第28章 パーソナリティ障害と物質乱用

第28章 パーソナリティ障害と物質乱用
ポイント
・どのパーソナリティ障害でも物質乱用が起こる場合がある。
・物質乱用ともっとも関係が多いのは反社会性パーソナリティ障害と自己愛性パーソナリティ障害である。
・薬物乱用とは1年に及ぶ不適応的な物質使用のパターンであり、法律的、社会的問題が起こり、家庭、職場、学校で不全状態になるものである。
・物質依存は耐性、離脱、強迫的使用を含む。
・物質としては、アルコール、アンフェタミン、カフェイン、カンナビス(大麻)、コカイン、ハルシノーゲン(STP)、オピオイド(アヘン)などがある。
朝からビール
朝からビール
先のことは知らないが終わりはだいたい同じさ
—–Jim Morrison, “Roadhouse Blues"の歌詞
物質は気分や行動に影響し、患者が物質の影響下にあるときはシゾフレニーや双極性障害、そのほかいろいろな精神病に見えることがある。
パーソナリティ障害の人はもうそれだけで大変なのに、しばしば物質乱用してさらに問題を抱えることになる。アルコールとニコチンがもっとも代表的な乱用物質である。しかしマリファナとコカインもかなり多い。男性は女性よりも物質乱用になりやすい。物質乱用者は反社会性パーソナリティ障害と診断されやすい。物質乱用または依存の患者のおそらく40から50%は反社会性パーソナリティ障害だろう。患者は衝動的で孤立していて、抑うつ的である。もし反社会性パーソナリティ障害の人が抑制されると、社会規範に従うとか、衝動性や攻撃性を抑えるとか、責任を取ることはさらに難しくなるであろう。彼の性格のすべてが、そもそも、彼をアルコールと「クラック」に向かわせている。
キーポイント
境界性パーソナリティ障害は対人関係が不安定で強烈であり、そのことが患者を困らせる。彼らは感情を調整するためにアルコールや「ダウナー」のような物質を使う。
境界性パーソナリティ障害患者は衝動的にむちゃ食いしたり物質乱用したりする。「空っぽだ」と感じたり見捨てられたと感じたとき、薬剤や酒で満たそうとする。
自己愛的パーソナリティ障害患者は誇大感を維持する必要があるので、物質が役立つ。自分は「特別だ」と思うので、もちろん、普通の人々のように依存するのではない。 
彼らは欲しいもの何にでも特権があると思っている。
妄想性パーソナリティ障害ではいつも緊張して警戒しているのでリラックスするために酒を飲む必要がある。彼らが神経刺激薬やコカインを使ったら、自分が本当のパラノイア(偏執狂)だと思い知るだろう。
スキゾイド、回避性、依存性パーソナリティ障害患者はアヘンを使う傾向がある。アヘンはスキゾイドをさらに内向的にし、回避性をさらに人々から遠ざける。依存性は「麻薬密売人」に依存し、あるいは別の物質依存者に依存するだろう。
自己敗北的パーソナリティ障害患者は常に酒やたばこをやって仕事をさぼる。スキゾタイパルではマリファナや他の物質により自分を失ってしまうこともある。 
キーポイント
パーソナリティ障害患者は物質乱用があるとさらに処遇困難になる。
第一段階は患者を薬剤から引き離すことである。アルコール、アヘン乱用、コカイン中毒に入院は有効である。いったん断薬ができれば治療可能になる。AA(アルコール・アノニマス)やNA(ナルコティックス・アノニマス。薬物依存者の自助組織)のような生涯続くようなプログラムに出席することが必要になることがしばしばである。パーソナリティ障害患者が自分を変えることはどんなに困難であるかを治療者は知っている。彼らが困惑しているところに、物質乱用が加わり、さらにもう一つ、自分では変えられない難物が増えることになる。
症例スケッチ
ワンダ、30歳、営業部長、痩せる秘密の方法を持っていた。毎日数百ドル分のコカインを吸引。
