認知症対策を加速する「新オレンジプラン」と精神病院の役割 解説医療行政

認知症対策を加速する「新オレンジプラン」と精神病院の役割解説医療行政
 厚生労働省は1月27日、「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」(新オレンジプラン)を公表した。対象期間は、すべての団塊の世代が後期高齢者の75歳以上となる2025年。基本的な考え方として、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」を掲げており、厚労省が、関係府省庁(内閣官房、内閣府、警察庁、金融庁、消費者庁、総務省、法務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省)と共同して策定した。2012年9月に厚労省が公表した旧オレンジプランを拡充したもので、引き上げられた数値目標も多く、とりわけ精神科病院の役割が重みを増している。 その象徴が「認知症初期集中支援チームの設置」。目的は、早期に認知症の鑑別診断が行われ、速やかに適切な医療・介護等が受けられる初期の対応体制を構築するためである。市町村が地域包括支援センターや認知症疾患医療センターを含む病院・診療所等にチームを置き、認知症専門医の指導の下、複数の専門職が、認知症の人やその家族等を訪問し、観察・評価したうえで家族支援等の初期の支援を包括的・集中的に行い、かかりつけ医と連携しながら認知症に対する適切な治療に繋げ、自立生活のサポートを行う。 新オレンジプランにおいて、「認知症初期集中支援チームの設置市町村数」の目標は、2014年度の41市町村(見込み)から、2018年度からはすべての市町村で実施する、と引き上げられている。ほかに、引き上げられた数値目標(2017年度末)の主な例としては、「認知症サポーター数の目標」は600万人から800万人に、「かかりつけ医認知症対応力向上研修の受講者数(累計)」は、5万人から6万人に、「認知症サポート医養成研修の受講者数(累計)」は、4,000人から5,000人等があり、更に、「認知症介護実践者研修の受講者数(累計)」は、2017年度末に24万人を目指す目標も新設された。2018年度からは「認知症初期集中支援チーム」を全市町村に設置 精神科病院の役割も重みが増している。新オレンジプランでは、「行動・心理症状(BPSD)や身体合併症等への適切な対応」の一環として、精神科病院の介護事業所との連携あるいは精神科病院が地域のネットワークに加わり、介護職員や家族、認知症の専門科ではない一般診療科の医師等からの相談に専門的な助言をしたり、通院や往診によって適切な診断・治療をする必要性が強調されている。 また、精神科病院における認知症の人の入院に関しては、「標準化された高度な専門的医療サービスを必要に応じて集中的に提供する場として、長期的・継続的な生活支援サービスを提供する介護サービス事業所や施設と、適切に役割を分担し、連携を図ることが望まれる」と明示されている。一般診療科の医師への助言や、介護事業所との連携が望まれる精神科病院認知症の有病者数は、2025年には約700万人に増加するといわれる。認知症に関する現在と将来に対応できる施策を進めるとともに、認知症に対する意識を社会全体で共有することは急務。そこで、厚生労働省が主導的な役割をはたし、「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)が策定された。今回は、新オレンジプランの柱となる7項目と、精神科病院の役割、注目できる新規施策について解説する。大塚製薬株式会社 制作・著作:厚生政策情報センター WIC REPORT事務局 新オレンジプレンの主な内容は、(1)認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進、(2)認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供、(3)若年性認知症施策の強化、(4)認知症の人の介護者への支援、(5)認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進、(6)認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進、(7)認知症の人やその家族の視点の重視―という7項目。 (1)では、「社会の理解を深めるためのキャンペーン」が全国的に展開され、(1)の一環として、「認知症サポーターの養成と活動支援」も実施される。(2)では、「早期診断・早期対応のための体制整備〈歯科医師・薬剤師の認知症対応力向上〉」、「行動・心理症状(BPSD)や身体合併症等への適切な対応〈看護職員の認知症対応力向上〉」、「認知症の人の生活を支える介護の提供〈新任の介護職員等向けの認知症介護基礎研修(仮称)の実施〉」、「医療・介護等の有機的な連携の推進〈医療・介護連携のマネジメントのための情報連携ツールの例を提示〉」等が特筆される。
 これらを含む主な新規施策については、一覧表にまとめた。●認知症への社会の理解を深めるための全国的なキャンペーンを展開●認知症サポーター養成講座を修了した者が復習も兼ねて学習する機会を設け、より上級な講座等、地域や職域の実情に応じた取組みを推進●歯科医師・薬剤師の認知症対応力向上●看護職員の認知症対応力向上●新任の介護職員等向けの認知症介護基礎研修(仮称)の実施●医療・介護連携のマネジメントのための情報連携ツールの例を提示●新しい介護食品(スマイルケア食)を高齢者が手軽に活用できる環境整備●就労、地域活動、ボランティア活動等の社会参加の促進●若年性認知症の人が通常の事業所での雇用が困難な場合の就労継続支援●多様な高齢者向け住まいの確保●高品質・高効率なコホートを全国に展開するための研究等を推進●ロボット技術やICT技術を活用した機器等の開発支援・普及促進
 新オレンジプランは、その大きな目的として、「認知症高齢者にやさしい地域の実現」を掲げている。そのためには、厚労省が説明するように、関係省庁の連携はもとより、行政だけでなく民間セクターや地域住民自ら等、様々な主体がそれぞれの役割を果たしていくことが求められる。 しかも、認知症高齢者にやさしい地域とは、認知症の人だけにやさしい地域ではない。地域のコミュニティーを基盤として、認知高齢者にやさしい地域づくりを実施し、それを通じて地域を再生するという視点も重要となる。そのためには、認知症に対して、常に一歩先んじて何らかの手を打つという意識を、社会全体で共有してくことが、いっそう必要となっている。

2015-02-25 16:34