農業をどうするかについても大きな問題

農業をどうするかについても大きな問題。TPP問題やJA改革問題は農家の人の問題でもあるし、その農産物を食べる消費者の問題でもある。大きな変動が終わったあとで、我々はどんな食品を食べることになるのか。
以下、採録ーーー 「2012年末の総選挙で、自民党は『ウソつかない。TPP断固反対。ブレない』というポスターを全国各地に貼り、JAの支持を取りつけて政権を奪還した。しかし安倍総理は、13年2月22日の日米首脳会談で、オバマ大統領に対して早々にTPP交渉参加を約束。3月15日には、TPP交渉への参加を正式表明した。
 こうした安倍総理の姿勢は、JA、並びに全国で農業を営む方々に対する明白な裏切りである。『聖域』という名の『重要5品目の関税』、という最小限の約束も、実は守る気などさらさらない」
 「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物等の農林水産物の重要品目が、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象となること。10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めない」
 10年を超えるような、長期にわたっての段階的な関税撤廃も認めないと、自民党ははっきり言いきって決議までしています。この部分の約束を、全国の農業関係者の方々は頼もしく思ったことでしょう。
ところが、『すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ』と語った。これが、自民党の本音なのである
ーーー 農協は自民党の「最大の支持組織」として、長年、自民党を支えてきました。農家数は年々減少していますが、農協は、正組合員と准組合員を合計すれば、いまだに1000万人近い組合員を擁しています。巨大な「農協票」です。
 09年の選挙では、民主党が農家への「戸別所得補償制度」を打ち出したことで、農協票の大半が民主党に流れたと言われており、これが政権交代に大きく影響していたとも分析されています。
 民主党・菅直人政権時に持ち上がった日本のTPPへの交渉参加問題。農協が2011年に集めたTPP反対署名は、日本の人口の約10分の1にあたる1160万筆を超えました。2012年の衆院選で、自民党は「TPP断固反対」を掲げ、農協票を再び取り込み、政権を奪還したのです。
 しかし、安倍政権が、アベノミクスの一環として今年6月に閣議決定した「新成長戦略」は、政権交代の「恩義」のあるJAに対して、「仇で返す」ようなものでした。
 「新成長戦略」の最大のポイントは「農協改革」です。これはJAの事実上の解体であり、農家の発言力の低下を狙ったものです。
 まず、全国約700の農協の司令塔である「JA全中」を新たな組織に移行させ、単協に対する経営監査などの権限の大幅縮小を打ち出しました。また、生産から卸し業まで一括した管理体制で農作物を流通させているJA全農を株式会社化するとし、農業法人への企業の出資の規制緩和も目指すとしています。さらに、農業生産法人の設立要件も緩和するとしており、企業の農業参入を促進してゆくというのです。
 自立した家族農・自営農の集まりである協同組合を企業の形態に再編することは、将来的に何を意味するのでしょうか。
 会社法改正以後の一般企業がそうであるように、株式企業となれば、株主支配が貫徹されることになり、株主には高い割合で外資が含まれることになるでしょう。農業法人が、日本の国土の多くを占める農地を所有し、その農地を外資が株主支配すれば、領土を巡るまがまがしい侵略戦争など引き起こさなくとも、無血で日本の国土を事実上、手に入れることができます。その農地をまた別の目的に転売することも可能でしょう。
 もしそうしたグローバル資本の思惑に抵抗しようとして、政府や地方自治体が国土保全のための規制をかけようとすれば、TPP参加後であれば、ただちにISD条項による提訴が行われることでしょう。
 小規模農家は次々と農地を手放し、農家を廃業するか、農業法人の従業者とならざるをえなくなります。何にことはない。戦後の農地解放以前の「小作人」へ逆戻りです。
ーーー 「安倍総理がTPPへの参加を表明した真の理由は、『強い農業』の復活による経済成長などというものでは、もちろんない。安倍総理の狙いは、JAの解体であり、日本の小規模な家族経営農家を消滅させ、農業と農地を株式会社化した上で、大資本に売り渡すことである。
 7月30日付けの産経新聞の報道によれば、安倍総理は、TPPに反対するJAを指し、『日教組のような抵抗組織だな』と周囲に怒りをぶちまけたという。かつての小泉政権が郵便局を『抵抗勢力』として『悪魔化』し、新自由主義改革を推進したように、安倍政権はJAを『悪魔化』するキャンペーンを張ろうとしているのだ」
 安倍政権の「裏切り」を前に、農業関係者の方々は、「我々はこれまでさんざん自民党に尽くしてきたのに、なぜ、こんな扱いをされるのか」と疑問に感じているでしょう。
「我々は、なぜ『殺されようとしているのか』わからないです。なぜなのかを、知りたい」。担当者の方は、そう率直に答えられました。