誰にも秘密を知られたくなかったが、震えたり、会議中に頻繁に出て行ったりして、みんなが不審を抱くようになっていた。
自分は特別で特権が与えられていると思っていたので、秘密は露見していても、大目に見てくれるだろうと確信していた。
コカイン嗜癖が6ヶ月続いて、ワンダは週末にボーイフレンドと気晴らしにコカイン吸入を始めた。そしてクラックはやっていないのが誇りだった。コカインを吸っているだけなら自分をコントロールできると思っていた。
結局ワンダは毎日コカインを使ったのですぐになくなり、売ってもらうために恐ろしい隣人のところまで車を走らせなければならなかった。
密売人は彼女が行く雑貨屋の在庫係の少年だった。彼は値段を吊り上げ始めた。ワンダは彼の言いなりに支払うしかなかった。彼は安売りはしなかった。ある夜ワンダが雑貨屋に行った時、彼がいなかった。店の主人は、彼はいつもいないと嘆いた。ワンダはお色気で店の主人を誘惑したが、彼は少年の居所を教えてくれなかった。彼女は偏執的になり店の中のみんなが彼女を注視していると被害妄想を抱いた。彼女は店を出て二度と戻らなかった。長い間探しまわった挙句、コカインの売人を自分の会社のビルで見つけた。しかし彼の売値は在庫係の少年の二倍だった。しかしそれは問題ではなかった。ワンダは言いなりに支払った。給料全部とマンションを抵当に入れて借金もした。
コカインはワンダの全てになった。コカインなしの生活はありえなくなった。コカインは食欲を抑制したので20ポンド軽くなった。最新ファッションを身に着けて魅力的だった。女友達はみんな羨ましがっていることを知っていた。彼女は信じられないような存在で、休みなく12時間働いて、疲れを知らなかった。
睡眠は2、3時間で充分で、落ち着かない時にはコカインを吸うだけでよかった。
ある日、会議で重要な顧客がいるとき、ワンダは集中できなくてイライラしていた。言い訳をして女子トイレに駆け込みコカインを吸った。帰ってきた時、彼女はしきりに書類に屈み込み、鼻血が流れた。みんなが心配して、ティシューを手渡しし、椅子に座って頭を高くして後ろに傾け、鼻血を止めるように言った。次の日、人々が鼻血の原因は何だったか知っているという妄想に駆られ、コカインをやめることに決めた。
非常にだるくて眠くなった。喫茶店ではサラダもコーヒーも頼まず、パ
ンケーキとマカロニとチーズを食べた。でんぷん質の食事を貪るように食べ、そのあとでチョコレートケーキを食べた。頭痛がして集中できなかった。なんとかして3日はコカインをやめたが、売人は彼女にクラックをただで与え、パイプを使わせた。ワンダは抵抗したが、彼に太ってきたと言われて、クラックを使おうと思った。
彼女は彼のパイプを持って女子トイレに行き、数分のうちにハイになった。それから数日、彼女は自分の主義を忘れてクラックを大量に使った。彼女はとうとうプライマリー医師を訪れ、社会復なプログラムに参加することになった。ナルコティック・アノニマス(薬物依存者の自助組織)に参加した後も、コカインをやめるまでに6回、逆戻りした。
ディスカッション
ワンダは自己愛性パーソナリティ障害である。その事が彼女のコカイン中毒を助長した。コカインを吸っていれば、誇大的で、特別で、賞賛されて、特権を許されて、傲慢でいられた。
コカイン中毒者はコカインに大金を投じるので、容易に盗みをしたり、薬物を売ったり、売春をしたりする。純度が高くなると元気が出て、社交的になり、多動で、過敏になり、判断力が損なわれる。耳鼻咽喉科の専門医が診察して、吸入のために鼻中隔に穴が空いていることが分かった。
ワンダは6回逆戻りしてそれは数多いように思うが、珍しいことでもない。自己愛性パーソナリティ障害が回復を妨げた。コカインを使っていると彼女は無限の成功と美を空想することができたし、思い通りの姿に自分を夢見て、傲慢で特権的でいられた。