傍聴席から見るアイヒマンは極悪人ではなく「凡庸な人間だった」。命令を実行しただけ、と繰り返す彼の姿に、考えを止めた人間こそが巨悪をなすのだ。

アーレント(1906~75)は、第2次世界大戦中、ナチスの強制収容所から脱出し米国に亡命した20世紀を代表する政治哲学者だ。63年、何百万のユダヤ人を収容所へ移送したナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴して書いたリポートが、ナチスの罪を軽視したと全世界から非難を浴びる。
 だがアーレントは考えを曲げない。傍聴席から見るアイヒマンは極悪人ではなく「凡庸な人間だった」。命令を実行しただけ、と繰り返す彼の姿に、考えを止めた人間こそが巨悪をなすのだ。そう確信していた。