最愛の人を支援することで得られる神経系の報酬
Neural Payoffs from Giving Support to a Loved One
女性では、苦しんでいるパートナーを支える行為によって報酬・母性行動に関係している脳領域が活性化した。
社会的支援はそれを受ける側に有益であるが、支援する側にも死亡率の低下を含め身体的・精神的な健康状態の向上という有益な効果をもたらす可能性がある。動物では母親の養育行動(caregiving behavior)と報酬に関係する腹側線条体および中隔野との関連が明らかにされており、報酬と関係するこれらの快楽中枢は恐怖の軽減にも関与している。Inagakiらは本研究において、恋愛中の女性20例に(機能的)MRIを施行し、ヒトでも養育や介護といった支援行為が(神経学的な)影響を及ぼすのかどうかを検討した。対象女性の全員が交際相手と非常に幸せな関係にあり、パートナーの身体に触れることを心地よいと感じていた。男性の交際相手に痛みを伴う電気ショックを与えているときに、女性に男性の腕を握ってもらい(「支援行為」条件)、そのときの脳活動が解析された。
各女性で以下の3つの対照条件にてMRI画像が撮影された:(1)男性パートナーに電気ショックを与えず、男性の腕を握る。(2)男性パートナーに電気ショックを与えている最中にゴム製ボールを握る。(3)男性パートナーに電気ショックを与えず、ゴム製ボールを握る。(その結果、)支援行為の条件下では対照条件に比べ、腹側線条体および中隔野の活動亢進が認められた。各実験後の自己評価で、女性が高い支援効果と強い社会的つながりを感じていた場合、腹側線条体と中隔野の活動性も高かった。さらに、支援行為中にみられた中隔野の活動亢進は両側扁桃体の活動性低下と関連しており、恐怖の抑制と整合する関係にあった。
コメント
これらの結果は、支援する側に報酬と同時に恐怖の抑制とおそらく苦痛の軽減を与える回路が哺乳類に存在することを示している。中隔野、腹側線条体、そして扁桃体には多数のオキシトシン受容体が存在している、と著者らは指摘している。支援行為中に、並行して発生する(オキシトシンを含めた)視床下部―下垂体―副腎系に関与する神経体液性イベントを調べる研究も興味深いと思われる。今回観察された短期的な反応は時間経過に伴い変化し、支援を長期的に行っている場合には有益な効果が減弱する可能性もある。介護者の教育・指導に従事している臨床医にとって、本研究の結果は「与えること自体が報酬をもたらす」という考え方を支持する知見である。
—Joel Yager, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry December 12, 2011