第12章 スキゾタイパル(シゾタイパル)パーソナリティ障害(SPD)

第12章 スキゾタイパル(シゾタイパル)パーソナリティ障害(SPD)
ポイント
・スキゾタイパル(シゾタイパル)パーソナリティ障害(SPD)は奇妙な信念、魔術的思考を持っている。
・感情は制限されていて、行動は風変わりである。
・身体幻覚があったり、妄想があったりする。
彼はすごく変わった人で、私の脊髄に振動を送ってよこす。
—–ニューヨーク市ベルヴュー病院センター入院担当ナース
スキゾタイパル・パーソナリティ障害(SPD)についてスキゾイド・パーソナリティ障害(第3章)と混乱しないように区別をはっきりさせよう。
SPD患者は対人関係において極端に不快を感じるが、それはスキゾイド・パーソナリティ障害の患者とは違っている。スキゾイドもまた通常の対人関係を快適に営むことができない。違いはスキゾタイパルは奇妙で妄想的であることである。スキゾイド・パーソナリティ障害の患者はそれほど奇妙ではない。ただ孤立しているだけである。
SPDでは迷信的で超常的なことに興味を持つ。他人はSPDをエキセントリックで普通と異なると感じる。一方でスキゾイドについてはこのようには感じない。
もうひとつ違いをあげると、SPD患者は対人関係を求めるのに、スキゾイドは関係を求めない。SPD患者が対人関係でトラブルを起こすのは、関係妄想的で奇妙な信念を抱き奇妙な声を聞き、不安症でパラノイアだからである。
SPD患者は他人を信じることができない。
魔法使いのおばあさん(スキゾタイパル)とひきこもりの美少女(スキゾイド)くらいの違いはある。
キーポイント
患者が体験している社交恐怖はⅡ軸のパーソナリティ障害かもしれない。
患者は社交恐怖で苦しんでいると単純に思っていたところが、病歴を検討し症状を再検討してみると、パーソナリティ障害が問題の背景にあったということがよくある。
特に患者が特に奇妙で思い込みが強い時にはパーソナリティ障害があることが多い。
もし患者と関わることが難しくて、患者の感情が制限されていてエキセントリックであり、しかも患者が幻覚も妄想もある派手な精神病でないならば、その人はSPDの可能性が高い。
社交恐怖のある人は社交場面やパフォーマンス場面を恐れ、恥をかくことを恐れる。彼らはその恐怖は過剰である事を知っているのだが、そのような場面を回避しようとする。しかし彼らは奇妙でもないし思い込みが強いのでもない。
SPDの症状はシゾフレニーでも見られる。初期のバージョンのDSMでは、SPDと他のクラスターAのパーソナリティ障害はシゾフレニーと分離すべきと考えられていたのだが、シゾフレニーからクラスターAに至るスペクトラム(連続体)と考えて治療や家族対応を考えることは有益であろうと思われている。
症例スケッチ
ジョージはハンサムな25歳、黒い服を緩く着て、ファッショナブルと言うよりは奇妙な感じに見える。
彼は他人が怖いと訴えた。彼の動きは固いし、帽子のつばは広くて、下に引いているので視線が合わないということもあり、人々にとってエイリアンという感じがした。
彼は社交恐怖の治療を求めて精神科医を訪れレキサプロ(エスシタロプラム)10ミリを処方された。1ヶ月後同僚とは前よりは困惑しないで気まずくないと報告した。
巨大企業のITスタッフとしてあちこち動きまわり、自分のデザインしたプログラムの使い方を説明した。このとき手が震えるのではないかと心配になった。ジョージの父はアルコール症で、幼い頃ジョージは虐待を受けていた。母親は付き合いにくい要求の多い人でジョージに完璧を求めた。学業とスケートで彼は素晴らしい成績だった。レクサプロのおかげで同僚とは少し気楽に付き合えるようになった。しかし地下鉄に乗っていて気がついたのだが、他人の「エネルギー」領域を侵略しないように、また侵略されないように立つ位置に気をつけなければならなかった。つまり膝を揃えて座り、首を下げて、手は膝の上に置く、この姿勢を崩すと男性ならば敵意を示し、女性なら「性的波動」を送っていることになるという。このことが分かって、精神科医は処方にエビリファイ5ミリを加えた。1週間して患者は少し気分がいいと報告した。
ディスカッション
地下鉄での彼の考えには多少理由があるとの議論もあるだろう。もし彼が足を広げて投げ出していれば、混み合っている時他の乗客は縄張り行動的だと思うだろうし、空間を侵略していると思うかもしれない、また女性ならば彼はいちゃつきたいのかと思うかもしれない。しかしジョージの考えは魔術的思考の一種であり、この奇妙な思い込みはSPDに分類されるだろう。
薬を服用した後で同僚と気分よく過ごせたことや地下鉄である程度リラックスして過ごせたことはSPDの診断を妨げるものではない。
服薬でパーソナリティ障害の患者が楽になることも多いが、決して「治癒」に至るのではない。SPDは、妄想性疾患、シゾフレニー、精神病性気分障害と鑑別する必要がある。
キーポイント
オカルトやおかしなことを信じている場合には、裁判官みたいにならないこと。
SPD患者は神秘的なことやオカルト的な考えに至ることがある。精神療法中に治療者はSPD患者を正してあげたいと強く思うだろうが、魔術的思考に反対して指示的になるのはやめたほうがいい。指示的でないほうが患者と治療同盟を進展させやすい。SPD患者の奇妙さに耐えて治療同盟を育てれば、患者には大いに助けになるだろう。
 
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以下9つのうち5つ以上あれば、分裂病型人格障害を疑う。
  1. 関係念慮
  2. 迷信深かったり、テレパシー、第六感を信じている。
  3. 実際には存在しないはずの力や人物の存在を信じる。
  4. 考えや会話が奇妙である。(会話の内容が乏しかったり、ずれていたり、細かいことにこだわったり)
  5. 疑い深く、妄想じみた考えを持っている。
  6. 感情が不適切で乏しい。身振りそぶりが滅多にない。
  7. 外観や行動が奇妙で、風変わりである。
  8. 親しい友人がいない。家族以外に信じられる人がいない。
  9. 社会に対して過剰な不安をいつも持っている。それは妄想的な不安でもある。