気分と認知機能に対する光療法の作用機序 Pathway for Light Effects on Mood and Cognition 動物を用いた本研究によると、光曝露の変化は、内因性光感受性網膜神経節細胞を介して、コルチコステロン値の上昇、気分の抑制、学習障害を引き起こす。 季節性気分(感情)障害(seasonal affective disorder)に対する治療の1つとして光療法が用いられているが、その機序はほとんど解明されていない。本論文の著者LeGatesらはこの治療機序を検討することを目

気分と認知機能に対する光療法の作用機序
Pathway for Light Effects on Mood and Cognition
動物を用いた本研究によると、光曝露の変化は、内因性光感受性網膜神経節細胞を介して、コルチコステロン値の上昇、気分の抑制、学習障害を引き起こす。
季節性気分(感情)障害(seasonal affective disorder)に対する治療の1つとして光療法が用いられているが、その機序はほとんど解明されていない。本論文の著者LeGatesらはこの治療機序を検討することを目的に、通常12時間の明暗サイクル(24時間周期)で飼育しているマウスを明期・暗期合計7時間の飼育環境(7時間周期)下に置く実験を行った。周期を短くした実験群のマウスにおける睡眠の量と構成は、24時間周期群と同様であった。
24時間周期群と比較し、7時間周期群ではコルチコステロン(ヒトのコルチゾルに相当)値が高く、認知機能およびうつ様行動を評価する試験の成績が不良であった。7時間周期群では記憶能力に関連する海馬領域および辺縁領域(扁桃体、手綱核)において、早期発現遺伝子c-Fosを発現している細胞を指標として活動性の増大が認められた。網膜像形成に関与せず、メラノプシンを産生する内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive retinal ganglion cell;ipRGC)が欠損したマウスを7時間周期下に置いても気分・認知機能に変化が認められないことから、光周期が影響を及ぼす部位としてipRGCが特定された。フルオキセチン(fluoxetine)の長期(3週間)投与およびデシプラミン(desipramine)の短期投与により学習障害が改善され、コルチコステロン値も正常化したが、フルオキセチンの中期(4日間)投与では同様な効果は得られなかった。不安様行動に関しては7時間、24時間周期の2群間に差がみられず、異常な光曝露の影響はうつに特異的であることを示している。
コメント
睡眠および概日リズムの指標が一定に保たれた条件において、内因性光感受性網膜神経節細胞が抑うつ性障害と学習障害の直接的な原因になりうる(ことを本研究は示している)。今回の知見は、ヒトの季節性気分障害に対する光療法の治療機序を理解する一助となる。光療法の有用性について懐疑的な人もいるため、(治療効果を裏付ける)直接的な生理学的経路が存在することを知れば、患者や家族は安心するであろう。
—Barbara Geller, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry December 3, 2012