小泉元首相の原発ゼロ発言をいかにとらえるのか

採録
ーーーー

小泉元首相の原発ゼロ発言をいかにとらえるのか、今回は、小泉元首相が、なぜ今、原発ゼロを言い出したのか、またそれはどのような意味を持つのかの分析を行いたいと思います。ネットを検索すると、幾人かの方が、小泉原発ゼロ宣言の背景を鋭く分析しています。それぞれに参考になりましたが、僕が一番、すっと共感できたのは、山本太郎さんの次の言葉でした。
*****
「小泉さんの『原発ゼロ』提言が本物であるかどうかは、有権者である国民が、しっかりとチェックする必要があります。小泉さんには、いま実際に被災地が直面する被曝の問題についても聞いてみたいですね。『脱原発』は発言できても『脱被曝』は口にしていない。いまも、高線量の地域なのにもかかわらず、安全といわれて暮らしている方々がいる。子供たちの避難、避難の権利についてはどう思うのか、小泉さんに問いかけたい。本当に脱原発を考えているかどうかの『踏み絵』を踏ませることになります。地震大国である日本が、原発による発電を放棄しなければならないことは明らかなことです。脱原発は、当然の政策です。その意味で、小泉さんは当たり前のことしか言っていません。小泉さんの提言については、喜ばしいことと思うのと同時に、懐疑的な見方もしてしまいます」。
「現在の安倍政権は極右政権であるばかりか、原発再稼働というとんでもない道に日本を導こうとしている。そんな中で、小泉さんは、自民党の中にもブレーキがあるというアピールをしているように思えます。また、政権にしてみれば、自民党に対して直接的な影響力を持たない小泉さんが『原発ゼロ』を宣言したところで、マイナスはない。これから消費税増税がはじまり、政権の足元は揺らぐ。そうだとしたら、次に選挙になったときに、自民党の中で票を逃がさないための求心力が必要とされるわけです。自民党内に『脱原発』という動きがあることをアピールしておくために、小泉さんの提言は絶妙のタイミングだった」。
「現代ビジネス 経済の死角」よりhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/37434?page=4
*****
僕も一番強く感じたのはこの点でした。小泉元首相は、民衆の動向に敏感で、なおかつそれを自分の政治路線に取り込む手腕が高い方です。ようするに稀代のペテン師です。その「手腕」で日本の社会保障制度も壊してしまったし、大量殺戮を伴うイラク戦争に自衛隊を出してしまいながらなんらの責任も問われずにいます。その小泉氏が着目しているのは、何よりも「高支持率」と言われてきた安倍・自民党政権の危うさと、民衆の中で育つ、脱原発の意志の強固さだと思うのです。実際、つい先日も小泉氏は安倍首相と同席しましたが、原発問題には触れませんでした。秘密保護法の強引な可決で、安倍内閣の支持率が急落したために、原発問題でさらに窮地に立たせることを避けたかったのではないかと思われます。
小泉氏から見て、安倍政権はどのような危うさを持っているのでしょうか。一つには安倍首相が、何らかの理念で民衆の支持を得ているわけではなく、「アベノミックス」による「景気回復」で、支持率を獲得してきたことです。また旧民主党政権へのかなり深い失望感が支持を押し上げもした。いわばライバルのエラーで得をしたようなもので、安倍氏自身が、民衆の心をつかんで支持を押し上げたわけではありません。しかも安倍氏は、東京オリンピック招致発言に見られるような嘘を平気で言う人物です。根本的に人を説得して信用を得ようとする姿勢や資質がありません。こうした嘘をついてもまだ「支持」が持続したのは、東京オリンピックにおける経済効果などが期待されているからにすぎないでしょう。
アベノミクスとは、これまでの常識を逸脱したような極端な金融緩和を行い、投資家の期待感をあおり、為替を円安に誘導することを基軸としています。そうなれば当然、輸出企業の利益が拡大し、株価が上昇するので「経済成長」を演出できます。インフレを誘導する単純なバブル政策ですが、しかし金融緩和が、実態としての経済を成長させているわけではありません。期待感をあおることでの円安が基軸ですから、反対にいつ期待感がしぼんでしまうか分からない。つまりアベノミクスは、いつ崩壊するかわからないしろものなのです。そうなると表面化するのは、日本経済の実際の問題としての、分配の不平等性の著しい拡大という現実です。端的に企業は儲かっても、大多数の民衆の生活は良くなってなどいない。若者の多くがワーキングプアで、仕事探しも難しい状態です。来年の消費税アップや、TPPによってさらに民衆の生活は悪くなろうとしています。
