第10章 強迫性パーソナリティ障害(OCPD)

第10章 強迫性パーソナリティ障害(OCPD)
ポイント
・強迫性パーソナリティ障害(Obsessive-Compulsive personality Disorder:OCPD)は完璧主義者で、秩序を好み、堅苦しい。
・OCPD患者は柔軟性よりも秩序を尊重する。
・物品、そしてしばしばお金を貯めこむ。
・働き過ぎる。しかしときに細部にとらわれるため仕事がはかどらない。
リッチすぎるってことはありません、痩せすぎってこともありません。
————グローリア・ヴァンダビルト
強迫性パーソナリティ障害(Obsessive-Compulsive personality Disorder:OCPD)患者は秩序を好むこと、完璧主義、コントロールの欲求で知られる。
詳細にこだわるのでしばしば仕事の本筋からそれてしまい仕事を完成させられない。
倫理的な潔癖さと融通がきかないところがあって他人とトラブルになる。
人々は彼らをケチ、緊張が強い、不快と思う。
OCPD患者はコントロールと引換に自然さを失う。
キーポイント
OCPD患者は必ずしも強迫性障害(OCD)に苦しむわけではない。
OCDでは強迫観念かまたは強迫行為がある。
OCPDではどちらもない場合があり、ただある種の行動と思考のスタイルがあるだけである。
強迫思考は持続的反復的思考または衝動であり、患者は止めることができない。こうした思考は不安を引き起こす。
OCD患者は強迫思考を無視しようとし、それは自分の思考の産物であることを知る。シゾフレニーの場合はこれとは違い、どこか外部から思考がやってくると本人は信じている。
強迫行為はまたOCDで見られる。手洗い、整理整頓、数えるなどの精神の活動である。この行為や思考は不安を軽くするための対処である。しかし、強迫思考や強迫行為それ自体が、不快で、時間の浪費になる。もちろん、この思考や行為は薬剤や身体病に原因するものではない。
OCPDは女性よりも男性に多い。家族内伝達がある。かつての精神分析理論によれば、彼らは自分の感情を信頼しない、そして子供時代に厳しいしつけを受けた、隔離(isolation)、反動形成、合理化などの機制がOCPD患者のシステムを作っているという。
症例スケッチ
ロンは仕事している時が一番快適だった。24時間営業の大きなドラッグストアのチェーン店でマネージャーとして働いていて従業員が5人いた。彼は几帳面で正確で正直で、従業員にも同じ事を期待した。
従業員の一人であるジョンが毎週木曜日に早く帰っているのを見つけ、さらにタイレノール(鎮痛剤)のボトルを支払いをせずに持ち帰っているのを見つけた。その日はジョンが自分のシフトよりも一時間早く帰ろうとしていたのでロンはジョンの鞄を開けた。「思ったとおりだ」彼は言って、タイレノールの未開封のボトルを2つ、鞄に見つけた。「在庫表では紛失になっている。お前はくびだ!」
「ロン、説明させてくれ。母親が・・・」ジョンが許してくれと言った。
「言い訳はいらない。月曜日に本部に連絡して給料から差し引いておく。」
ジョンは22歳の高校中退、病気の母と公営住宅に住んでいた。
彼は泣き出した。「母親はガンなんだ。痛むからこの薬が必要なんだ。」他の従業員や客がジョンとロンの周りに集まった。一人の男が進み出てタイレノールの代金を自分が代わりに支払うと申し出た。
「いいえ、それはいけません。」ロンは言ってその客にお金を返した。ジョンは店から走り去った。他の従業員はロンにジョンを連れ戻してほしいと嘆願した。ロンはノーと言って、みんなに仕事に戻るように言った。
月曜日にロンは本店の上司に呼ばれた。「ジョンのことは聞いていますよ」彼女は大きな机の向こうから注意深く話した。
「クビじゃなくて、休暇にすればよかったと私たちは思っていますよ」