 「我々はTPP反対という自民党の公約を信じ、衆・参の両選挙で自民党を盛り立て、安倍政権を誕生させました。しかし、その公約はあっさり反故にされ、それどころか、JA全中解体を迫られています。尽くしたあげく、なぜ、殺されなければならないのか、わかりません」
ーーー安倍政権の狙いはTPP参加であり、新自由主義政策の貫徹です。そのためにも「抵抗組織」として名指しするJAを解体し、農協を株式会社化した上で、土地を大資本に売り渡そうともくろんでいると考えられます。
 そしてこの構想は、米国の思惑と表裏一体です。
 安倍政権は、「愛国」的なイメージとは裏腹に、米国から突きつけられた要求を従順にこなす、「従米政権」です。安倍政権は米国と日本国民の利害の間の「中間管理職」の役目を担っているに過ぎません。郵政民営化の時には、米国の狙いは、「郵貯・簡保」の資金でした。今度は「農林中金の資金」に目をつけていることは間違いありません。
 安倍総理はたびたび「日本を企業が世界で一番活躍できる国にする」と口にし、国民のほうを向いているように見せかけていますが、その内実は、米国発のグローバル企業にとって都合の良い国にする、という改革であり、安倍政権に命令を下す「上司」であるワシントンD.C、ウォール街などの顔色ばかりをうかがっています。
 「上司」が郵貯・簡保の市場を開放しろ、農協を解体し、参入させろ、と「中間管理職」である安倍政権は、「上司」の命令に忠実に従い、結果として、矛先がJAにも向けられました。
 自民党を長年支えてきたJAは、その甲斐もむなしく、日本の市場に手付かずで残された「ビジネスチャンス」として、米国に差し出されようとしています。
 TPPに対する米国の執念は本当に侮れません。
 「夜寝ているオバマを電話でたたき起こして、『(日本に求める)優先順位はなんだ』って聞いてごらん。1にTPP、2にTPP、3にTPP、4にTPPと言うだろうね。集団的自衛権は多分、『あ、そう言えば…』って言って、19番目くらいに(集団的自衛権が)出てくるかもしれない」
 こう証言したのは、米国の元NSC(国家安全保障会議)高官のモートン・ハルペリン氏。
ーーーそれでもまだ、自民党を支持する農業関係者もいます。佐賀と熊本のJAグループは、消極的ながらも自民党を推薦し、農協票を託すと決定しました。産経新聞の記事を紹介します。
 「JA佐賀の政治団体『佐賀県農政協議会』は11月29日、選挙区と比例の自民候補3人に推薦を決定したが、政策協定書ならぬ『誓約書』を提出させ、当選後はJAの意に沿った活動をするよう確約を取った。同協議会は昨夏の参院選でも、TPPの対応をめぐり、佐賀選挙区の新人候補の推薦をいったん撤回するなど揺さぶりをかけた。
 JAグループ熊本の熊本県農政連からは、候補者が提出した政策協定書に、『内容がぬるい、JAを甘く見ているのではないか』と不満が噴出した。このため、梅田穰委員長は推薦を決定する予定だった11月28日の会合で『政府自民の農政に不信感が募っている』と語り、推薦決定を保留した。
 2日後の30日、協定書の文言の『遵守』を『厳守』に変えさせるなどし、自民と次世代の候補計6人の推薦を正式に決めた。
 『共産や社民候補を推薦した方がマシじゃないかと冗談まで出るようになった。とはいえ、すんなり推薦を出さないことぐらいしか候補者へのプレッシャーにできないのが現状だ』」
※産経新聞(2014.12.6)農協票 TPPと組織改革、不満呑み込み自民推薦http://www.sankei.com/region/news/141206/rgn1412060067-n1.html
 09年の民主党のような「受け皿」が存在していないことが響いているようです。
 票を託せそうな野党がない。であれば、効果が薄いかもしれないが、選挙後に自民党が少しでも「手心」を加えてくれるよう、ささやかでも歯止めとなる約束を取りつけておくのが得策だ。誓約書や協定書の細かな文言を担保に、選挙後、少しでもダメージの少ない政策を期待する。そうした戦術を選択する他なかったのかもしれません。
 茨城県や新潟県でも同様の動きがあります。
 「県JAグループの政治団体『県農協政治連盟』(加倉井豊邦委員長)は一日、常任委員会を開き、衆院選での県内小選挙区の推薦、支持者を決め、発表した。茨城1、5区は自民、民主両党の立候補予定者を支持する。
 推薦はいずれも自民前職の額賀福志郎氏(2区)、葉梨康弘氏(3区)、梶山弘志氏(4区)、丹羽雄哉氏(6区)、永岡桂子氏(7区)の五氏。1区の自民前職の田所嘉徳氏と民主元職の福島伸享氏、5区の自民前職の石川昭政氏と民主前職の大畠章宏氏は支持とした。
 JAの組合員の意見を聞き、農業に理解が深い立候補予定者を選んだ。県農政連の要領で推薦は一選挙区一人と決まっており、二人の場合は支持とした」
※東京新聞(2014.12.2)農業に理解が深い5氏推薦4氏支持 県農政連http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/20141202/CK2014120202000149.html
 「県内JAグループの政治組織『県農政刷新連盟』(県農政連)は3日、14日投開票の衆院選について、県内全6小選挙区の自民党候補者を推薦することを決めた。態度を保留していた地域農協の意向を3日までに確認した結果、県内25の地域農協で野党の候補者を強く推す声がなかった。安倍政権が農協改革を進めようとする中、自民党との関係を悪化させたくない思惑もあるとみられる」
