うつ病について 2016-8-9

教科書的説明があったので
採録

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うつ病について – 原因・患者数と傾向
日本では、うつ病の患者さんは100万人を突破してなお増加傾向にあるとされます。誰もが経験する「気分の落ち込み」とはどのように違うのでしょうか。
うつ病とは「うつ病」とは、様々な原因によって脳が何らかの不調に陥り、抑うつ症状(気分の落ち込み)が続いている状態を指しています。
「うつ病の症状には幅があるので、症候群と言ったほうがふさわしい病気です」。
症状に幅があると言うのは、典型的な中核群と呼ばれる人たちは抑うつ気分と興味・喜びの喪失といった気分障害を示しますが、その周辺にはもう少し症状の軽い人たち(周辺群)もいるということです。
日常生活において憂うつな気分や気分の落ち込みは誰もが経験することです。しかし、落ち込みが続いたまま、2週間以上経っても元に戻らない状態はうつ病と判断されます。ちょっと嫌なことがあって憂うつになっても一晩寝れば元に戻る、何か気晴らしをすれば元に戻るという状態はうつ病ではありません。
うつ病の原因
うつ病の原因は、まだはっきりと解明されていませんが、単一の原因から起こるのではなくいくつかの原因が複合的に影響して発症すると考えられています。
環境要因と遺伝要因
まず、大きな原因として考えられているのは、環境要因から受ける心理的なストレスです。
「例えば、身近な人との死別、退職、災害といった大きな喪失体験がきっかけになることがあり、職場や家庭でのストレスが積み重なって起こることもあります」
また、遺伝要因としてストレス感受性に関わる本人の性格も関係してきます。さらには、性格形成に関わる環境も関係してくることがあります。
遺伝要因には、うつ病の発症に関係する遺伝子もあるはずですが、まだ解明されていません。もっとも、うつ病は多種多様な状態を指しているので、うつ病に関係する遺伝子も無数にあるだろうと考えられています。
脳や体の病気、薬の影響も
脳出血や脳梗塞といった脳の病気によって脳神経がダメージを受けたり、甲状腺疾患、認知症といった別の病気が要因となることもあります。さらに他の病気のために使用している薬(例えばステロイド薬)などの影響によっても起こることがあります。
「うつ病に限らず精神疾患は、元々、本人の側に脆弱性、病気になりやすい素因があって、そこにストレスフルな状況が加わって発病すると考えられています。また、ただ一つの要因でなく様々な要因が複合的に混ざり合って起こることが多いようです」
引き金はあるか
前述した心理的なストレスと似ていますが、うつ病の発症にあたって引き金に当たるようなことが全くなかったという人は稀です。普通の生活をしているのに先月からうつになりましたというようなことはなく、「○○があって、その後うつになりました」と話される患者さんが多いとされます。実際には、その前からちょっと具合が悪くなっていて、そこにある出来事があって、普通の状態なら対応できることが対応できずに、その後さらに状態が悪化するというパターンをたどるようです。
ストレッサーは様々
身近な人の死、あるいは定年退職といった、それまであったものを失う喪失体験は、一般にストレッサー(ストレス要因)として発症の引き金になりやすいと言われていますが、昇進や結婚といった、本当はうれしいはずの出来事がストレッサーになることもあります。例えば、昇進してうれしいとは言いつつも、通常は負担が増えるといった量的なストレスに加えて管理業務といった質的なストレスの変化もあって、新しいストレッサーに対応できないことが原因です。
うつ病の発症に無数の遺伝子が関係するように、ストレッサーも無数にあり得ます。どういう状況に適応できないかについても個人差があります。
モノアミン仮説
うつ病になった人の脳内では、ある種の神経伝達物質がうまく流れていない状態になっていると想定されています。ノルアドレナリンやセロトニンという物質が乱れているとされますが、この2つの物質の乱れだけでうつと呼ばれる状態が説明できるかについては、まだ科学的な決着はついていません。
