“たとえば,うつ病は近年知名度が上昇し,「うつ病患者をむやみに励ましたらダメ」という程度は誰でも知っているレベルにまで到達した。一方,精神病として の「うつ病」と,巷で言われるうつ病には乖離が存在する。精神病とは脳の機能不全・異常による精神の変調であるから,明確に病気である。しかし,特にうつ 病の場合,表面上は正常の落ち込みと見分けがつかないところが困難であるため,正常な落ち込みまでもうつ病と素人判断される風潮が広まってしまった。 何かはっきりした原因で気分が落ち込んでいる状態で,かつその原因をとりのぞ

“たとえば,うつ病は近年知名度が上昇し,「うつ病患者をむやみに励ましたらダメ」という程度は誰でも知っているレベルにまで到達した。一方,精神病として の「うつ病」と,巷で言われるうつ病には乖離が存在する。精神病とは脳の機能不全・異常による精神の変調であるから,明確に病気である。しかし,特にうつ 病の場合,表面上は正常の落ち込みと見分けがつかないところが困難であるため,正常な落ち込みまでもうつ病と素人判断される風潮が広まってしまった。
何かはっきりした原因で気分が落ち込んでいる状態で,かつその原因をとりのぞけば復調するものは,「正常な気分の落ち込み」 であり,うつ病ではない。この方の場合,原因は失恋で明白であり,脳の機能に異常が見られないのだから,精神病ではない。
加えて,あまりにもうつ病が特権的地位を得てしまったため,擬態うつ病などという現象まで登場した。うつ病と診断されれば,周囲の人がいたわってくれる。 だから皆,気分が落ち込んだ時にはうつ病と診断されたがる。しかし,擬態うつ病患者に薬を投与しても,治らないどころか悪化する可能性がある。
共通して言えることは,精神病の場合「正常」と「異常」の境界があいまいで専門家にも判断が難しく,患者本人や社会の要請により境界はしばしばゆらめく。 ではグレーゾーンをひとまずすべて異常と判断し,治療するほうが良いのではないか?とする意見も多い。しかしそのためには膨大な精神科医が必要で医療費も 膨れ上がる。実際,近年の精神科医の開業数や,抗うつ剤の売上は完全に右肩上がりである。ゆえに,サイコバブルは製薬会社の仕業という陰謀論まで存在する。
一方,前述のうつ病のように,必ずしもなんでもかんでも異常と判断することが良いとは限らない。うつ病と擬態うつ病の関係に限らず,それぞれの精神病には それぞれ特有の問題がつきまとう。そもそも,誰かしら人生のどこかのタイミングで大きく落ち込んだり,何かに依存することや,たまたまその集団の空気を まったく読めなかったりすることはある。それらを含めて,なんでもかんでも異常として診断いたら,冗談抜きで,むしろ健常者が消滅してしまう。これがサイコバブル社会の正体である。その根底にあるのは,精神病の生半可な知識の流布と急激に成長する精神病世界に社会が追いついていないことだ。安易な診断をしてしまうことを,21
精神科医にも世間にも警鐘を鳴らしている。”