※新潟日報(2014.12.4)県農政連、県内全区で自民推薦http://www.niigata-nippo.co.jp/news/politics/20141204149229.html
 他にも福井県も自民党を推しましたが、JA内でも意見が対立し、票をまとめきれていないようです。
 「福井県農政連(山田俊臣会長)は28日、来月の衆院選で自民党公認の稲田朋美氏と高木毅氏を推薦することを決めた。一方で、政権公約に農協改革を掲げた自民党に対する反発は強く、農政連の動きとは別に、26日には県内11JAの組合長が衆院選では中立の立場で臨むことを確認。表裏一体の県農政連とJAは足並みがそろわない状況となっている」
※福井新聞(2014.11.29)衆院選で農政連とJAに隔たり 福井、農協改革で足並みそろわずhttp://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/nationalelections/58465.html
ーーー 自らの首を締めるように、自民党をサポートするJA。衆院選の自民大勝を受けて、米国の農業団体などからは、TPP交渉推進を期待する声が上がっています。
 全米豚肉生産者協議会(NPPC)は12月19日、ニュースレターで、衆院選後のTPP交渉に関する見通しを提示。今後安倍政権は構造改革を推進してゆく分析し、特に農業はその「最大の候補」と主張。「日本農業を競争力のある産業にするには、農産物の輸入障壁をなくすべき」だとしました。
 そのうえで、日本がTPP交渉で農産物重要5品目を関税撤廃の対象から例外にしようとしていることを挙げ、NPPCは「大幅に改善された日本の提案を要求し、特に豚肉の差額関税制度の撤廃を求め続ける」との立場を表明しました。
 さらに米国のシンクタンク・米戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員らも衆院選翌日の15日、今回の選挙結果を分析。「与党の勝利は、安倍首相を農業重要品目などの問題を前に進めるための有利な立場に置いた」と高く評価しました。
 麦などの生産者らで構成される「米国穀物協議会」は、今回の衆院選の意義をホームページで紹介し、「もし安倍首相が支持を得られれば、農業分野などの政治的に難しい問題に取り組む大幅な権限を与えることになるだろう」との見解を提示しました。
 安倍政権の大勝を歓迎する米国とは対照的に、JAは、いよいよ窮地に追い込まれたといえるでしょう。
※日本農業新聞(2014.12.23)TPP前進 期待多く 「農業こそ構造改革を」 衆院選・自民大勝受け米国団体http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=31369
ーーー佐賀県で始まる「安倍政権vs農協」の代理戦争
 一方で、改めて安倍政権と対峙しようとする動きも見え始めています。2015年1月11日投開票の佐賀県知事選で、佐賀県農政協議会は自民党推薦の立候補予定者への支援を見送ることを決定しました。安倍政権とJAの「代理戦争」が勃発しようとしています。毎日新聞の記事を引用します。
 「『(選挙への影響は)かなり出ると思う。あんなに嫌われるとは思わなかった』。佐賀県知事選に自民党推薦で立候補する樋渡啓祐(ひわたし・けいすけ)前武雄市長は22日、党本部で記者団に語った。県農政協議会は『農政そのものが岩盤規制』と首相に同調する樋渡氏を避け、元総務官僚の山口祥義(よしのり)氏を推薦する対抗手段に出た。
(中略)
 全盛期ほどの力はなくなったものの、なお一定の集票力を持つ農協の政治団体『全国農政連』は衆院選を前に、各地の候補者に対し、農協改革を骨抜きにする政策協定への署名を推薦の条件として突きつけた。あるベテラン議員は『推薦を取り付けるまでに政策協定書を3回書き直した』と明かす。『改革に前向き』だとして農協組織へのポスター掲示を最後まで断られた議員もいたという。農政連が推薦した190人の自民党候補の多くは政策協定に同意した模様だ。
(中略)
 政府は年明けにも農協法改正案の骨子を策定し、与党に提示したうえで、年度末に改革の具体案をまとめる日程を描いてきた。統一地方選を前に『伝統的な支持組織とあまり事を構えてほしくない』(同党地方議員)という声は根強いが、経済官庁幹部は『今さら先送りはあり得ず、農協との全面戦争は避けられない』と語り、年明けから攻防が激しくなるとの見方を示した」
※毎日新聞(2014.12.22)農協改革:揺れる自民 選挙実動部隊、無視できずhttp://mainichi.jp/select/news/20141223k0000m010109000c.html
ーーー 「一人でも多くの農家の方々に、自分たちは自らを絞首刑にかけようとする者のために、自らロープを編んでいるのだ、と気づいてもらいたいと思う」
選挙前に書いた誓約書や協定書を突き出し、「約束が違うではないか」と迫ったところで、何の効果もありません。前回の衆院選後に、「TPP断固反対」の公約をあっさりと反故にして、交渉参加を決めた「実績」のある自民党です。
2015-01-03 05:14