アベノミクスへの幻想が消えて、この点がクローズアップされてくると、実は困るのは小泉氏本人でもあります。分配の不平等性の著しい拡大は、安倍氏よりも、むしろ小泉元首相の下でこそ拡大したのだからです。このために安倍自民党は、弱肉強食の市場論理を推し進めるTPPに一度は反対の姿勢をにじませたほどでした。小泉政権のもとでの施策が何をもたらしたのかが次第に明らかになりだす中でのことでした。その点で、小泉氏が見ているのは、実は現在の自民党や安倍氏の人気よりも、根本的には、小泉政権に対する歴史評価がどうなるのかという点でもあるようにも思えます。好景気観が消え去り、人々の経済的苦境が際立ってくるにしたがって、問題は小泉政権にあったことが見えてきてしまう。というか、そこが見えるようになることこそ、民衆の覚醒です。小泉氏はこの点を恐れているのではないでしょうか。
とくにイラク戦争については、あやまりがはっきりしていて、イギリスではブレア元首相が何度も議会での追求を受けています。ブッシュ政権の元ブレーンたちも社会的信用を失っています。小泉氏の盟友はあのときのみんな失墜しているのです。しかもイラクはその後も政治的に安定していない。イスラム圏でのアメリカへの怒りはますます高まるばかりであり、戦争犯罪としてのイラク戦争への追及も今後、さらに行われていく可能性があります。こうした海外事情を小泉氏が知らないはずがありません。つまり小泉氏は、いつどこで自分が批判にさらされるかもしれない危うい位置に自分自身が立っていることを熟知していると思われます。しかも原発政策についても小泉政権は強烈に推進したのですから、福島原発事故以降のムーブメントもが自分に向きかねない恐れがある。そのために先に防御を施すこと、先手を打って、攻撃をかわし、「味方」を増やすことを考えたのではないか。
そのために小泉氏は、現在の自民党が、嫌われないための手を打ってきた。山本太郎さんが「小泉さんは、自民党の中にもブレーキがあるというアピールをしているように思えます」と書いた点です。さらに僕は、その貴重なブレーキが自分なのだと強調することで、小泉氏は、安倍政権への批判が歴史を遡り、自分に波及することをも防ごうとしていると分析したわけですが、そのことの象徴が、「原発ゼロ」を「郵政民営化」になぞらえている点ではないでしょうか。安倍氏に対しても、民衆の変革への希望を上から吸収してしまうこと、民衆が自ら変革の道を歩まないようにすることこそ、首相として最も大事なことなのだという「教え」を行っているのだと思えます。民衆の動向に敏感な小泉氏は、民衆がまだ覚醒仕切らない今だからこそ、何らかの手段で、民衆のエネルギーを取り込めると考え、それが野党をも出し抜くような「原発ゼロ発言」に集約されたのではないかと僕には思えます。
以上はあくまでも推論の領域になりますが、小泉氏の真意がどこにあるにせよ、彼の原発ゼロ宣言は、どのような政治的位置性を持っているかをしっかりと見ておくことが大切だと思います。前回、僕は小泉氏の発言を安易に評価してはならないと書きましたが、原発ゼロ宣言で小泉「人気」が維持されたり、再燃してしまえば、郵政民営化をはじめ彼の行った民衆を苦しめるさまざまな政策への批判がまたも曇らされてしまいます。いわんや、秘密保護法反対の運動が、安倍自民党政権退陣へと大きく発展するや否や、これを切り崩し、取り込むために、現政権が電撃的に脱原発への転換をうたいだした場合、最も危険な状態が生まれます。実際には脱原発といっても、何十年かかけてという話にすれば、野党の吸収も可能であり、その間の再稼働も、野党多数の合意のもとに可能にする道も開きうるのです。
最悪のシナリオは、安倍政権が脱原発への転換のもとで支持率を回復し、秘密保護法をはじめとした戦争政策をどんどん推し進めることです。現状ではそのような流れになる可能性はまだそれほど多くはないかもしれませんが、脱原発勢力が「小泉発言を利用するのだ」とばかりに、小泉元首相を押し立てる形で脱原発運動を進めていけば「小泉氏に説得されて自民党が脱原発にかわる」可能性は拡大します。何より民衆の力がそれを後押しすることになりかねない。そうなると、何十年後かの原発の廃止という、実現されるかもどうかも分からない公約と引き換えに、民衆の側は、TPPなどの新自由主義政策の強化や、自衛隊のアメリカの属国軍化への抵抗力も失ってしまいかねない。だからこそ、小泉元首相の原発ゼロ宣言に私たちは絶対に乗らず、むしろ小泉政権のさまざまなあやまりの追及を行うべきなのです。
繰り返しますが、私たちは今、覚醒を推し進めなければなりません。その重要な一つの柱が、小泉劇場政治に民衆の多くも踊らされてしまい、日本の中でイラク戦争反対の大きな運動を起こせなかったことの反省です。小泉政権のもとで、社会保障制度がどんどん切り崩され、経済格差が開いてしまったのに、それを見据えた大きな抵抗運動を作れなかったことへの反省です。総じて小泉氏によって民衆の多くが騙されてきたことに気づくことが最も大切です。僕もそのために、さらに新自由主義への批判を強めていこうと思います。
2014-02-17 04:00