13-8 双極性障害治療原則-8

16. 長期戦の構えで行こう。早くて簡単な反応はめったにない。
医師と患者が長期にわたって協働すれば、たいていの患者は回復する。

治療同盟が双極性障害では特に大切である。
治療は長期のプロセスだからである。
回復は通常極めて徐々にであり、ひとつの気分安定薬の次にもうひとつの気分安定薬を試し、そのようにして改善は徐々に進む。
急速に反応してそれが持続するということは少ない。
患者は勉強して、そのような簡単な回復はないと諦める必要がある。

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ヒント
双極性障害では薬剤が早く反応するよりもゆっくり反応したほうがずっといい。素早い反応はすぐに消え、ゆっくりの反応は持続することが多いからである。
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それぞれの患者が薬剤に反応したとして、気分安定薬のどれかあるユニークな組み合わせに反応するユニークな生物学的能力があるのだと考えられる。
少数の患者の場合、その反応する薬がたった一つのこともある。多くの場合は、2つかそれ以上の組み合わせになる。
その特別な組み合わせを時間をかけて見つけるのが医師と患者の共同作業である。
その過程では、多くの組み合わせが試され、結果によって、一部又は全部が棄却される。
患者はまじめに取り組む必要があるし、医師は信頼を失わないようにしなければならない。両者にとって、強力な治療同盟は治療という建物を支えている壁のようなものである。

【こういう比喩が分からんですなあ。日本語だと柱というところなんでしょう。石の建物は柱ではなく壁で構成されるんですかね。】

17. 絶望と、長期治療患者のうつ病を鑑別せよ。

双極性障害治療の長期治療で最も多いのは慢性症状閾値下うつ病でしよう。
症状閾値下というのは症状にはならないけれども健康でもない、症状になる閾値を超えない程度のうつ病ですね。
不幸といっても少しだけ、完全に元に戻ったというほどには回復していない。
この状態を医師は、残遺うつ病と解釈します。
双極性障害のうつ病側の症状ですね。
いろいろな薬、特に抗うつ薬で治療されますが、無効に終わる。
副作用は多くなり、効果は少なくなり、生活の質が低下する。
そしてしばしば患者は諦めて、服薬を中止し、それまでの薬剤から得ていたわずかな利益も失ってしまう。

私の感じでは、そうした患者は「中等度うつ病」なのではなくて、むしろ絶望しているのだと思う。
彼らが失ったすべてのものへの絶望、過去に失い、二度とは取り戻せない物への絶望。離婚、銀行残高、人間関係、時間。この絶望を癒すものは2つ。時間と人間関係。
医師に必要なのは患者を見つめ続けること。
薬剤で混乱させることなく。
行くたびに薬を変えてもらうために会うとかではなくて、むしろ、結局ベストな気分安定薬が得られて、医師のゴールは患者とただ単純に一緒に存在していることになるべきだろう。
そうすれば長い時間の後、絶望は希望に席を譲り、過去の失敗が人生の未来をあらかじめ台無しにするようなこともなく、人は未来を生きることができるようになるだろう。

こういうのを、医師が存在することが、患者の精神を癒す、という点で、実存的精神療法と言っている。何をしてくれる(to do)ではなくて存在していてくれる(to be)が本質ということ。 そういえば、キリスト教的神はどんなに何かお祈りしても沈黙を守ったままで、 どちらかと言えば to do の神ではなく、 to be の神だと思う。 つまり人間と神は実存的精神療法的関係にあるわけだ。

2013-03-27 19:29