※モノアミンとは、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質の総称
うつ病の患者数と傾向
厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設に対して行っている「患者調査」(全国の医療機関を特定日に受診した人数および入院患者から推計)によれば、うつ病が大半を占める「気分障害」の患者数は111万人(2014年)でした。1996年は43万3000人、99年は44万1000人とほぼ横ばいだったのが、2002年に71万1000人と急増し、08年には104万1000人と、100万人を突破してなお増え続けています。
10~15人に1人がうつ病になる
近年、うつ病が増加している原因は、うつ病の啓発が進んだことが大きいと見られており、昔に比べて今の日本がうつ病になりやすい社会であるとは言えないようです。
また、「日本では、過去1年間にうつ病とされる状態にあった人は約30人に1人ぐらいではないでしょうか」。また、一生の間では10~15人に1人ぐらいはうつ病になると考えられ、極めてありふれた症状・病気であると言えるでしょう。
女性の患者数が多い
男女別に見ると、日本では女性の患者数が男性の約2倍とされます。
女性の患者数が多い理由として、初潮から閉経、月経にみられる女性ホルモンの変動の影響であるとか、進学・就職・結婚といったライフイベントなどに伴って受ける特有の心理ストレスの影響(まじめであったり、よく気が利くという良い面も逆にストレスとなりやすい)、仕事だけでなく家事・育児・介護などの負担が多いといった様々な要因によって、ストレスに対する抵抗力が低下する機会が多いことが考えられます。
「ただし、男性のほうが少ないとは一概に言い切れない面があります。それは、男性でうつになる傾向をもった人は、例えばストレスを紛らわすのに飲酒を繰り返してアルコール依存症になるなど、別な病気として現れている可能性があるからです」
事実、アルコールなど物質への依存は男性に多い傾向があります。
若年層と高齢者に多い
また、年齢別では一般に若年層(いわゆる思春期)と高齢者層に多いと言われています。それは心理的・身体的に不安定な年代であるからです。
「思春期の人たちは、心身がアンバランスな状態にあります。また高齢者は身体機能が衰えていくのに加え、配偶者や友人との死別、経済面での不安といった心理的なストレスも要因となります」
高齢者のうつ病
高齢者のうつ病は、若い人たちの症状と比べて非典型的なものとして現れます。例えば、物忘れが激しくなったり、認知症とまではいかなくても動脈硬化などが進んで脳自体が衰えてきているので、心理的なストレス以外の要因が混ざりやすくなってきます。
このため、高齢者ではうつの症状が前面に出にくく、憂うつな気分を訴えるよりも体の症状を訴えることが多くなりがちです。後述する「仮面うつ病」とは異なりますが、うつ病とは見抜きにくいのが特徴です。
うつ病の症状
自覚症状
まず、自覚症状として、気分が憂うつ、やる気が出ない、眠れない、食欲がなくて食べる気がしないといった症状があります。その他にも、悲しくなる、不安感が強い、イライラする、本来好きだったことができなくなる、といった症状が現れることもあります。
周囲の人が気付く症状もあります。うつ病になると、仕事や家事などで普段はできていたことができにくくなります。家族や同僚がそういう状況にあるのではないかと気が付いたら「どうしたの?」と尋ねてみて「実は気分が憂うつだ」「眠れない」「食べられない」といった訴えがある場合は、医療機関の受診を勧めた方が良いでしょう。
痛みとうつ
例えば、腰痛など元々何らかの慢性の痛みがあるという人の場合、うつの状態が加わると、その痛みを非常につらく苦しく感じるようになります。そういった意味で、うつ病の人が、あちこちの痛みなど身体的な不調を訴えることもあります。
うつ病の日内変動
