Current Psychotherapies 9th 2011

Current Psychotherapies 9th 2011
という大学初年程度の人用の教科書

こういう教科書は年寄りが読むと大変面白い

各章は
概説
歴史
人格理論
精神療法
応用
ケース
要約
文献
ケース読み物
と全く同じ構成になっていて
比較検討がしやすくなっている

第一章は序論で21世紀の精神療法を論じている
精神療法の科学としての進化を論じ
生物学的精神医学との接点を論じる
Organicists and Dynamicists などというチャーミングなタイトルもある
アートとしての精神療法と科学としての精神療法の対比はいつも面白い

私は個人的には
精神療法のマニュアル化は矛盾した話で
精神療法はいつでもクリエイティブで一回限りでジャズの即興演奏のようなもので
流れ去るものでしかしインスピレーションに打たれた時の感覚はずっと残る感じがする

古武道の達人には必殺技もないし得意の型もない
自分の特性よりも相手の特性を利用したほうがいい

マニュアルでは何回目に何を言うとか用意されているのだが
そんなものは精神療法とは言えないだろう

俳句を作る時だって思いつきがあるものだ
思いつきのない精神療法のなんと多いことか

第二章はフロイトの精神分析の話をなんとLuborskyが語る
すばらしい
フロイトの思考の発展をたどりつつ要約し
自分の得意のCCRT(Core Conflictual Relationship Method)を語る
達人の筆というものは鮮やかなものだと思う

第三章はアドラー Mosac and Maniacci という人が書いている
アドラーとフロイト、ロジャース、エリス、認知療法などとの関係を述べて
なんとなくきちんとした厳しい人なんだろうなあという印象を受ける
少なくとも何回で治療が終わるとかそんなことをいいそうな人ではない
 
第四章はユング Douglasが書いている
独自の用語がたくさんあり、由来の説明も長い
アートセラピー関係とかこどもの治療とか
いやはやユング的だけれどユングにしては普通の服を着ている感じだ

第五章はクライエント中心療法 Rogersが書いている
圧巻であり壮観 馴染みの用語がきれいに解説されている
Common factors について解説

第六章はEllisの書いたRational Emotive Behavior Therapy
いいですねえ

第七章は行動療法で パブロフ、スキナー、Wolp、Banduraとならんでいて、Wilsonが書いている
DBTとかACTもこの中で説明されている
かなり親切。このあたり行動療法の自信を感じる。

第八章は認知療法 Beckが書いている
ありがたいような感じがする

第九章は実存精神療法 Yalomが書いて、Rollo Mayとかの写真が載っている
重い言葉が並んでいるな

第十章 ゲシュタルトセラピー Fritz Perlsの写真 Yontef が書いている
まあ、わかるけれど、今となっては、必要部分を認知行動療法に統合すればそれでいいだろうとか思わないでもない

第十一章 interpersomal therapy Weissmanが書いている
このあたりからtime-limited symptom-focused therapy などと宣言するようになる。
最近の保険制度と密接に絡んでの治療の設定になっている。
精神療法は最近のものになるほど「誰でもできるマニュアル」になっているようだ。
Ugandaでの活動が報告されている。

高度な教育が困難でしかし医療技術者を早く用意したい場合にはいいのかもしれない。

第十二章 Family Therapy  :Goldberg という名前の人が三人も並んでいて、歌舞伎の中村屋のようだ
システム論、Cybernetic 理論など他にはない項目がある。
ベルタランフィとか紹介して、あとはいろいろなファミリーセラピーが並んでいる。
すごいものだ。確かに明確に他にはない要素がある。

第十三章 Contemplative psychotherapy  瞑想というのかな 鎌倉の大仏の写真が載っている
筆者はRoger Walsh。文献にはShapiroのmeditationなど
spiritualityとか
Ken WilberのNo boundaryが紹介されている。トランスパーソナルとか、そのあたりはこの項目で扱っているようだ。
ストレス軽減のために瞑想を使う人たち。仏教やヨガの伝統。
この章ではケン・ウィルバーの引用でも分かるように、各精神療法を分類して位置づけているようだ。
この本全体の編集者としては思い切ったことは言えないのだと思うが、Walshさんならば比較的自由に評価できるのだろう。
精神療法の非特異的因子に言及してSupershrinksとPsedoshrinksの説明をしている。
説明は昔の瞑想ではなく21世紀の瞑想を語っているようだ。
マインドフルネスなどもここで言及されている。

第十四章 Integrative psychotherapies   by Narcross and Beutler
沢山の心理療法があって、それぞれ自分がいいと言っている場合、
当然のことながら、理性のある人たちは、どの治療法をどの患者さんに、どの場合に
使ったらよいのだろうかと考える。
単純にどの治療法が一番良いとか何にでも効くと考える人はいないだろう。
そのあたりを考えて書かれているようである。
半分は精神療法の有効成分についての一般的な議論、半分は各種精神療法の折衷的活用を述べている。
transtheoretical modelの紹介などがあり
ケン・ウィルバーの観点などと共通するところもありそうに思われる。

第十五章 Multicultural theories of psychiatry by Comas-Dias
確かに現代の状況では他文化接触の頻繁に発生する状況の中で今まで考えなかったことも
考える必要がある
文化そのものが変化するし成長もする
日本語とかアメリカ文化のたこつぼの中にいるのでは分からない感覚があり
それは案外大事な認識だと思う
中国の奥地では幻聴は幻聴ではないだろうし
躁状態はむしろ神聖なものかもしれないし
そのことを考えれば
今我々が常識と思っていることが
1000年後の人々にとってどう思われるかなどと思うときに
他文化精神医学は役に立つ
自己の相対化

第十六章 未来の展望 
最後はモザイクのように話題を集めた部分
メンタルヘルスに関わる労働力の問題
医師と心理の連携、薬剤と精神療法の関係
代替医学の問題
インターネットや携帯やpcの問題
治療者と患者の関係のあり方

そのあとで

用語集

人名索引

事柄索引

で誠に充実

認知行動をベック、ほか、ロジャース、エリスなど創始者本人が学生に語りかけるので
これは価値があると思う。

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同時に思うのだが
日本でも「なんとか療法」と看板を出して何かしているとして
それが本当に「なんとか療法」なのか、場末の日本で無批判に勝手にアレンジされたものなのか
だれにも判別できないだろう
なにしろ密室の行為である。
そのような危なっかしいものが危なっかしい人たちの商売の道具になっている
そしてそれを誰もとがめないのも不思議なものだと思う

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これで読む限り、日本とかアジアでの精神療法の伝統はどうなんだろうと
考えた
必要ないのだろうか

おおむねを言えば、貧しくて集団互助の精神が強い地域では米国におけるよりも
精神病は軽く済むという話もある

ついでに言うと、ブラックとヒスパニックはホワイトの3倍、統合失調症と診断されるのだそうだ。
もちろん正式の統計では人種差はないにもかかわらずである。

さらについでにいうと
アメリカのホワイト女性はブラックとヒスパニック女性に比較して3倍自殺しやすいのだそうだ。
血縁の助け合いとかその他の社会的つながりが有効らしいと言われている