服申立の審査などの権限を与える。法律・ガイドラインなどを変える際には「諮問」しなければならないとし、事実上の「承認」が必要にする。委員は内閣総理大臣の直接指名ないしは国会同意人事にするなど。
もちろんこれで監視しきれるのかと言えば疑問がある(数人の有識者でどうにかなるものでもないだろう)。本来は、米国のような強力な監視機関(大統領直轄の国立公文書館情報保全監察局)のようなものを作らないといけない。だが、すぐには作れないだろうから、最低限、第三者機関である有識者会議を常設することが必要だろう。
こういった監視機能も法定で付けて、始めて「第三者機関」というのは意味があるのであって、政府が好きな人を選んで「ご意見頂戴」する第三者機関なんてほぼ存在価値がない。政府のやっていることにお墨付きを与えるだけだ。
Dについて。これは、「特定秘密」の元ネタになっている「防衛秘密」が、公文書管理法の枠外に置かれて廃棄されていたことへの回答という形になっている。もちろん、「すべて」が公文書管理法に基づいて移管・廃棄の判断をされるというのであれば、それは現在の制度では最善だと思う。
ただ、そもそも公文書管理法から外れている「特定秘密」に指定されている間に、こっそり捨てられたりしないのか。ちなみに、内閣情報調査室の橋場健参事官は「廃棄されたことは公表しません」と10月21日の野党議員への説明で明言している(毎日新聞10/28朝刊)。つまり、こっそり捨てる気満々である。つまり、礒崎補佐官の言っていることにはなんら根拠が存在しない。
Cでも述べたように、「特定秘密」に指定されている間に、その文書管理を監視する機関がどこかになければ、闇から闇へ葬られても誰も気づけない。「特定秘密」を解除しましたと言われても、それが「すべて」であるかは外部の人には誰もわからないのだ。「特定秘密」に指定したことが「秘密」なのだから。
管理するルールが透明化されていなければ、官僚組織は組織防衛のために必ず文書を捨てる。先輩達が責められないように。また、重要かどうかは「その機関にとって必要か否か」で判断され、不要と思われた文書は悪意とは関係なく機械的に捨てられる。
そのような文化で日本の官僚組織はずっと動いてきた。その文化を変えようとして作られた公文書管理法は、まだ施行されて2年半しか経っておらず、文化を変えるには時間が足りてない。
国民のために文書をきちんと作成して残す。いずれは公開して検証に資するという考え方は、「監視」とセットでない限り、絶対に機能しない。監視機能があるというだけで、少なくともにらみを利かせることができるのだ。

以上、政府のAからDの「大丈夫」と言うところの根拠に全て反論してきた。つまり、政府の言っていることでは、「特定秘密」を監視し、いずれは検証するということは全く保証できていない。首相や担当相に保証させる答弁を求めることは必要だが、これだけでは拘束力は存在しない。法制度として組み込まない限り、監視や検証は機能しない。
強力で独立した第三者機関による監視、「特定秘密」の自動解除、「特定秘密に指定されていた」ことを明示した上での移管・廃棄の審査を行える仕組み(他の文書と混ぜられるとわからなくなる)。このあたりは法律に最低限組み込んでほしいと思う。

公文書管理制度との関係はこれでおおよそ語り尽くしたと思います。あと1回で民主党が提出した情報公開法改正案について論じて、とりあえず連載を終えます。
追記本文中にうまくはめ込めなかったので、一つだけ。
政府関係者だけでなく、この法案に反対している人も、「特定秘密」が解除されたら「即座に全て情報が公開される」と思いこんでいる人が多いような気がしてならない。「特定秘密」が解除されたからといって、それが「即公開」になるとは限らない。例えば、ある種の個人情報(情報提供の協力者の名前など)のたぐいなどはこれにあたるだろう。
「特定秘密」を解除されても、当分の間は「非公開」になる情報はたくさんある。原則は30年公開であっても、センシティブな問題は、たとえば50年とか70年とかといった閲覧制限をかけることはありうる(これは米国など他国でも当然行っている)。
だけれども、永久に非公開になることがない、というのが「検証」という制度の意味である。いずれは公開されて歴史研究者などによる一次資料として使われるようになるということなのだ。
「国立公文書館に移管したらすぐに全て公開される(する)」と勘違いされてないだろうか。それが、文書の大量廃棄などにつながっているように思える。
この認識を変えさせることも重要なことだと改めて感じている。 

2013-12-05 00:20