認知療法・認知行動療法は,常識の精神療法と言われる

認知行動療法トレーニングブック 短時間の外来診療編[DVD付]
訳:大野 裕
著:Jesse H. Wright /Donna M. Sudak /Douglas Turkington /Michael E. Thase 
訳者の序 
 認知療法・認知行動療法を紹介する講演会で,経験の豊富な精神科医から,必ずといっていいほど尋ねられることがある.それは,診療場面での自分の対応と変わらない,というものである. 
 まったくその通りだと,私も考えている.認知療法・認知行動療法は,常識の精神療法と言われる.通常の診療でしていることと基本的には変わらない.それをコンパクトにまとめあげたところに,認知療法・認知行動療法の妙味がある. 
 一例を挙げてみよう.認知療法・認知行動療法の技法の一つに認知再構成がある.コラムを使って,状況,気分,自動思考,根拠と反証,適応的思考と書き込んでいく.一見すると特殊な技法のように思えるが,これは私たちが患者さんの話に耳を傾けるときの定型的な流れだ. 
 患者さんがつらかったという話を聞くと,臨床家は,何が起きたのかと状況を尋ねる.つらい場面を患者さんが話せば,その気持ちに共感し,それに答えて患者さんは自分の気持ちや考えを話す.その考えに耳を傾けながら,一緒に現実を見直して考えを整理しながら,問題を解決できるように手助けする. 
 これは日常の診療で私たちがしていることだ.臨床場面だけではない.毎日の生活のなかで友達や家族の相談に乗るときも,同じような流れになる.行動活性化を使ってやりがいのあることや楽しめることを増やしていくということもまた,日常臨床や普通の生活のなかで勧めていることだ. 
 このように考えていくと,認知療法・認知行動療法が決して特別なものではないことがわかるだろう.そのことは,逆に,認知療法・認知行動療法の技法が日常臨床で活用できるということでもある. 
 本書を読んでいただければわかるが,米国でも,認知療法・認知行動療法などの精神療法は1回45分や50分が当たり前という時代は終わってきている.より短時間で効果のある診療を行うために,認知療法・認知行動療法を外来臨床で活用する工夫が行われるようになっている.そのエッセンスが,本書にはぎっしりと詰まっている. 
 エビデンスに裏付けられた認知療法・認知行動療法が日常診療に使われるようになれば,こんなに素晴らしいことはないと,私はずっと考えてきていた.そうした短時間の認知行動療法のコツがこのようにしっかりした形でまとめられたことは,このうえなく嬉しいことだ.しかも,長時間のDVDが付属していて,その実際を映像で見ることができるのも嬉しい. 
 また,本書で紹介されている短時間でできる認知療法・認知行動療法は,医療場面だけでなく,地域や職域,学校など,幅広い領域における心の健康対策でも十分に活用可能なものである. 
 このように多くの読者の皆様に,きっと役に立つと思って本書を翻訳した.ぜひ多くの方々に本書を活用していただきたいと願っている. 
 2011年4月 
 大野 裕
目 次
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1 はじめに 
 ブリーフセッションに役立つCBTの特徴 
 CBTと薬物療法の併用 
 CBTをブリーフセッションで効果的に利用するために,臨床家が知っておくべきこと 
 まとめ 
2 CBTブリーフセッションの適応と形式 
 CBTのブリーフセッション:実態調査 
 ブリーフセッションにおけるCBTと薬物療法の併用の適応 
 CBTと薬物療法を併用するブリーフセッションの形式 
 CBTと薬物療法を併用したブリーフセッションの例 
 まとめ 
3 ブリーフセッションの効果を高める 
 治療関係を最大限に活用する 
 症状のチェック 
 構造化とペース調整:生産性の高いセッションの鍵 
 心理教育 
 テクノロジーを使って効率を上げる 
 セラピーの延長としてのホームワークとセルフヘルプ 
 薬物療法とCBTの相乗効果を利用する 
 まとめ 
4 症例の定式化と治療計画 
 包括的な定式化 
 参考症例:グレースに関して包括的な定式化を行う 
 ブリーフセッションにおける定式化の効果的な使い方 
 練習症例:ミニ定式化を実施する 
 まとめ 
5 アドヒアランスの向上 
 アドヒアランスの問題に対する一般的な治療戦略 
 アドヒアランス向上のためのCBTの12の手法 
 アドヒアランス向上のためのCBTの活用例 
 練習症例:アドヒアランス向上のためのCBTの活用 
 まとめ 
6 うつ病に対する行動的手法 
 うつ病の行動モデル 
 気分と活動のモニタリング 
 行動活性化 
 段階的課題設定 
 行動リハーサル 
 練習症例:うつ病に対する行動的介入を計画する 
 まとめ 
7 非適応的な思考を標的にする 
 ブリーフセッションで標的となる認知 
 うつ病と不安障害に見られる認知の病理 
 自動思考の同定に有効な手法 
 自動思考の同定に伴う問題 
 ブリーフセッションで自動思考を修正する 
 正確な思考を扱う 
 適応的な中核的信念を育む 
 配付資料のライブラリーを作る 
 まとめ 
8 絶望感と自殺念慮を治療する 
 絶望感によるダメージ 
 希望を生み出すための手法 
 ブリーフセッションで自殺のリスクに対処する 
 自殺予防計画の作成 
 まとめ 
9 不安に対する行動的手法 
 CBTの不安障害モデル 
 リラクセーショントレーニング 
 ポジティブイメージ法 
 呼吸の再訓練 
 暴露療法 
 まとめ 
10 不眠症に対するCBTの手法 
 CBTにおける不眠症の概念化 
 不眠症に対するCBTの有効性の根拠 
 CBTによる不眠症への対処法 
 まとめ 
11 妄想を修正する 
 妄想に対するCBTの概要 
 妄想に対するCBTの簡易な15の手法 
 妄想に対するCBTの参考症例:へレン 

 練習症例:妄想に対するCBTの介入計画を立てる 

 まとめ 
12 幻覚に対処する 
 幻覚に対するCBTの概要 
 幻覚に対するCBTの簡易な20の手法 
 幻覚への対処スキル改善の参考症例:へレン 
 練習症例:幻覚に対するCBTの介入計画を立てる 
 まとめ 
13 物質誤用と乱用に対するCBT 
 物質乱用の認知過程を理解する 
 変化に向けた態勢作り:モチベーションを高める 
 刺激をコントロールする:人,場所,物の特定 
 断酒/断薬計画を実行する 
 セルフモニタリングを実施し,ネガティブな認知に対処する 
 再発予防 
 まとめ 
14 ライフスタイルを変える:健康的な習慣を確立する 
 習慣の変化を促すCBTの技法 
 参考症例:グレース 
 練習症例:習慣を変えるための計画を立てる 
 まとめ 
15 身体疾患の患者におけるCBT 
 身体疾患に対してCBTを用いる理由 
 身体疾患におけるCBTの有効性の実証的エビデンス 
 身体疾患の患者に対して有効なCBTの介入 
 まとめ 
16 再発予防 
 CBTの再発予防モデル 
 再発のリスクについて教える 
 残遺症状の認識と治療 
 再発の引き金や初期兆候を同定する 
 再発予防計画を立てる 
 重要な他者を再発予防計画に関与させる 
 まとめ 
 付録1 ワークシートとチェックリスト 
 付録2 患者と家族向けのCBTのリソース 
 付録3 臨床家向けのCBTの教育リソース 
 付録DVDについて 
 索引