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徒然草第175段:世には、心得ぬ事の多きなり。

徒然草第175段:世には、心得ぬ事の多きなり。ともある毎(ごと)には、まづ、酒を勧めて、強ひ飲ませたるを興とする事、如何なる故とも心得ず。飲む人の、顔いと堪え難げに眉を顰め、人目を測りて捨てんとし、逃げんとするを、捉へて引き止めて、すずろに...
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徒然草第188段:或者、子を法師になして

徒然草第188段:或者、子を法師になして、「学問して因果の理をも知り、説教などして世渡るたづきともせよ」と言ひければ、教のままに、説教師にならんために、先づ、馬に乗り習ひけり。輿・車は持たぬ身の、導師に請(しょう)ぜられん時、馬など迎へにお...
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徒然草第168段:年老いたる人の、一事すぐれたる才のありて、『この人の後には、誰にか問はん』など言はるるは、老の方人にて、生けるも徒らならず。さはあれど、それも廃れたる所のなきは、一生、この事にて暮れにけりと、拙く見ゆ。『今は忘れにけり』と言ひてありなん。 大方は、知りたりとも、すずろに言ひ散らすは、さばかりの才にはあらぬにやと聞え、おのづから誤りもありぬべし。『さだかにも辨へ(わきまえ)知らず』など言ひたるは、なほ、まことに、道の主とも覚えぬべし。まして、知らぬ事、したり顔に、おとなしく、もどきぬべ

徒然草第168段:年老いたる人の、一事すぐれたる才のありて、『この人の後には、誰にか問はん』など言はるるは、老の方人にて、生けるも徒らならず。さはあれど、それも廃れたる所のなきは、一生、この事にて暮れにけりと、拙く見ゆ。『今は忘れにけり』と...
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徒然草第167段:一道に携はる人、あらぬ道の筵に臨みて、『あはれ、我が道ならましかば、かくよそに見侍らじものを』と言ひ、心にも思へる事、常のことなれど、よに悪く覚ゆるなり。知らぬ道の羨ましく覚えば、『あな羨まし。などか習はざりけん』と言ひてありなん。我が智を取り出でて人に争ふは、角ある物の、角を傾け、牙ある物の、牙を咬み出だす類なり。 人としては、善に伐らず(ほこらず)、物と争はざるを徳とす。他に勝ることのあるは、大きなる失なり。品の高さにても、才芸のすぐれたるにても、先祖の誉にても、人に勝れりと思へ

徒然草第167段:一道に携はる人、あらぬ道の筵に臨みて、『あはれ、我が道ならましかば、かくよそに見侍らじものを』と言ひ、心にも思へる事、常のことなれど、よに悪く覚ゆるなり。知らぬ道の羨ましく覚えば、『あな羨まし。などか習はざりけん』と言ひて...
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徒然草第166段:人間の、営み合へるわざを見るに、春の日に雪仏を作りて、そのために金銀・珠玉の飾りを営み、堂を建てんとするに似たり。その構へを待ちて、よく安置してんや。人の命ありと見るほども、下より消ゆること雪の如くなるうちに、営み待つこと甚だ多し。 ーーーーー 世俗の人々が忙しく動いている営み・仕事を見ていると、まるで春の日に雪仏を作って、そのために金銀・珠玉(宝石)の飾りつけをし、御堂を建立しようとしているかのようである。御堂が完成するのを待って、すぐに溶けてしまう雪仏を安置することなどできるのだろう

徒然草第166段:人間の、営み合へるわざを見るに、春の日に雪仏を作りて、そのために金銀・珠玉の飾りを営み、堂を建てんとするに似たり。その構へを待ちて、よく安置してんや。人の命ありと見るほども、下より消ゆること雪の如くなるうちに、営み待つこと...
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徒然草第165段:吾妻の人の、都の人に交り、都の人の、吾妻に行きて身を立て、また、本寺・本山を離れぬる、顕密の僧、すべて、我が俗にあらずして人に交れる、見ぐるし。 ーーー 東国(鎌倉)の武士が京の人と交わり、京の貴族が鎌倉で立身出世をする。また、京にある本寺・本山を離れた京の僧侶が、顕教・密教を入り混ぜて自分の宗派とは異なる修行(勤行)をする。すべて、自分が属している生活圏の風習から外れた人(本来自分が居るべき場所にいない人)というのは、どこか見苦しいものだ。 ーーー これは微妙な問題であるが、たしかに

