徒然草30段:人の亡き跡ばかり、悲しきはなし。 中陰のほど、山里などに移ろひて、便あしく、狭き所にあまたあひ居て、後のわざども営み合へる、心あわたたし。日数の速く過ぐるほどぞ、ものにも似ぬ。果ての日は、いと情なう、たがひに言ふ事もなく、我賢げに物ひきしたため、ちりぢりに行きあかれぬ。もとの住みかに帰りてぞ、さらに悲しき事は多かるべき。「しかしかのことは、あなかしこ、跡のため忌むなることぞ」など言へるこそ、かばかりの中に何かはと、人の心はなほうたて覚ゆれ。 年月経ても、つゆ忘るるにはあらねど、去る者
徒然草30段:人の亡き跡ばかり、悲しきはなし。 中陰のほど、山里などに移ろひて、便あしく、狭き所にあまたあひ居て、後のわざども営み合へる、心あわたたし。日数の速く過ぐるほどぞ、ものにも似ぬ。果ての日は、いと情なう、たがひに言ふ事もなく、我賢...