セロトニンとストレス—その関係は複雑 Serotonin and Stress — It’s Complicated 幼若期のストレス曝露が成熟期におけるセロトニン受容体遺伝子の発現亢進を引き起こすというこの動物実験の結果は、気分・不安障害の新たな治療への方向性を示す知見である。 セロトニン(5-HT)トランスポーター遺伝子多型は5-HT神経伝達の欠損をもたらすことがあり、おそらくストレス反応の異常を引き起こすと考えられる(JW Psychiatry Feb 7 2011 and Oct 8 2003

セロトニンとストレス—その関係は複雑
Serotonin and Stress — It's Complicated
幼若期のストレス曝露が成熟期におけるセロトニン受容体遺伝子の発現亢進を引き起こすというこの動物実験の結果は、気分・不安障害の新たな治療への方向性を示す知見である。
セロトニン(5-HT)トランスポーター遺伝子多型は5-HT神経伝達の欠損をもたらすことがあり、おそらくストレス反応の異常を引き起こすと考えられる(JW Psychiatry Feb 7 2011 and Oct 8 2003)。本論文の著者Benekareddyらは成熟ラットを用いて、生後早期に受けたストレスに起因する遷延性の異常ストレス反応における5-HTの機能を検討した。生後早期のストレスとして、2~14日齢の期間に1日3時間の母親隔離(maternal separation:MS)が行われた。
対照群およびMS曝露群ともに、成熟ラットの前頭前野皮質において、拘束ストレスによって5-HT2受容体により調節される前初期遺伝子(immediate early gene:IEG)Arc の発現が誘導された。拘束処置を繰り返した場合、正常に養育されたラットではArc 誘導の馴化が認められたのに対し、MS曝露ラットでは馴化が起きなかった。MS曝露ラットでは細胞内シグナル伝達および興奮性シグナル伝達に関連しているいくつかの遺伝子の転写物に変化がみられ、前頭前野皮質における5-HT2A mRNAレベルが上昇した。5-HT2受容体拮抗薬であるケタンセリンをMS曝露中に投与したラットでは、成熟期における不安行動の発現が抑制され、慢性ストレスに対するArc 反応パターンの正常化が促進され、前頭前野皮質におけるシグナル伝達系および5-HT2A受容体遺伝子発現が正常化した。
コメント
ラットにおいて生後早期のストレスは成熟期の不安行動および過剰ストレス反応を誘発させるだけでなく、5-HT2A受容体遺伝子の発現を亢進させたことから、その結果として、ストレス反応を制御している前辺縁皮質領域において他の複数の遺伝子の発現にも変化をもたらすものと思われる。5-HT2A受容体の抑制は、これらの変化の一部ならびに成熟期に曝露したストレスに対する反応を正常化させる効果があるようである。生後早期の逆境に起因する長期に及ぶ異常ストレス反応は「セロトニンの不足」では十分に説明できず、幼若期早期にセロトニン神経伝達の一部を抑制することで、永続的に持続するであろう生理学的な異常を改善できるかもしれないことが、これらの結果から示唆される。
—Steven Dubovsky, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry January 9, 2012