小児期逆境体験が高齢期の脳に与える影響 Late-Life Brain Effects of Childhood Adversity 小児期に受けた情緒的ネグレクトのレベルが高いほど、高齢者が脳梗塞を有する確率は高い。 小児期の逆境体験が高齢者における脳卒中と関連しているかどうかについては十分な検討がなされていない。本論文の著者Wilsonらは、臨床的評価を毎年受け(平均追跡期間3.5年)、病理解剖に同意した認知症のない参加者1,040例(年齢55歳以上)を対象とする縦断的神経病理学的研究を通じて、こ

小児期逆境体験が高齢期の脳に与える影響
Late-Life Brain Effects of Childhood Adversity
小児期に受けた情緒的ネグレクトのレベルが高いほど、高齢者が脳梗塞を有する確率は高い。
小児期の逆境体験が高齢者における脳卒中と関連しているかどうかについては十分な検討がなされていない。本論文の著者Wilsonらは、臨床的評価を毎年受け(平均追跡期間3.5年)、病理解剖に同意した認知症のない参加者1,040例(年齢55歳以上)を対象とする縦断的神経病理学的研究を通じて、この問題に取り組んだ。
情緒的ネグレクト(emotional neglect)、親からの脅迫や暴力、家族の混乱、経済的困窮を網羅する自己報告に基づく尺度を用いて、18歳未満の小児期逆境体験に関する評価が行われた。精神医学的評価は実施されなかった。死亡した参加者257例のうち連続症例192例(平均年齢88歳、女性68%)の剖検脳を用いて、一方の脳半球6領域において肉眼的および顕微鏡的に皮質および皮質下の梗塞病変が探索された。
剖検脳の46%に脳梗塞の所見が認められた。脳梗塞を有するリスクは逆境体験尺度のスコアと有意な関連を示した(オッズ比 1.1)。下位尺度を用いた解析では、情緒的ネグレクトのみが関連していた。情緒的ネグレクトのスコアが75パーセンタイル(やや高レベル)に該当した参加者では、同スコアが25パーセンタイル(やや低レベル)であった参加者に比べ、脳梗塞を有するリスクが2.8倍高かった。参加者40例が罹患していた臨床的脳卒中と神経病理学的所見には関連がみられなかった。多数の社会経済的および心血管系の危険因子で補正しても、関連の有意性を含めこれらの結果は変わらなかった。
コメント
本研究は、剖検が一方の脳半球のみであったことなどいくつかの限界を有するが、未就学年齢の施設入所児において情緒的に豊かな家庭(里親)に受け入れられたあとの臨床的・神経画像的な所見に好ましい発達上の差異を見出した研究と一致する知見を示している(JW Psychiatry Aug 20 2012)。未就学児を対象とする研究では小児期逆境体験とテロメア短縮の関連が示されており(JW Psychiatry Jun 13 2011)、論説の著者が示唆しているように、テロメア短縮も脳卒中の危険因子である可能性がある。ここで浮かぶ臨床的に重要な疑問の1つは、修正的な環境体験を比較的若年の成人期に行った場合、高齢期の脳梗塞を予防できるかどうかである。