外用剤の基剤の問題点

採録

【外用剤の基剤の問題点】
 薬剤には主剤と基剤がある。主剤とは薬効を持つ成分であり,基剤とはそれを溶かし込むためのものだ。例えば,点滴の抗生剤の場合,主剤はセフェムなどの抗生物質であり,基剤は蒸留水である。基剤に主剤を溶かし込んでいるわけだ。これが内服薬の抗生剤になると基剤は澱粉などになり,外用抗生剤では基剤はクリームやワセリンになる。
 ここで,点滴抗生剤と内服抗生剤,外用抗生剤で大きく異なっていることがある。人体に有害な基剤と無害な基剤があるのだ。

  • 点滴抗生剤,内服抗生剤の基剤⇒基本的に人体に無害
  • 外用抗生剤の基剤⇒ワセリンは傷(創傷治癒)に無害だが,クリーム基剤は傷(創傷治癒)に有害

 ここでは抗生剤を例に出したが,これは他の薬剤でも同じだ。点滴薬や内服薬の基剤(=蒸留水や澱粉など)は人体に無害だが,外用剤の基剤にはワセリンは無害だがクリームは有害なのだ。

 そもそも,基剤とは主剤を溶かし込んだり,濃度を調整したりするために使われているが,これは外用剤の基剤(=ワセリン,クリーム)でも同じだ。外用剤の場合,主剤が脂溶性物質の場合には基剤はワセリンとなり,水溶性の主剤と脂溶性の主剤を混ぜたい場合には界面活性剤を含むクリームが選択される。要するに,主剤の性質(=脂溶性か水溶性か)によって基剤が選択されるわけだ。
 問題は,クリーム基材が使われ始めた時代(=古代エジプトで既に,外用剤の基材としてクリームが使われていたらしい)には創傷治癒のメカニズムも皮膚の構造もわかっていなかったことにある。それらがわかってきたのは20世紀半ば以降だから当たり前である。まして,皮膚常在菌と皮膚の健康についてまともに取り上げられるようになったのは20世紀末なのである。
 しかし,創傷治癒とか皮膚常在菌という観点からクリーム基材を見直すと,無害どころか有害だったことがわかってしまった。クリームは細胞膜を直接破壊するし,皮膚常在菌の唯一のエネルギー源である皮脂を破壊し,皮膚表層の嫌気性環境も破壊するからだ。このあたりは,「15世紀以来,人類はタバコを吸ってきたが,20世紀半ばになって初めて,発がん性などの有害性がタバコにあることがわかった」のと同じ構図である。

 問題は,多くの皮膚科の先生方はこの「クリーム基材の有害性」についてほとんどご存知ない点にある。この点に関しては,某大学皮膚科教授も「皮膚科医は基剤の問題について全く無知であり,有害性も知らずにクリーム外用剤を使っている」と嘆いていた。
 「基剤は基本的に無害である」というのは点滴や内服薬では正しいが,外用剤については成り立たないのである。クリーム基材はタバコと同じなのだ。この事実を直視しなければ,皮膚科治療は先に進めないし,恐らく未来もないと思う。