精神分析-3 転移・逆転移

転移
転移はフロイトの考え方の中でも最重要のものである。
人生最初期の重要な対人関係で体験した感情を、現在の対人関係にも感じてしまうことを転移という。
人生最初期の経験が、新しい対人関係や状況に対するときの患者の態度の原型を形成している。
過去からの「テンプレート」によって現在を形成しているのである。
現在ならば「テンプレート」で、昔ならば「鋳型」と喩えたところだろう。
さらに現代では脳科学の言葉で表現したほうが分かりやすいかもしれない。人生最初期の段階で最初の対人関係を経験しているうちに、白紙の脳に、新しい回路が刻まれる。その後、さまざまに修正されることはあるものの、最初に刻まれた脳回路は一番の古層に保存されているだろう。
どの人も、自分の持って生まれた傾向と人生の初期の体験から得られた教訓の2つを組み合わせながら、自分なりの行動様式をつくり上げる。特に性的行動をフロイトは問題にした。このプロセスは鋳型またはテンプレートのようなもので、人生を通じて繰り返される。
過去と現在の状況が新しい自分を作り、それがまた新しい環境を体験し、新しい自分を作るという運動が続く。このあたりは簡単な数式ですっきり書ける。
その最初には生得的な性格特性と人生最初の体験があるわけだ。
精神分析では、転移の分析が治療の基本になる。
治療者に対する患者の転移は重要である。治療者に対する転移を分析することにより、どのような力が働いているのか、記憶や期待といった「脳内の出来事」と「外部現実」とをどのように区別しているかを知ることができる。
記憶や期待のような「脳内の出来事」と「外部現実」をきちんと区別できることが、relity testing 現実検討能力である。現実吟味能力(現実検討能力)とは、『外部世界にある事象』と『内面世界にある表象(心的内容やイメージ)』を区別する自我の機能である。
転移は過去から持ち越した鋳型であって、過去に反復されている行動や思考によって知ることができる。
患者は自分は昔反抗的だったと語るわけではなく、権威者に対して批判的だったと語るわけでもない。その代わりに、診察室で医師に対して反抗的に批判的に振る舞うのである。
転移を調べるには、臨床場面で中心葛藤関係課題Core Conflictual Relationship Theme (CCRT)を利用する。この文章の後半で、さらに説明し、妥当性の検証もする。
逆転移は治療者が患者に対して、過去の「鋳型」「テンプレート」で感じ、考え、行動することである。
転移と対になるもので、それは治療者が自分で解決しなければならない問題である。
患者の感情や非言語的コミュニケーションに対して治療者がどう反応したかを見れば、逆転移のあり方が評価できる。