1日の変化を見ると、一般に朝に不調という人が多いようです。朝から調子が良いためには、夜ちゃんと寝て朝きっちり起きないといけませんが、うつ病になると不眠を伴うなどして、睡眠覚醒のリズムが乱れるので、朝になって一応目覚めたものの、何となく眠い、だるいという状態になります。
典型的でないうつ病のタイプ
厳密には前述したような典型的なうつ病の診断基準には当てはまらない、典型的な症状ではないうつ病のタイプがあります。これらには後述するように抗うつ薬が効果を示す場合があります。以下、典型的でないうつ病のタイプについて解説します。なお、「仮面うつ病」や「新型うつ病」はメディアの用語であって医学用語ではありません。
新型うつ
近年「新型うつ」という言い方を見かけることがあります。これは、これまでの典型例ではない軽いうつ病を指しています。
「10年前、20年前には存在していなかったタイプのうつ病が新たに存在してきたというのは考えにくいことです。うつ病の啓発が進んだ結果として医療機関の受診率が上がると、入院するほど重い患者さんよりは外来レベルで対応できるような軽い患者さんが増えており、それがいわゆる“新型うつ”と言われる人たちです」
従来からあるうつ病は、きまじめな人が働き過ぎて過労になって発病するというのが典型的なパターンでしたが、“新型うつ”は違うタイプだと言えます。
うつ病がある程度を超えて重度になると、例えば楽しいことでもできないという特徴が出てきます。ところが軽度の場合には、ちょっと気分が憂うつだから仕事には行きたくないが遊びになら行けるという状態があり得ます。「仕事はできないが遊びには行ける」というのは典型的でないとも言えますが、軽度と捉えても同じことです。
仮面うつ病
うつ病の一種で見逃されやすいのが「仮面うつ病」というタイプです。気分が憂うつだとは余り感じない代わりに「眠れない」「食べられない」という身体症状が前面に出てくる場合です。自律神経失調症と診断されることもあります。
うつ病では脳内の神経伝達物質の働きが乱れるので、その乱れに伴って様々な機能が乱れてくることがあり、憂うつな気分だけでなく身体症状が非常に強く出てくることがあるのです。
「仮面うつ病の人は、診断基準に照らせばうつ病には当てはまりませんが、うつ病と症状が重なる面もあるので、抗うつ薬の服用によって状態が良くなる人がいます」
自律神経失調症は、相反する2つの自律神経系、交感神経(活動時に優位)あるいは副交感神経(安静時に優位)が過剰に緊張することで生じる症状で、検査しても体にも心にも他の病気がないときに診断されます。憂うつな気分を訴えることはありませんが、うつ病の隣にあるような病気とも言えます。やはり抗うつ薬で改善することがあります。
季節性うつ病
うつ病は、人によっては季節によって発症しやすさが異なることがあります。ヒトも動物だと考えれば、一般に冬は不活発になる時期です。このため、冬にうつになりやすく夏は元気になるというパターンがあります。日本では年間の日照量の差があまり大きくないので、季節性と言われる患者さんはあまり多くはないと推定されます。もっと緯度が高い地域では日照量の差が非常に大きいので、季節性といわれるタイプも注目されやすくなります。
うつ病について – 症状と診断・検査のページトップへうつ病と鑑別すべき病気うつ病と見誤られやすい病気に、躁うつ病、認知症、更年期障害などがあります。
特に気を付けたいのが、普通の状態とうつの状態しかなくうつ病だと思われていた人が、実は躁の状態もあったと判明することです。うつ病は単極性の障害ですが、躁の状態がある人は、うつと躁を繰り返す「双極性障害(躁うつ病)」です。
本人は気付きにくい躁うつ病
うつ病だと思い込んでいる患者さんでも、思い起こせば「テンションや活動性が上がった時期がある」というのが躁うつ病の診断の決め手になります。テンションが高いとき、本人は絶好調だと思いがちですが、周りの人には「最近ちょっとおかしい。ちょっと元気すぎる」と映っていますから、躁うつ病は周囲の人が気付くことが重要です。躁うつ病では抗うつ薬とは違う気分安定薬を用いますから、早期の見極めが大事です。うつ病と躁うつ病が全く別な病気なのかについては、学術的にも議論があります。
