IPTは、うつ病に対して、認知行動療法と同等以上に有効であることが証明されている精神療法で、最近は月1回の治療で寛解維持にも有効と報告されている。
IPTは、よく効くと言われていた常識的な治療をまとめたものと言うことができ、どういう人がどういう時にうつになるかというエビデンスのみに基づいていて、原因の仮説はたてない。
以下に、IPTの特徴ややり方を、断片的に記す。
期間限定(依存、退行を防ぐ)
焦点化(4つの問題領域の1つに絞る)
現在の対人関係に絞る
精神内界、認知、パーソナリティーなどは取り扱わず、対人関係のみに焦点を当てる
防衛規制の解釈もしない
目標は認知を変えることでなく、対人関係のパターンを変えること
(否定的認知などはうつ病の症状として理解する)
知的な議論でなく、感情に根ざしていないといけない。そのために具体的なエピソードをなるべく引き出す。
IPTは技法ではなく戦略
医学モデルを使う
治療関係(転移)を扱うのは、治療の妨げになるときだけ
具体的な方法としては、
まず、対人関係の4つの領域のうち一つに焦点を当てることを患者との話し合いの上で決める。
悲哀(重要な人の死に限る)
対人関係上の役割を巡る不和(不一致)
役割の変化
対人関係の欠如(これはなるべく選ばないようにする)
* 例えば、なかなか妊娠できない、というような内容は「役割の変化」と捉える。身体疾患もしかり。
治療者は患者の代弁者となる。提案はするが指示はしない。指示するかわりに質問をすることで本人の力を引き出す。共感的に接し、評価を下さない。楽観的、希望的に接し、患者との共同作業を進める。
このように、ロジャース的な部分が強いが、唯一積極的に関わるのは、焦点がそれたら必ず対人関係に焦点を当てるように工夫するということ。また、昔の話にこだわり出したら、昔の体験を思い出したきっかけは…という風に、今の問題に戻す。
初期:
病者の役割(病人という社会的役割)を与える。義務や責任が免除される代わりに、改善を助けてくれる人には協力する、など。
対人関係についての質問。全ての重要な他者(亡くなった人を含む)との関係を具体的に。頻度、共にする活動など。関係における期待の程度。満足できる、できない。どう変えたいのか。納得できるまで聞く。
両者の合意によって重要な領域を決定。
中期:
前回お会いしてから如何ですか、と前回の面接以後今回までの内容に絞ることを伝える。
気分を話すようならそれを出来事のレベルとして具体的に語ってもらい、出来事を語るようならそれを気分と結びつけていく。そして問題領域と関連づけていく。ロールプレイなどを行う。
悲哀、を領域に選定した場合、死者に対する怒り、裏切られた感じなどは、こちらからさりげなく取り上げた方が良い。
不和を領域に選定した場合、治療が途中で行き詰まった場合、交渉を再開させるために、あえて不調和を起こさせることもありうる。その場合は事前にそうなることを予言しておかないと、ドロップしてしまう。不和は期待の違いとして理解される。現状を把握し、選択肢を検討した上、ロールプレイなどを行う。(具体例が提示された)
ワークショップは、時間の関係で終結まで行き着かなかった。
全体に、いつもの臨床でやっているような内容に近く、納得しやすいものであった。治療上、ちょっと迷った時などに思い出せば、指針になる部分がたくさんあると感じた。
現在の精神医学では、心理との分業の推進ということもあり、力動的精神療法をそれほど熱心に教育しているとはいえないだろう。IPTは、ヒア&ナウしか取り上げないことや、精神内界よりも行動の変容を目指す点など、現代的な精神療法特有の特徴を持ち、保険診療の中でも何とか行える現代的な力動的精神療法のエッセンスとして有用だと感じた。ただ、精神分析やロジャースの来談者中心療法を取り込んではいるものの、認知行動療法とは一線を画している。将来的には、認知行動療法の良い点も取り入れた、より総合的な精神療法へと進化していくことに期待したいと思った。IPTは技法ではなく戦略である、ということなので、カウンセリングの技法や、最小限の精神分析の知識などと合わせて学ぶ必要はあるだろうが、精神医学研修で取り上げる精神療法としては、最も適しているのではないだろうか?