メンタライゼーション・ハンドブック

メンタライゼーション・ハンドブック

メンタライゼーション・ハンドブック

●メンタライゼーション・ハンドブック

MBTの基礎と臨床

 
監修者まえがき
 編者について
 寄稿者一覧
 スーザン・W・コーツによる序文
 ジョン・G・アレンとピーター・フォナギーによる前書き
第1部:概念的および臨床的基盤
 第1章 メンタライジングの実践(ジョン・G・アレン)
 第2章 精神分析的視座からみたメンタライジング:どこが新しいのか?(ジェレミー・ホームズ)
第2部:発達論的精神病理
 第3章 社会発達に対するメンタライゼーションに焦点付けたアプローチ(ピーター・フォナギー)
 第4章 児童の障害におけるメンタライジングの問題(カーラ・シャープ)
 第5章 外傷を受けた境界パーソナリティ障害患者におけるメンタライジングと内的対象関係に関する神経生物学的視(グレン・O・ギャバード,リサ・A・ミラー,メリッサ・マルティネス)
第3部:既存の治療にメンタライジングを組み込む
 第6章 メンタライゼーションに基づく治療と伝統的な精神療法とを統合することで,共通点を求め,行動主体を促進する(リチャード・L・ミューニック)
 第7章 認知行動療法がメンタライジングを促進する(スロースター・ビョーグヴィンソン,ジョン・ハート)
 第8章 弁証法的行動療法スキルトレーニングと肯定心理学を通してメンタライジング能力を強化する(リサ・ルイス)
第4部:メンタライゼーションに基づく療法
 第9章 メンタライジングと境界パーソナリティ障害(アンソニー・ベイトマン,ピーター・フォナギー)
 第10章 短期メンタライゼーションおよび関係療法(SMART):児童と青年に対する統合的家族療法(パスコ・フィーロン,メアリー・タルジェ,ジョン・サージェント,ローレル・L・ウィリアムズ,ジャクリーヌ・マクレガー,エフライン・ブライバーグ,ピーター・フォナギー)
 第11章 メンタライゼーションに基づく療法における精神科レジデントの訓練(ローレル・L・ウィリアムズ,ピーター・フォナギー,メアリー・タルジェ,パスコ・フィーロン,ジョン・サージェント,エフライン・ブライバーグ,ジャクリーヌ・マクレガー)
 第12章 危機にある専門家の治療:メンタライゼーションに基づく特別入院プログラム(エフライン・ブライバーグ)
 第13章 心理教育を通してメンタライジングを強化する(G・トビアス・G・ハスラム=ホプウッド,ジョン・G・アレン,エイプリル・スタイン,エフライン・ブライバーグ)
第5部:予  防
 第14章 赤ん坊にこころを向ける:メンタライゼーションに基づく養育プログラム(ロイス・S・サドラー,アリエッタ・スレイド,リンダ・C・メイエス)
 第15章 暴力的な社会システムを非暴力的なメンタライジング・システムへと変形すること:学校における実験(ステュアート・W・トウェムロー,ピーター・フォナギー)
 第16章 メンタライジングは回復弾性を促進するのか?(ヘレン・スタイン)
 終章 メンタライゼーションについて考える(ロバート・ミッチェル)
 訳者あとがき
 索引
 
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ジョン・G・アレン:メニンガークリニック上席心理士,ベイラー医科大学精神保健調査研究のヘレン・マーサン・パレイ講座長,メニンガー精神医学および行動科学部門の精神科教授。
ピーター・フォナギー:ロンドン大学フロイト記念精神分析講座教授,臨床保健心理学関連部門長,アンナ・フロイトセンター
所長。著書に『メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害』など。
狩野力八郎:東京国際大学大学院臨床心理学研究科教授。著訳書に『メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害』(監訳,岩崎学術出版社)『方法としての治療構造論』(金剛出版)など。
池田暁史:杏林大学医学部精神神経科学教室助教。著訳書に『自我心理学の新展開』(分担執筆,ぎょうせい)『メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害』(分担訳,岩崎学術出版社)など。
訳者あとがきより抜粋● 
 メンタライゼーションとは,本書の編者の一人でもあるピーター・フォナギーらが1990年代に提出した概念である。フォナギーの表現を借りて一言でいえば,それは「こころの中にこころを保持すること」となる。つまり,自分や他者を感情や信念,ニーズ,欲望といったこころを備えた存在として捉えることであり,われわれの行為をそうしたこころの状態と関連付けて理解しようとする能力のことである。
 フォナギーは,精神分析諸学派の理論を積極的に取り入れ,さらに精神分析の枠を超え,愛着理論,認知科学,認知哲学,進化生物学,そして脳の機能画像研究のような神経科学までをもその理論に含み込んだ。こうしてメンタライゼーション理論は,「知の多面的(マルティプル)インターフェイス」としての機能を担うに至ったのである。
 本書では,ロンドン・グループとメニンガークリニックを中心とする臨床家・研究者たちによって,基礎理論から,臨床実践,さらには精神保健の領域に至るまで,それぞれの専門領域からメンタライゼーション理論とそれに基づく治療とが解説されている。特筆すべきは,「メンタライゼーション」あるいは「メンタライジング」の向上という視点で考えると,精神分析的精神療法,認知行動療法や弁証法的行動療法など,各種精神療法に共通する作用機序を検討できるという点にある。これはすなわち,メンタライゼーション能力を向上させるという観点から精神療法的働きかけができるようになることが,学派を問わず精神療法家のミニマム・リクイアメントとなる可能性を秘めているということを意味する。
 本書のもうひとつの特筆点は,メンタライジング能力の欠如という観点から,境界パーソナリティ障害と,自閉症などの発達障害とに共通する精神病理を探究することができるという点にある。もちろんこれは,パーソナリティ障害や神経症の患者におけるメンタライジングと,発達障害におけるメンタライジングを同一のものとして捉えることができるということを主張するものではない。両者の質の異同については現状では多くの曖昧さが残る。ただし,器質的なものから心理的なものまでメンタライジングを一連のスペクトラムで考えるという視点は,その曖昧性を自覚してさえいれば,大きな豊穣性をももたらしうる,と私は考えている。
 本書は扱う対象疾患も,治療の手法も多岐にわたっており,まさに「知の多面的(マルティプル)インターフェイス」としてのメンタライゼーションに相応しい内容となっている。基礎から臨床まで内容が多岐にわたっているので,本書で初めてメンタライゼーションに触れる読者にも,既に一通りの知識を身につけた読者にも,なにかしら役立つ内容を含んでいるものと思う。