第24章 クラスターBの治療の手がかり

第24章 クラスターBの治療の手がかり

ポイント
・クラスターBには反社会性、境界性、自己愛性、演技性パーソナリティ障害がある。
・患者は劇的であり、感情的で、常軌を逸している。
・患者は別のクラスターに同時に属することもある。
・クラスターBの場合は転移と逆転移について留意することが強力な治療技法となる。

心底好きになれる境界性患者にはお目にかかったことがない。
—–精神科教授

反社会性パーソナリティ障害は子供時代の素行障害から始まる。患者は大人になり環境も変化するのに症状は改善しない。素行障害のある子供の多くは反社会性パーソナリティ障害に発展することはないのだが、その中で反社会性パーソナリティ障害になる人は、法律を尊重せず、人をだまし、衝動的で攻撃的である。良心の呵責のない点がユニークであり、それが反社会性パーソナリティ障害である。最近の研究ではMRIで前頭前野の形成不全が示されている。反社会性パーソナリティ障害は前頭前野の萎縮があり、扁桃体の機能不全がある。しかしそれでも、時間がたてば、これらの患者も衝動行為は少なくなり、逮捕も少なくなり、詐欺行為も少なくなると信じられている。

キーポイント
研究者は子供時代にまでさかのぼって行為の追跡をしているのだが、やはり境界性パーソナリティ障害の始まりは成人期初期である。

境界性パーソナリティ障害と診断された子供は必ず成長してから成人の境界性パーソナリティ障害になるわけではない。多くの精神科医が認めているように、境界性パーソナリティ障害と反社会性パーソナリティ障害は見かけほど違わない。どちらも衝動的で攻撃的で家庭機能不全がある。境界性パーソナリティ障害は自分を家族の攻撃性の犠牲者と見なす傾向があるのに対して、反社会性パーソナリティ障害は自分が攻撃性を持って加害する人であると見なしている。
自己愛性パーソナリティ障害と演技性パーソナリティ障害に関しては発症時期についての充分なデータがない。自己愛性の人は他人を操作するが犯罪の意図はない。演技性の人は境界性パーソナリティ障害と似ているが衝動性は低く、感情の不安定性は低い。
反社会性パーソナリティ障害の人の多くは仕事も社交もうまくいかない。境界性パーソナリティ障害の人はもっとうまくできる。演技性の人と自己愛性の人は多分さらにもっとうまくできる。しかしこのいずれも、劇的で常軌を逸した外見を呈することで知られている。クラスターAやCの患者と違い、クラスターBの患者は改善の余地がある。

症例スケッチ

たった一回の精神科医の予約の前に、27歳の心理学大学院生患者は、7回に渡り、日時の変更を電話した。それは初診の予約で、医師はその週は別の日は都合がつかなかったので、次の月のいくつかの時間を提示した。「だめです」と彼女は言い、自分は急いでいる、月曜日は変えたくない、時間を変えることはできないかという。医師はもう一度、彼女の希望を叶えることはできないと説明し、次の月を提案した。結局二人は最初の日時で再度予約を決めた。
面接当日、彼女は15分早く到着し、イライラして待合室で歩き回っていた。彼女は心理学の学生であったにもかかわらず、早く現れることは約束に遅れることと同様に意味のあることなのだと理解していなかったようであった。彼女が精神科医と向きあって座るまでに、すでに彼女は激怒していた。思春期に始まった慢性うつ病を語り始め、学部学生の頃の話をして深刻になり、沢山泣いた。精神科医はティシューを差し出し、患者は箱ごとつかんで医師の手から奪い取った。
「今度はあなたが何かふさわしいことをする番じゃないの?」と彼女は言った。
「何か気に入らないことでもありますか」と彼は聞いた。
「あなたは私が望んだ予約を駄目だと言った。随分不親切だわ。」彼女は肩までの黒いストレートヘアをポニーテールにしてクリップで留めていた。そしてまっすぐ立ち上がって、音高く鼻をかんだ。
彼女は有名な心臓病専門医の娘で、たいていの医師に対して皇室並みの特別待遇を期待していた。彼女の父は気むずかしく要求の多い人で彼女の母とはほとんど離婚したようなものだった。母は受け身で非常にかわいらしい女性だった。患者と弟は父親から(肉体的ではないが)情緒的な虐待を受けていた。彼女が結論したところでは、彼女は全Aの学生ですばらしいテニス選手、熟達したピアニストであったにもかかわらず、父親のせいで大きな無力感にさいなまれていた。
彼女は初診の時、人生で二度目のうつ病エピソードのさなかだったが、再度抗うつ薬を使うことは希望しなかった(以前はパキシルを使った)。彼女はある男性と長いがまだ決定していない関係の最終局面にいて、性的機能不全を回避したいと思ったのが理由だった。
不眠がちで、明け方のパニック障害で目が覚めた。15ポンド痩せてイライラ、不安、メランコリーを毎日感じた。精神科医はレクサプロ10mgを提案し、処方した。面接の終わりに、最初に予約を決めた時の同意にしたがって精神科医は彼女に支払いを要請した。彼女は父親に請求書を送るように言った。医師は彼女に今後の治療の合意事項を確認し、今回は父親に請求書を送るが、次からはそのたびごとに彼女自身が支払うように求めた。
次の約束は次週だったが、再び何度も医師に電話をした。精神科医は彼女が不満を述べた問題のすべてについて再度説明して安心させようとした。しかしついには父親が電話してきて精神科医に請求を減額するように頼んだ。彼の娘はそれほど「特別」だというのだった。精神科医は「ノー」と答えた。患者は予約を取り直しに電話することもなかったし、二度目の診察に訪れることもなかった。

