「羅(うすもの)の表紙は、疾く(とく)損ずるがわびしき」と人の言いしに、頓阿(とんあ)が、「羅は上下はつれ、螺鈿(らでん)の軸は貝落ちて後こそ、いみじけれ」と申し侍りしこそ、心まさりして覚えしか。一部とある草子などの、同じやうにもあらぬを見にくしといへど、弘融僧都(こうゆうそうず)が、「物を必ず一具に調へんとするは、つたなき者のする事なり。不具なるこそよけれ」と言ひしも、いみじく覚えしなり。 「すべて、何も皆、事のととのほりたるは、あしき事なり。し残したるをさて打ち置きたるは、面白く、生き延ぶるわざな
「羅(うすもの)の表紙は、疾く(とく)損ずるがわびしき」と人の言いしに、頓阿(とんあ)が、「羅は上下はつれ、螺鈿(らでん)の軸は貝落ちて後こそ、いみじけれ」と申し侍りしこそ、心まさりして覚えしか。一部とある草子などの、同 … Read more 「羅(うすもの)の表紙は、疾く(とく)損ずるがわびしき」と人の言いしに、頓阿(とんあ)が、「羅は上下はつれ、螺鈿(らでん)の軸は貝落ちて後こそ、いみじけれ」と申し侍りしこそ、心まさりして覚えしか。一部とある草子などの、同じやうにもあらぬを見にくしといへど、弘融僧都(こうゆうそうず)が、「物を必ず一具に調へんとするは、つたなき者のする事なり。不具なるこそよけれ」と言ひしも、いみじく覚えしなり。 「すべて、何も皆、事のととのほりたるは、あしき事なり。し残したるをさて打ち置きたるは、面白く、生き延ぶるわざな