徒然草第165段:吾妻の人の、都の人に交り、都の人の、吾妻に行きて身を立て、また、本寺・本山を離れぬる、顕密の僧、すべて、我が俗にあらずして人に交れる、見ぐるし。ーーー東国(鎌倉)の武士が京の人と交わり、京の貴族が鎌倉で立身出世をする。また...
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徒然草第172段:若き時は、血気内に余り、心物に動きて、情欲多し。身を危めて、砕け易き事、珠を走らしむるに似たり。美麗を好みて宝を費し、これを捨てて苔の袂に窶れ、勇める心盛りにして、物と争ひ、心に恥ぢ羨み、好む所日々に定まらず、色に耽り、情にめで、行ひを潔くして、百年の身を誤り、命を失へる例願はしくして、身の全く、久しからん事をば思はず、好ける方に心ひきて、永き世語りともなる。身を誤つ事は、若き時のしわざなり。 老いぬる人は、精神衰へ、淡く疎かにして、感じ動く所なし。心自ら静かなれば、無益のわざを為さ

徒然草第172段:若き時は、血気内に余り、心物に動きて、情欲多し。身を危めて、砕け易き事、珠を走らしむるに似たり。美麗を好みて宝を費し、これを捨てて苔の袂に窶れ、勇める心盛りにして、物と争ひ、心に恥ぢ羨み、好む所日々に定まらず、色に耽り、情...
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目の前なる人の愁を止め、恵みを施し、道を正しくせば、その化遠く流れん事を知らざるなり。 為政者は、まず目の前にいる人々の悩みを止めて、恵沢を施し道を正しくすれば、その良い影響が遠くの地域にまで広がっていくという統治のやり方を知らないのだろうか。 ーーー 格差是正、富の再配分、最低限の生活保障、というような基本的な政治の目標は古来同じらしい。そしてその実現は難しい。為政者は人気取りになり、庶民はクレクレ病になる。 徳のある為政者と徳のある庶民なら問題はないが、お互いに人柄もよく知らず、抽象的な存在になる

目の前なる人の愁を止め、恵みを施し、道を正しくせば、その化遠く流れん事を知らざるなり。為政者は、まず目の前にいる人々の悩みを止めて、恵沢を施し道を正しくすれば、その良い影響が遠くの地域にまで広がっていくという統治のやり方を知らないのだろうか...
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徒然草第170段:さしたる事なくて人のがり行くは、よからぬ事なり。用ありて行きたりとも、その事果てなば、疾く帰るべし。久しく居たる、いとむつかし。 人と向ひたれば、詞多く、身もくたびれ、心も閑かならず、万の事障りて時を移す、互ひのため益なし。厭はしげに言はんもわろし。心づきなき事あらん折は、なかなか、その由をも言ひてん。同じ心に向はまほしく思はん人の、つれづれにて、『今暫し。今日は心閑かに』など言はんは、この限りにはあらざるべし。阮籍(げんせき)が青き眼、誰にもあるべきことなり。 そのこととなきに

徒然草第170段:さしたる事なくて人のがり行くは、よからぬ事なり。用ありて行きたりとも、その事果てなば、疾く帰るべし。久しく居たる、いとむつかし。 人と向ひたれば、詞多く、身もくたびれ、心も閑かならず、万の事障りて時を移す、互ひのため益なし...
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第184段:相模守時頼(さがみのかみときより)の母は、松下禅尼(まつしたのぜんに)とぞ申しける。守を入れ申さるる事ありけるに、煤け(すすけ)たる明り障子の破ればかりを、禅尼、手づから、小刀して切り廻しつつ張られければ、兄の城介義景(じょうのすけよしかげ)、その日のけいめいして候ひけるが、「給はりて、某男(なにがしおのこ)に張らせ候はん。さようの事に心得たる者に候ふ」と申されければ、「その男、尼が細工によも勝り侍らじ」とて、なほ、一間(ひとま)づつ張られけるを、義景、「皆を張り替へ候はんは、遥かにたやすく候

第184段:相模守時頼(さがみのかみときより)の母は、松下禅尼(まつしたのぜんに)とぞ申しける。守を入れ申さるる事ありけるに、煤け(すすけ)たる明り障子の破ればかりを、禅尼、手づから、小刀して切り廻しつつ張られければ、兄の城介義景(じょうの...