認知症や更年期障害も
認知症もうつ病と関連の深い病気です。うつを訴えていた人が認知症になりやすかったり、認知症の人にうつ症状が出やすいということは確かにあるそうで、病気になる経路が一部かぶっている可能性もあるとされます。
更年期障害でもうつ病とよく似た症状が出ることがあります。
他の病気との関連・相互作用
身体疾患との関わりも見逃せません。がん、循環器疾患、糖尿病などの人がうつ病になりやすいという傾向もみられます。逆にうつ病になると、そうした病気にも悪影響を与えます。一方、統合失調症は、幻聴や妄想という症状を伴う病気で、うつ病と見誤ることはあまりないはずです。
受診のタイミング
一般的に受診が遅れがちなのが、うつ病の特徴です。本当は受診した方が良いのに受診していない人は相当数いると推定されています。具合が悪くなっても、もうちょっと様子を見ようとか、精神科や心療内科には行きたくないからと、受診が遅れる場合が多いようです。
何科を受診すべきか
うつ病は、精神科と心療内科が専門の診療科ですが、実際にこれらの科を受診する患者さんは一握りで、圧倒的に多くの人は最初に内科など他科を受診します。
「内科の先生は心の病気が専門ではないので、きちんとうつ病の治療をできないことがあります。もし内科にかかっていて症状が長引いているようならば精神科や心療内科を受診してください」と、秋山先生は呼びかけます。
軽症のうつ病ならば心療内科へ
精神科と心療内科の診療内容は重なる部分も多く、軽症のうつ病ならば心療内科で十分対応できます。「自分はひょっとしたうつ病ではないか」と思うような人は、心療内科がお勧めです。開業医も多いので、受診しやすいはずです。
診断・検査
問診
問診では症状の経過を確認していきます。うつ病の診断は、症状のあるなしや、それがどれくらい続いているのかに基づいて行われますので、初診には時間がかかります。
治療多くの患者さんは、自宅で静養しながら治療することになります。
一部の患者さんで、自殺の危険性が高まったり、非常にイライラして居ても立ってもいられないという焦燥症状が伴う人の場合は、入院が必要になることもあります。
薬物療法
治療の基本は薬物療法です。うつ状態しかない人(単極性障害)の場合は抗うつ薬を服用します。躁うつ病の傾向もある人(双極性障害)は基本的には気分安定薬を服用します。
抗うつ薬には、三環系、四環系という古くから使われている薬と、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)など比較的新しい薬があります。効き目は同等か、古くからある薬のほうがやや強いのですが、新しいほど副作用の軽い薬が開発されています。
1~2割の人に薬物抵抗性
薬が効くまでには、服薬した薬が吸収されて血中に入り、脳の神経に吸収されて脳の神経伝達物質を作ったり壊したりするメカニズムに作用するという非常に複雑な経路をたどります。このため、薬物抵抗性といって、何種類かの薬を試してみても薬の効きが悪い人が1~2割ほどいると推定されます。
抗うつ薬は依存性は生じない薬で、病気が治れば止めることができる人もいます。ただし一気に止めるのではなく、医師の指示に従って段階的に減らしていきます。
再発時の治療期間は長引くことも
薬物治療の期間は、初めて病気になったのか、再発を繰り返しているのかによって変わってきます。また、再発予防の取り組みによっても変わってきます。
「服薬期間には個人差があるので一概には言えません。働きながら治療できることもあります。また、誰もが一生飲み続ける必要はありません」
認知行動療法
軽症例には認知行動療法が有効なこともあります。これは、時間をかけて悩みの根本に向き合い、認知の偏りを修正して解きほぐしていく治療です。日本ではこの治療に習熟した医師が少ないために十分普及していません。
イギリスでは医師に対する認知行動療法の訓練が進んでいるため、投薬に先立って行われることが多いのですが、日本では軽症例でもまず薬から始めるのが一般的です。
経過
要因が重なると薬は効きにくくなる
