児童虐待で受けた障害は隠れていることがある Damage from Maltreatment May Be Hidden 児童虐待を受けたことがある機能良好な10代の青年ではその後の精神病理に関連する白質変化がみられる。 児童虐待を受けた体験がある青年は健康に見えても気分障害や物質使用障害のリスクが高いのだろうか? この疑問の答えを見いだすため、本論文の著者Huangらは、10歳までに児童虐待を受けた体験(6ヵ月間以上の身体的・性的虐待または家庭内暴力の目撃)がある参加者19例、対応する(精神疾患の既

児童虐待で受けた障害は隠れていることがある
Damage from Maltreatment May Be Hidden
児童虐待を受けたことがある機能良好な10代の青年ではその後の精神病理に関連する白質変化がみられる。
児童虐待を受けた体験がある青年は健康に見えても気分障害や物質使用障害のリスクが高いのだろうか? この疑問の答えを見いだすため、本論文の著者Huangらは、10歳までに児童虐待を受けた体験(6ヵ月間以上の身体的・性的虐待または家庭内暴力の目撃)がある参加者19例、対応する(精神疾患の既往歴・家族歴がない)対照者13例を募集・登録した。追跡開始時(ベースライン)は参加者(平均年齢16歳)全例が良好な機能状態にあり、生物学的な親と同居し、児童保護局の活動ファイルに登録されていなかった。追跡開始時に包括的な評価および拡散テンソル画像(DTI)が撮影され、その後平均3.4年の追跡期間において6ヵ月ごとに精神医学的評価が行われた。
対照群に比べ、虐待を受けたことがある青少年の左・右上縦束、海馬に投射する右帯状束、左内側前頭後頭束、脳梁膨大部では追跡開始時の異方性比率(FA)が有意に低かった。追跡期間に単極性うつ病を発症した6例(このうち5例が元被虐待児)では、うつ病に罹患していない参加者と比較し、上縦束、右帯状束-海馬投射における開始時FA値が有意に低かった。物質使用障害は5例(4例が虐待体験者)に発生し、これらの参加者では非物質使用参加者に比べ、右帯状束-海馬投射における開始時FA値が低かった。2例の青少年(いずれも元被虐待児)では物質使用障害および気分障害の双方が発生した。
コメント
本研究の規模は小さいが、今回の知見は、児童虐待を受けた体験がある10代の青年では、機能が良好な状態なときでも、気分・依存の精神病理が発生しやすいとする説を支持するものである。虐待されたときに児童の養護を強化するための対策が必要である(JW Psychiatry Aug 20 2012)。臨床医は児童虐待の体験がある10代の青年に対する精神科紹介の基準を引き下げてもよいかもしれない。