メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害

メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害

MBTが拓く精神分析的精神療法の新たな展開
ベイトマン A./フォナギー P.著
狩野力八郎・白波瀬丈一郎 監訳

あとがきより■
 本訳書は,メンタライゼーションに関する著作としては,わが国初のものである。本書の翻訳を思い立ったのは,メンタライゼーション概念や治療様式,あるいは著者たち,さらにはそれが生成される過程といろいろな個人的縁があってのことであるが,なによりも,メンタライゼーション理論とそれに基づく臨床が,まさしく精神分析の真の精神を受け継いでおり,21世紀における精神保健の動向や脳科学の発展をも視野に入れた,精神分析の現代的かつ最新の発展形だと考えているからである。
精神医学や臨床心理の分野において,精神分析の退潮が言われているが──事実そうであるが──それは精神分析に本来的に臨床的価値がないからではなく,もっぱら医療経済的圧力によるものだからである。精神分析に責任があるとすれば,こうした社会の現代的動向に十分応えてこなかったという点である。この意味でも,メンタライゼーションに基づいた治療は,社会に対して,精神分析の価値を説明するひとつの言葉になるであろう。
 さて,メンタライゼーション理論は,愛着理論と精神分析との間にあった歴史的葛藤に対する根本的な解決を示している。そして,この理論の直接的なルーツは,心の理論といった認知心理学,対象関係論とりわけSandlerの表象世界論やBionの夢想することやα機能といった思考,脱備給を重視するフランス精神分析,移行空間,遊ぶこと,ミラーリングといったWinnicottの発達的精神病理学にあるが,それだけでなく近年の乳幼児発達研究からの膨大な知見が活用されているし,この概念は精神分析と神経生物学とのインターフェイスをも説明する。そして,自己はどこから来るのか,という長年の哲学的問いに対する臨床からの答えを出そうとしている点で,この理論は哲学とのインターフェイスも持っている。このようにメンタライゼーション理論は,自らの基礎を精神分析に置きながら,隣接する多くの学問領域の知識を取り入れ,再構成したものである。
 しかし,何よりもメンタライゼーションの価値はその臨床における実用可能性にある。多くの臨床家と研究者が,様々な臨床分野でメンタライゼーションに基づいた治療の実践に取り組んでいる。心的外傷関連の障害やBPDの臨床だけでなく,SMART,家族療法,集団精神療法,研修医教育,救急入院プログラム,心理教育,精神科予防などの分野で適用されている。
 そうした多くの著作の中で,私たちがまず本書の翻訳を試みようとした理由は,本書が,BPDの成因とそれに関する研究,BPDの治療の効果研究について広範かつ詳細なレヴュウをしていること,メンタライゼーション概念そのものとBPDに関するメンタライゼーションに基づいた理解を詳しく解説していること,そして実際のBPD治療を実に詳しくかつ具体的に書き込んでいることなどである。つまり,メンタライゼーション概念を理解し,BPDに対するMBTを具体的に把握するには,まず本書が最適であると考えたのである。目次●
日本語版に寄せて
序  文
著者について
序  論
本書の著者

1 境界パーソナリティ障害の疫学的,病因論的調査
 1.問題の明確化
 2.疫  学
 3.臨 床 像
 4.BPDの自然経過
 5.メカニズムと病因論的因子の研究
 6.結  論
2 治療調査と転帰
 1.心理学的治療
 2.薬物療法
 3.転帰調査における問題点
3 境界パーソナリティ障害のメンタライゼーションに基づく理解
 1.境界パーソナリティ障害borderline personality disorder(BPD)の発達的起源
 2.愛着理論という視座の妥当性
 3.安定型愛着の文脈での最適な自己発達
 4.不安定基地の影響
 5.愛着外傷の影響
 6.結  論
4 境界パーソナリティ障害の最新治療モデル
 1.転移焦点化精神療法Transference-focused psychotherapy(TFP)
 2.弁証法的行動療法
 3.認知行動療法
 4.認知分析療法(CAT)
 5.精神力動的対人関係療法Psychodynamic-interpersonal
 6.治療共同体Therapeutic communities(TC)
 7.他の北アメリカのアプローチ
 8.他のヨーロッパのアプローチ
 9.メンタライゼーション:境界パーソナリティ障害に対する精神療法における共
 10.結  論
5 治療の組織化
 1.はじめに
 2.治療サービス・モデルService models
 3.治療プログラム
 4.スタッフ
 5.アセスメント
 6.治療の取り決めengagement in treatment
 7.チームを支えること
 8.ケア・プログラム・アプローチCare programme approach
 9.アドヒアランス
 10.結  論
6 他でも使えるMBTモデルの特徴
 1.構  造
 2.一貫性,不変性,整合性
 3.関係性への焦点づけ
 4.柔 軟 性
 5.強  度
 6.ケアの個別的アプローチ
 7.薬物の使用
 8.治療形態の統合
 9.結  論
7 治療の戦略
 1.メンタライゼーションを促進する
 2.ギャップの橋渡し
 3.転  移
 4.精神的近さを保持する
 5.今の精神状態を扱う
 6.欠陥をこころにとどめておく
 7.現実的関係
 8.結  論
8 治療技法
 1.情動affectの同定と適切な表出
 2.安定した表象システムの設立
 3.自己がまとまっているという感覚の形成
 4.安全な関係を形作るための能力の開発
 5.結  論
9 実施への道筋
 ステップ1:働いている文脈を考慮し,自分のスキルと実践方法を同定し,資源を下調べする
 ステップ2:組織原理を適用する
 ステップ3:現在の臨床の目的と技法を修正する
 ステップ4:挑戦的な行動に対処するための手続きを実施する
 ステップ5:継続的に自分の実践を評価する

付録1 自殺・自傷尺度
付録2 訓練用教材
付録3 危機計画
付録4 MBTアドヒアランスと能力の評価
付録5 集中的外来プログラム(IOP)リーフレットの文章
付録6 入所フィードバック質問紙

参考文献
監訳者あとがき

索  引