ディスカッション

この患者は二つのクラスターB障害を持っている。境界性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害である。
彼女にはまた大うつ病とパニック障害があり、そちらの方が治療しやすかった。このケースでは治療の最初から医師に対して過度に要求がましい態度があった。尊大に、彼女は自分の都合に合わせて診察してほしいと言った。医師に一度も会ったことがないにもかかわらず、彼女は見捨てられることを恐れた。どこまで尊大にしたら見捨てられるか試すような態度だった。もし彼女が医師に対して、予定時間よりも早く会うようにしむけることができたなら、医師が彼女に対して融通を利かせてくれて「特別」扱いをしてくれることが証明されるだろう。他の人にとっては明らかなことだが、このことは不安定で強烈な対人関係を開始したことを意味するだろう。なぜなら、この「特別」扱いしろという、言葉にされていないが、不合理な要求は誰も完全に満たすことができないからである。彼女の願いに従わなかったので医師は即座に彼女の心の中で脱価値化され贔屓してくれないダメな人とみなされた。将来、医師が彼女の願いを聞き入れたら、即座に素晴らしい人と理想化されるだろう。これが境界性で典型的である。
彼女は自分で決めて早く到着して待っていたにもかかわらず、時間通りに始めた医師に腹を立てた。彼女の感情は不安定で自分を無力だと何度も思ったはずだ。なぜ自分を尊重しないのか、自分が早く来たのになぜそれを賞賛しないか。そしてなぜ特別の配慮をしないか。最初は彼女は賞賛を期待して早く来たのではないし、早く来たからといって当然早く始めて欲しいとも思わなかっただろう。しかし待っている間に脳の回路が暴走をはじめる。なぜ私はこんなにも無視されて虐待されて軽んじられるのかと怒りがこみ上げる。自己愛性の人は時にこのような感じる。特に同時に境界性パーソナリティ障害を持っている場合にはそうだ。自己愛性の憤怒である。
医師は自分の扱っているのがどんな患者であるかを非常に素早く理解した。時間、場所、料金について堅い限界設定で臨まなければならないとよく知っていた。医師は最初の予約時間と料金契約を維持しようと努めた。驚くことではないが、患者はこの限界設定を破ろうとした。破ることができないと悟ると父親を登場させ、父親は何も知らずにいざこざに巻き込まれる。
患者はあえて意識的に限界設定を突破しようとするのではないし、あえて意識して医師に困難を突きつけているのでもない。彼女の行動は無意識的に動機づけられたものだ。もし尋ねられたら、彼女は、世界は敵意に満ちていて、私はいつでも見捨てられ、私は尊重される特権が与えられていると語ったことだろう。
彼女はまた投影性同一視を呈していて、それは境界性パーソナリティ障害の人が自分の中の望まない側面を他人に投影し、その上でその人に対して行動化するというような防衛
である。

精神科医はこうしたクラスターBの行動化にいらいらして怒りを感じる。医師は常に自分の逆転移感情をモニターすることを忘れないでいるべきだ。逆転移感情は強烈で否定的になることがある(陰性逆転移)。多くの場合、治療者は自分を守り、健全な治療を進めるために、スーパービジョンを用意するか、自分なりの有効なクラスターBの治療法を用意するかしなければならない。