“ 「御退屈だろうと思って、御茶を入れに来ました」 「有難う」 また有難うが出た。菓子皿のなかを見ると、立派な羊羹が並んでいる。余はすべての菓子のうちで尤も羊羹が好きだ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた練上げ方は、玉と蠟石の雑種のようで、甚だ見て心持ちがいい。のみならず青磁の皿に盛られた青い練羊羹は、青磁のなかから今生まれたようにつやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる。西洋の菓子で、これほど快感を与

“ 「御退屈だろうと思って、御茶を入れに来ました」 「有難う」 また有難うが出た。菓子皿のなかを見ると、立派な羊羹が並んでいる。余はすべての菓子のうちで尤も羊羹が好きだ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、 … Read more “ 「御退屈だろうと思って、御茶を入れに来ました」 「有難う」 また有難うが出た。菓子皿のなかを見ると、立派な羊羹が並んでいる。余はすべての菓子のうちで尤も羊羹が好きだ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた練上げ方は、玉と蠟石の雑種のようで、甚だ見て心持ちがいい。のみならず青磁の皿に盛られた青い練羊羹は、青磁のなかから今生まれたようにつやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる。西洋の菓子で、これほど快感を与