抗菌薬の使い方が問題

採録

マクロライド系、第三世代セフェム系、ニューキノロン系の3つの抗菌薬の使い方が問題です。いずれも抗菌スペクトルが広く、「何にでも使いやすい薬」として認識されているかもしれませんが、実は、本来ならば「滅多に使わない薬」であるべきものです。

 現在(インタビュー時:2011年12月15日)、子どもを中心にマイコプラズマ肺炎が流行しています。原因菌がマクロライド耐性で、治療に難渋されている方も多いのでは。代替薬としてニューキノロンやテトラサイクリンがありますが、副作用を考えると子どもへ処方しにくいものです。この状況は、「必要のない患者へ抗菌薬を無駄に使い過ぎていたツケ」と言えます。
 抗菌薬の乱用が耐性菌を招く。それでも、風邪、後鼻漏、軽症の中耳炎などに抗菌薬が処方され続けている現状がある。なぜか。それは「内省する機会がないから」です。例えば、蜂窩織炎を考えてみてください。原因菌はグラム陽性菌です。第一世代セフェムなら陽性菌だけ殺せます。でも何となく第三世代を使ってしまい、陽性菌も陰性菌も殺してします。「オーバートリートメント」ですが、結果としては治ってしまうので問題として認識されない。こうして第三世代セフェムの過剰な使用が続きます。
 僕は毎日一般外来で患者を診ていますが、第三世代セフェムを、ここ数年ほとんど処方していません。マクロライドもそんなに使わない。現在使われているマクロライドは処方量を1割に減らしたって問題ないはずです。尿路感染に安易にニューキノロンが使われているのも問題です。これらは「良い薬」であるからこそ、人命に関わるような重篤な細菌感染症のためになるべくとっておいたほうがよいのです。
 僕ら、感染症のプロ達は、使える抗菌薬がなくなってしまうことを本気で懸念しています。近年、新たな作用機序をもつ抗菌薬はあまり作られなくなっています。生活習慣病の薬などと違い、短い期間しか使わないし、使えば使うほど耐性菌ができる抗菌薬は、製薬企業にとってもジレンマでして、開発のインセンティブがどうしても低くなります。
 感染症診療ではバランス感覚が重要と申しました。いつも同じパターンで処方するのではなく、推定される原因菌に応じて必要十分な抗菌薬を目の前の患者のために用いる(あるいは用いない)べきです。そして、その目の前の患者だけを治すのではなく、20年後、30年後の患者も治せるよう、未来を見据えた診療が必要です。震災や原発事故で感じたことですが、我々はこれ以上未来の世代に負の遺産、ツケを回してはいけないと思います。感染症診療についても同じことです。今の適正な抗菌薬使用により、将来、子どもや孫たちにも有効な抗菌薬を残し続けなければならないのです。