「何だって!彼は盗もうとしていた。私はそれを止めた。それが本当のことです。」ロンは誰かが自分をとがめるのを聞いて驚いた。彼はいつも上司には敬意を払っていた。上司が理解しないので彼は細かく説明しようとした。ボスはそれを遮って言った。「私たちはあなたが仕事を完了できないしスケジュールを守らないのが問題だと思っています」
「私はとても注意深いし正確です。きちんと仕事をしています。」ロンはまっすぐ立ち上がって言った。
「あなたは固すぎるでしょう。従業員はみんなあなたのことで苦情を言っています。申し訳ありませんが、謹慎とさせてください。」
「謹慎?私は誰よりの長い時間働いています!仕事が一番大事なんです。」
「ごめんなさいね。これは決定なんです。」
ロンは信じられなかった。彼は泥棒を見つけて会社のお金を守った。それなのに謹慎なんて!理屈が通らない。15年間彼は仕事に献身してきたし、誠実だった。
55歳になって他の職を探すのは難しいと途方に暮れた。彼には妻も子もいない。仕事に没頭しすぎた人生だった。
ディスカッション
ロンは法律的には正しかった。ジョンは盗んではいけなかった。しかしロンはもっと柔軟になってジョンの状況を理解し彼にもう一度チャンスをやっても良かった。ジョンは貧しい中で育ってみんなに好かれていた。彼はそれまで盗まずに我慢できていたのだが、母親が苦しんでいるのを見て衝動的に行動してしまった。
ロンは冷酷でジョンにも他の従業員にも人間として無関心だった。
彼は従業員に服従を強いて、彼の流儀で仕事するように要求した。しかしそれはしばしばベストな方法ではなかった。皮肉なことに、クビになったのはロンで、首がつながったのはジョンだった。ロンは結論の不正義については怒りを感じなかった。彼が考えたのは、首になるにあたって自分の机から何を持って帰るかという詳細だった。
彼は自分の感情と環境に対してのコントロールを維持する必要があった。
OCPDの患者はうつ病や不安症になっていなければ精神科医を訪れることはあまりない。自己愛パーソナリティ障害と鑑別しなければならないが、自己愛パーソナリティ障害の場合には、完全を求めると言うよりは、自分は完全であると信じている。
反社会性パーソナリティ障害は不寛容な点でOCPDと似ているが、他人を常に害する点で異なっている。
シゾイドパーソナリティ障害の人々はよそよそしくて形式的な点で似ているが、OCPDの場合はもっと不愉快な感情が明白で、仕事に没頭する。
キーポイント
OCPD患者を扱う
ベストな方法は、彼らの延々と続くリストを優しく中断することである。
OCPD患者は、治療者が優しくていねいに接することで、彼らの詳細にこだわる傾向を和らげることができる。
治療者は彼らの完璧への欲求を批判しない一方で、仕事は終わったほうがいいと指摘し続けることが大切である。
彼らは仕事を他人にお願いしようとは思わないし、スケジュールを空けるということも考えられない。
精神療法は支持的で洞察に導く方法が良いだろう。集団療法は利益があることがある。
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次の8つのうち4つ以上あてはまると強迫性人格障害を疑う。
  1. 何がなんだか分からないくらいに小さなこと、規則、構成、予定表などにこだわる。
  2. 必要以上に完璧主義にこだわりすぎて、達成できないことがある。
  3. 娯楽や友人関係を犠牲にしてまで仕事にのめり込む。
  4. ひとつの道徳、倫理、価値観にとらわれすぎて、融通が利かない。
  5. とくに思い出があるわけでもないのに使い古したモノや価値のないものを捨てることができない。
  6. 他人が自分のやり方に従わない限り、仕事を任せることができない。
  7. 自分のためにも他人のためにもお金に対してケチである。お金は将来の何時かに備えて蓄えておかなければならない。
  8. 頑固である。