うつ病の治療の中心は抗うつ薬ですが、抗うつ薬が一番効くのは典型的な気分障害といわれる人たちで、薬はそういう人たちに向けて作られています。例えば心理的なストレス要因や発達障害など、他の要因が重なれば重なるほど薬は効きにくい傾向があります。
薬が効かない場合、他の治療法も
「うつ病治療ガイドライン」では、このように薬が効きにくいときには薬を変えてみるとされています。
しかし、「いくつか薬を試しても薬が効かない場合には、きちんとその人の心理的な背景について心理検査を行い、薬以外の治療やサポートなど、心理的な特徴に応じた治療を併せて行わないと、薬だけでは良くならないことがあります」。
うつ病と自殺
周囲が自殺を防ぐのは困難
ほとんどの自殺は、背景にうつ病があると考えられています。軽症例も含めて、自殺念慮はほとんどのうつ病患者さんが持っています。ただし、自殺を考えたとしても、実際に実行に移すかどうかは、衝動性のコントロール不良や焦燥感の強さなどによって決まります。
患者さんが自殺念慮を口にすることは少ないので、周囲の人が気付くのは非常に難しいようです。リストカットなどの行動に出れば分かりやすいのですが、行動に移さなければ見過ごされがちです。
高齢者の自殺
一過的に中高年の自殺が目立ったことはありましたが、近年最も自殺者が多いのは過疎地の高齢者です。自分は高齢になるばかりで、配偶者にも物忘れの症状が出てきたり、周囲を見渡しても、特に若い人は地域から出ていってしまって人口は減少の一途にあるという状況で希望を失ってしまうことが多いようです。
「こうした高齢者の自殺がマスコミに取り上げられることはほとんどありませんが、実態としては最も大きな問題です」
自殺予防より、うつ病受診を
周りの人は自殺のサインを気にするのでなく、普段できていたことができなくなるという、『うつのサイン』を見逃さず、受診につなげるようにしてください。
「自殺については専門家である医師に委ね、自殺の危険性があると判断されたならば、医師の助言に従って対応してください」。
存在場所が一つであることの危険性
バブル崩壊により会社の倒産が多数発生した時期に、うつ病によると見られる中高年男性の自殺が社会問題になったことがありました。借金や家族が生活するのに困るといった経済的な問題がその要因として多く取り上げられましたが、背景には、中高年男性の意識の問題もありました。かつては休みもとらずに猛烈に働くことが美徳とされ、また働くことが生きがいであり会社だけが自分の存在場所でした。このため、会社の倒産やリストラなどで失職したりすると全く何もなくなってしまったのです。実際に職を失った時点で家族が路頭に迷ったかと言うと、必ずしもそんなことはなかったはずですが、喪失感があまりにも大きかったことが大きな要因だったと考えられます。
ワーク・ライフ・バランスで健全な生活を
現在の若い人たちには、男性も家事や子育てを積極的に行うという人が増えてきています。子育てに参加して家庭や地域での役割があれば、たとえ突然会社が倒産したり解雇されるというような事態が起きても、会社以外での存在場所があることから、自分の全てがなくなるというような喪失感を防ぐことができます。
「ワーク・ライフ・バランスの考え方は、こうした一面では働く人々にとって健全な方向に向かっていると言えるのではないでしょうか」
うつ病からの職場復帰
職場環境が同じでは再発して当然
うつ病から回復した人の場合は、職場への復帰(リワーク)についても周囲の理解が必要です。
まず、うつ病に限らず精神疾患は、最初は過度のストレスが誘因となって発症します。いったん病気になった人は、あまりストレスが高くなくても再発しがちです。元々、本人の側に「病気になりやすい」という素因があり、職場のストレスも加わって病気になったのですから、職場復帰時に職場のストレスは変わらず、本人の再発しやすさは高まっているとなれば、再発して当然という状況になります。
対人関係スキルを改善して職場復帰を
職場のストレスは、本質的には対人関係のストレスだと言えます。例えば、上司に話をして「これ以上長い勤務はできない」ときちんと伝えられれば、過重労働にならないはずだからです。対人関係がうまくいかない人は職場のストレスで病気になりやすいと言えます。職場復帰時は、対人関係ストレスに対応するスキルを改善してから職場に戻してあげる必要があります。
