下部(しもべ)に酒飲まする事は、心すべきことなり。宇治に住み侍りけるをのこ、京に、具覚房(ぐかくぼう)とて、なまめきたる遁世の僧を、こじうとなりければ、常に申し睦びけり。或時、迎へに馬を遣したりければ、『遥かなるほどなり。口づきのおのこに、先ず一度せさせよ』とて、酒を出だしたれば、さし受けさし受け、よよと飲みぬ。 太刀うち佩きてかひがひしげなれば、頼もしく覚えて、召し具して行くほどに、木幡(こはた)のほどにて、奈良法師の、兵士あまた具して逢ひたるに、この男立ち向ひて、『日暮れにたる山中に、怪しきぞ。止
下部(しもべ)に酒飲まする事は、心すべきことなり。宇治に住み侍りけるをのこ、京に、具覚房(ぐかくぼう)とて、なまめきたる遁世の僧を、こじうとなりければ、常に申し睦びけり。或時、迎へに馬を遣したりければ、『遥かなるほどなり … Read more 下部(しもべ)に酒飲まする事は、心すべきことなり。宇治に住み侍りけるをのこ、京に、具覚房(ぐかくぼう)とて、なまめきたる遁世の僧を、こじうとなりければ、常に申し睦びけり。或時、迎へに馬を遣したりければ、『遥かなるほどなり。口づきのおのこに、先ず一度せさせよ』とて、酒を出だしたれば、さし受けさし受け、よよと飲みぬ。 太刀うち佩きてかひがひしげなれば、頼もしく覚えて、召し具して行くほどに、木幡(こはた)のほどにて、奈良法師の、兵士あまた具して逢ひたるに、この男立ち向ひて、『日暮れにたる山中に、怪しきぞ。止