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この種の事件が起こると多くの人は、彼女のやっていたことは女性がみずからの身体イメージを解放する重要な活動であり、彼女自身が女性なのだから猥褻な意図があろうはずもなく、また「アート」として活動なのだから、どう考えても逮捕されるようないわれはない、等々と抗議をすることだろう。そうした抗議はもちろんやってかまわないと思うが、警察はそうした抗議に対しては、たぶん準備ができているだろうと思う。というのも、警察が今回の逮捕に踏み切った本当の動機は、3次元プリンタで出力可能な「女性器」のデータが配布されたことではなく、女性器のデータですら配布できるのだから、基本的にはどんなものでも3次元データを容易にやり取りできるはずだという、このインターネット環境の「開放性」そのものがターゲットだからである。
だから警察の観点からするなら、人が「女性器がなぜ猥褻なのだ?性器は人間身体の自然な一部ではないか!」とか、「これはアート作品であり、猥褻な意図のものではない」といった抗議を延々としてくれていた方が、実はありがたいのである。なぜかというと、そうした議論にかまけていることで、警察が今回のような事案に動いた本当の理由——ネット環境の自由さそのものを規制したいという動機——を、覆い隠すことができるからである。何も事由がないのに情報環境そのものに新たな規制をかけることはできないので、「猥褻なものを公表した」というような、そもそも警察にはあまり関心がない事柄で誰かを逮捕しておいて、それに対して関係する人々が「けしからん!文化も芸術も分からない警察官のオヤジどもが私たちの自由を侵害するなんて!」といったレベルで騒いでいてくれた方が、都合がいいのだ。
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