リワークプログラムなどが有効
前述の認知行動療法は、この職場復帰への効果が認められています。職場復帰に際しては、段階的に負荷を上げていくことも重要です。
周囲の人の支え
家族・同僚・部下などがうつ病になった場合、うつ症状が活発なとき(うつ病のエピソードの間)は、普段行えている役割を担うことができないので、それを代わってあげる必要があります。仕事であれば休ませるか量や時間を軽減するようにします。家族の場合も、普段できていた家事ができないのであれば、症状が活動的な間は役割を代わってあげるようにします。
症状が良くなっても無理は禁物
症状が良くなれば元の役割に戻れますが、その場合、何より再発予防が重要になります。復帰して再発しないためにどうすべきかを、専門家を交えながら本人とよく話をする必要があります。一般に本人は完全に元のように戻りたがります。それは病気の知識が少ないこともありますし、仮に知識はあっても自分が前より病気になりやすくなっているとは考えません。たまたま具合が悪くなったが、2カ月休んだのですっかり元気になったと思いたいのです。しかし、それが再発のリスクになることを理解しなくてはいけません。
予防
先述した「認知行動療法」とは、ある状況があってもそれを悪い方にばかり考えるのはやめよう、と「認知」の歪みに対処する方法を身に着けるものです。相手に自分の考えを伝えるときに、なるべく上手に伝えよう、問題解決能力を高めようといった「行動」につなげていきます。これは治療としても有効ですが、病気になる前からこうした考え方と対処は予防につながります。
気分転換できればストレス予防できる
もっと一般的な予防法として、気分転換する時間を確保することも大切です。例えば、職場のストレスはあっても帰宅後は楽しい気分でいられる人は、病気になりにくいはずです。職場のストレスに家庭のストレスが加われば、ダブルパンチで病気になりやすくなります。また、仕事を自宅に持ち帰るなど、家庭でも仕事のことが頭から離れず気分転換できない場合も危険です。仕事がストレッサーならば、それを忘れられるような気分転換の時間が有効になります。
治療中の注意
うつ病と飲酒
健康であれば飲酒はストレス解消になるかも知れませんが、うつ病の場合、飲酒は避けるべきです。寝酒は健康的なときでも睡眠のリズムを崩しますから、特にうつ病になりかけの人が寝る目的で飲酒すると、睡眠と覚醒のリズムが既に乱れかけているところに輪をかけて睡眠の質を悪化させ、うつ病になるプロセスを促進してしまいます。
うつ病と励まし
周囲の人はうつ病の患者さんを励まさず、「頑張るな」と助言するように、と言われることがあります。これが100%正しいと言えるのは、うつの症状が活発なときだけです。職場復帰を目指している場合は、「気を付けながら頑張ってください」という助言が適切です。
復帰する患者さんに対して、「自分の体調をモニターしながら頑張ってください」と伝える。自分の体調をきちんとモニターし、例えば前夜よく眠れなかったときは、頑張りすぎないことです。
メンタルヘルスのトピックス2015年12月から、改正労働安全衛生法の施行に伴って「ストレスチェック」制度が導入されました。50人以上の従業員を抱える事業所は、ストレスチェックの実施、高ストレス者の専門家(医師)への面談の勧奨と労働基準監督署への報告が義務付けられるようになりました。
しかし、ストレスチェックを受けた後どうすべきかについて、厚生労働省は指針を示していません。「ストレスチェックで、ストレスが高いレベルだったとしても、すぐに薬につなげるのは妥当ではありません。むしろ、非薬物的な予防法である認知行動療法的アプローチ、気分転換、リラクゼーションなどが必要です」。ストレスチェック後に医師の診察を受けても、その医師が認知行動療法に精通しているわけではありません。今後2~3年で非薬物的予防法の指針が示されるものと見られています。

2016-08-09 13:51