よい睡眠のために

最近の睡眠の記事、採録

1.睡眠時間はひとそれぞれ。日中の眠気で困らなければ十分

 これは今回繰り返し語られたことだ。歳をとると必要な睡眠時間は短くなり、壮年では7時間台が平均、70歳を過ぎると6時間弱になる。3時間睡眠で充分な人も10時間以上眠らなければならない人も、まれにいる。誰も彼もが「8時間睡眠の神話」に縛られすぎると、睡眠への不満や不安が高まるばかりなので、自分の日中のパフォーマンスが悪くならない睡眠時間が最適と心得るのがよい。
2.刺激物をさけ、眠る前には自分なりのリラックス法を
 これは、経験則としても、よく言われてきたことかもしれない。三島さんの説明はこんなふう。
「カフェインは、コーヒーだけじゃなく、烏龍茶ですとかいろんなものに入ってまして、玉露なんてコーヒーの3倍以上。体の中で大体4時間くらいはカフェインは持続しますから、就床前4時間のカフェイン摂取は避けたほうがいいです。また、軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、軽い運動などリラックスは人によっては効果的です。ただし、皆に効果があるというエビデンス(疫学的な証拠)はないですし、ましてやそれをベッドの上でするのは逆効果ですから」
 ベッドの上はあくまで睡眠を取るところ。認知行動療法の紹介で述べたように、ベッドの中でわざわざ知覚を刺激し、脳波を覚醒させ、それでも眠れない自分を意識した時に、泥沼が始まるという考えだ。
3.床につくのは眠たくなってから。入眠する時刻にこだわらない
4.同じ時刻に毎日起床
5.光を利用。目覚めたら日光を入れ、夜の照明は控えめに
「早くから寝床に入らない、長く寝ることにこだわらないということですね。強迫観念になると不眠への第1歩ですから。同じ時刻に起きるのも大事。朝、目を開けて、光が網膜に入ってくるタイミングが毎日ずれると、眠れる時間帯も毎日変わってしまいます。何時頃に眠れるか自分では予測がつかないですから、むしろ朝のタイミングをきちんと合わせましょうということです。これ、要するに週末に寝だめするなということにも通じるんです。私達の体内時計は、平日の間に出勤などで早起きをして日光を浴びることで、夜型の人でも元々の睡眠リズムを数時間朝型に調整して、なんとか適応していくのに、土日の2日間たくさん眠りすぎると一気に元に戻ってしまうので週明けが大変になります。リズムが大幅にずれて、それ自体が一種の時差ぼけなんですね」
 この件で、三島さんは、「寝不足は蓄積しますが、寝だめはできません」とも強調していた。週末に眠りすぎると平日になんとか合わせていたリズムがずれるだけで、月曜日、睡眠時間が減れば即寝不足。悲しいことに、それが本当なのだという。
6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
「体内時計に一番影響を与えるのは光なんですが、非光同調といって光以外の要素も大事なはたらきをすることがわかってきています。例えば食事や運動です。体内時計を司る時計遺伝子はすべての細胞の中にあるんですが、消化管や肝臓、骨の時計は必ずしも光ばかりではなく、食事の刺激や、運動で骨に圧力がかかることなどが、時間調整に重要になります」
7.昼寝をするなら、午後3時前の20~30分。長い昼寝はかえってぼんやりのもと
「最近よく言われてることですけど、昼寝をして30分くらいたってしまうと、深い睡眠、深睡眠の状態になります。そこまでいくと、夜中にかなり響くんですね。よく言われるのはコーヒー飲んでから昼寝しなさいとか。カフェインが口から入って脳に効くのに大体20~30分かかるので、効き始めた頃に昼寝を終えられる、ということです」
8.眠りが浅いときは、睡眠時間を減らし、遅寝・早起きにしてみる
 まさにこれは不眠症の行動心理学的な治療にも通じる。眠たくないなら眠たくなるまで待てばよいという発想。
「早寝、早起き、朝ご飯って、文科省が掲げた標語もあります。あちこちで推奨されていますけど、実はあれ、批判も出ているんです。特に早寝から始めるのは難しい。早寝早起きを実行するならば、早起きから始めて、光による時計の調整と睡眠不足をうまく利用して徐々に早寝につなげるのがよいでしょう」と三島さん。
 なお、文科省が掲げる標語は、人生の中でも非常に睡眠時間も必要で、かつ人生で最も夜型になる、児童から思春期の子に言われるわけで、これはかなりきつい。
 では、どうすればいいのだろう。
「登校時間を遅くする、などと言っても現実味がないでしょうね。久留米の高校で、積極的に昼寝を活用して成績向上につなげた例があります。また、夜型が進むのを防ぐために、夜間照明を絞ったり、時計に影響しない暖色系照明を利用するといった工夫もよいでしょう」
9.激しいいびき、呼吸停止、足のぴくつきやむずむず感などは要注意
 いびきと睡眠時無呼吸の関係はよく取りざたされる。また、足のむずむず感は、最近注目されつつあるレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)だ。専門医にかかった方がいい。では足のぴくつきとは?
「眠っている時にあしがぴくつく人は多いんです。周期性四肢運動障害といいます。夜中じゅう出てる人もかなりいるんですよ。ぴくつきで目覚めても、本人はあんまり気づかない。ベッドパートナーが最初に気づくことがあります。眠りの害にならないピクつきもあるんですが、何回も何回もそれで覚醒するために、知らない間にほとんど浅い睡眠しかとってないっていう人もいるんです」
10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門家に相談
11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
 11の寝酒については、かなり一般的に語られているとも思う。個人的には入眠するのにお酒は役立つけれど、眠りが浅くなると感じる。さらに翌朝にも残るような飲み方をすると、次の日のパフォーマンスに著しく影響する。
 三島さんは言う。
「晩酌と寝酒の区別をしてほしいんです。私たちもそれなりに頑張って、いろんなところで喋っています。最低、眠るまでに4
時間のインターバルがほしい。でも、やっぱり皆さん勘違いしてらして、『先生、養命酒だったらいいんでしょ』とか言われるんです。眠れないなら、睡眠薬がある。でも、睡眠薬って、日本の皆さんはすごく怖がるんですね。たしかに50年くらい前に使われた薬は、飲みすぎると呼吸が止まったり大変だったんです。でも、最近の薬、特にここ10年くらいに開発された薬は、長期間飲んでも、耐性、つまり効果が減弱したりすることもなく、不眠症が治ったときに減薬や休薬するのも簡単です。少なくともお酒を飲んで寝るよりも体にもダメージが少ないと言えます。お酒は、睡眠に関していえば、百害あって一利なしですね」