伊丹万作。 「多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。 みながみな口を揃えてだまされていたという。 それは、「だまし」の専門家と「だまされ」の専門家とに劃然と分れていた わけではなく、いま、一人の人間がだれかにだまされると、次の瞬間には、 もうその男が別のだれかをつかまえてだますというようなことを際限なく くりかえしていたので、つまり日本人全体が夢中になつて互にだましたり だまされたりしていたのだろうと思う。   少なくとも戦争の期間をつうじて、だれが一番直接に、そして連続的に 我々を圧迫しつづ

1946(昭和21)年8月「映画春秋 創刊号」伊丹万作。 「多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。 みながみな口を揃えてだまされていたという。 それは、「だまし」の専門家と「だまされ」の専門家とに劃然と分れていた … Read more 伊丹万作。 「多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。 みながみな口を揃えてだまされていたという。 それは、「だまし」の専門家と「だまされ」の専門家とに劃然と分れていた わけではなく、いま、一人の人間がだれかにだまされると、次の瞬間には、 もうその男が別のだれかをつかまえてだますというようなことを際限なく くりかえしていたので、つまり日本人全体が夢中になつて互にだましたり だまされたりしていたのだろうと思う。   少なくとも戦争の期間をつうじて、だれが一番直接に、そして連続的に 我々を圧迫しつづ