第13章 受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD)

第13章 受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD) 
ポイント・受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD)患者は不機嫌で不満そうにしている。・仕事や社会的義務に関して受動的に抵抗する。・権威を批判し軽蔑し反抗する。
なぜ私が仕事をしなければならないの?—-受動攻撃性パーソナリティ障害患者
受動攻撃性パーソナリティ障害(PAPD)の人は仕事や社交で否定的で受動的である。周囲の人は彼と交流するのがかなり大変だとすぐに分かる。彼は無意識に敵意を感じており、その敵意を直接に表現できないので、受動的に抵抗している。PAPD患者はグズグズと物事を先延ばしにし、抵抗し、言い訳をし、総じて自分を変えることがない。彼らは何が必要で何が欲しいのか他人にはっきり言えない。人々は彼らがあたかも他人を罰しているか、操作しているかのように感じる。しかし彼らは単に依存的で、そのせいで損をしているだけである。PAPD患者は多くの人に誤解されていると感じて不満をもらす。治療に当たる医師は忍耐強く彼らの否定的な物の見方を理解しようとしなければならない。そして治療同盟が形成されたら、そのあとで、医師は患者が「本当はどんなに怒っているか」を指摘するといいかもしれない。PAPD患者は怒りを直接に表現するように勇気づけられるが、それは彼らには非常に困難なことだ。子供の時に彼らは怒りを直接に表現して罰せられたと考えられるが、しかし今はそれこそが彼らに必要なことだ。もし医師が彼らの要求を満たしてしまったら患者は何も学ばない。かと言って拒絶すると、やっぱり!ということでPAPD患者は他人への非難を始めてしまう。絶妙なバランスが必要であり、治療者は支持的でなければならないが甘やかしてはならない。
怒りを感じる→要求する→拒絶される→やっぱり!どうせダメなんだ・他人を非難→非難して文句をつける人という立場で安定する→社会的経済的に行き詰まるがそれでも非難しているだけの人生を選びとる というプロセスから怒りを感じる→要求する→拒絶される→現実的に対処するというプロセスに転換しなければならない。医師が要求を拒絶しないとこのプロセスの練習にならない。拒絶されても、受動攻撃的にならず、適応的に対処することが練習になる。
(キング牧師とかの非暴力的抵抗はこれとどう違うんでしょう?)
キーポイントPAPDの患者は依存と独立という、反対の、葛藤する要求を持っている。
他者に依存しようとする一方で独立の欲求があるので、その結果として、どちらにも動けなくなる。生育の過程で、PAPD患者は怒りを抑圧し活動欲求を抑圧することを学んだ。長年活発な攻撃性を閉じ込めてきたので、それを解放することは簡単ではない。権威への反抗はPAPDに典型的な症状である。権威と問題なくうまくやっている同僚への羨望や非難が伴っているのだろう。PAPD患者は常に失望していて人を非難している。
症例スケッチ
ジャンは25年間郵便局員として働いてきた。彼女は自分が仕事がうまくできないと思った時にはいつも、自分にはもっと重要な仕事がふさわしいのに、環境の犠牲になっているのだと自分に言い聞かせた。彼女はシングルマザーの子として生まれ、貧しく、母親は彼女を虐待し、高校を卒業させてもらえなかった。郵便局では客に、ジャンはフロアーで一番遅くてダメな職員だと思われていた。上司が何回叱ってもグズグズしているだけだった。職を失う危険があることは承知していた。客たちが一日中何かと要求するのでジャンは頭にきた。怒りを直接には表現しないで、外見を取り繕い、通常業務に対して受動的に抵抗した。誰か客が郵便局の窓で呼んでいたら、彼女はわざと無視して数分待たせて、書類を整理したりコーヒーを一口ずつ飲んだりした。やっと客の差し出した荷物や手紙を受け取ると、ぞんざいにつかんで秤に放り投げ、顔をしかめる。ジャンは客をいらいらさせるのが好きだった。同僚に何か頼まれると不機嫌になり言い訳をした。敵意のある反抗的態度をとったあとで悔い改める様子だった。同僚の窓口に行くとしても遅れるのがしばしばで、必要な書類を間違って置いた。ジャンはすぐに権威を批判して、自分よりも幸運だと思う人に対しての批判を声に出していた。
ディスカッション
ジャンは明白にPAPDを持っていた。彼女の否定的態度と受動的抵抗は彼女自身にとっても職場にとっても有害だった。ジャンは自分には能動的に行動する力がないと思っていたので受動的な行動をとった。PAPD患者が治療を求めて医師を訪れることはめったにない。むしろ彼らはぐずぐず延期するのに忙しいのだ。不満を言い、抵抗し、非難する。ジャンのケースで言えば、息子がクラック麻薬をやってリハビリを受ける必要があり、そのことで彼女は結局治療者に会うことになった。息子はジャンが支持的である限りは薬物をやめると約束したが、シャンはそれを取引されているようで不愉快に感じた。息子の精神科医はNA(ナルコーティック・アノニマス:薬物中毒者の匿名会)に出席するように二人に勧めた。ジャンが出席したところ、カウンセラーは彼女に、息子の薬物乱用への怒りを表現して良いのだと勇気づけられた。通常、彼女にはそのようなことはできないのだが、そのときは突然激しい怒りを爆発させることができたので自分でも驚いた。ときにPAPD患者は適切に行動するとこができるし、適切に怒る事もできる。特に家族を助けるときにはそれができる。
キーポイントPAPD患者は失敗を他人のせいにして、いつも不平を言っている。
彼らは失敗を他人のせいにして、責任を取らない。権威者は容易にスケープゴートにされてしまう。個人的な不運について不満を述べ、他の人ならばもっとずっとうまくできていただろうと考える。彼らはアンビバレントである。彼らは表面的には空威張りをしているが、内面では全く自信がない。彼らはどうせ自分はうまくいくことなんかないんだと思っている敗北主義者なので、周囲の人は彼らをよく思わないし嫌うようになるだろう。
子供時代に彼らは反抗挑戦性障害(Oppositional Defiant Disorder)だったかもしれない。PAPDは大人になってから、性格傾向が柔軟性に欠け、不適応である場合に診断される。PAPDは現時点では特定不能のパーソナリティ障害(PDNOS)と考えられている。
彼らに大うつ病がある場合には抗うつ薬が処方されることもある。もちろん、薬剤は否定的思考のパターンをなくしてしまうものではない。認知行動療法が有効な場合がある。

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全般に、社会的、職業的に適切に行動する要請に対する受動的な抵抗パターンで、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち、少なくとも5つによって示される。

  1. 引き伸ばし、すなわち、しなければならないことを延期し、期限に間に合わない。
  2. やりたくないことをするよう言われた時、不機嫌、易怒的または理屈っぽくなる。
  3. 本当はしたくないような仕事には故意にゆっくり働いたり、悪い出来になるようにみせる。
  4. 正当な理由も無く、他人が自分に不合理な要求をするなどと主張する。
  5. 「忘れていた」と主張することで義務をまのがれる。
  6. 自分のやっていることについて、他人が思っているより、ずっとうまくやっていると考えている。
  7. どうしたらもっと能率よくなるかについて、他人の役に立つ示唆をいやがる。
  8. 自分の仕事の分担をやらないことで、他の人達の功績の邪魔をする。
  9. 権威ある地位の人々に対して、理由なく批判的または軽蔑的である。

2013-03-27 19:49