睡眠中に学習することは可能なのか?
Can We Learn While We're Asleep?
睡眠中に音とにおいを組み合わせて条件付けを行ったところ、覚醒後も持続する非言語性の学習がみられた。
睡眠中にいろいろなことを学習できれば、まさに夢のような話である。本論文の著者Arziらは、睡眠中に関係のない刺激間で新たな関連の条件付けが可能なのかどうかを明らかにするため、薬物療法を受けていない健常被験者55例において条件刺激として種類の異なる可聴音、無条件刺激として三叉神経を刺激しないにおい(通常、覚醒させることはない非刺激臭)を用いた検討を行った。睡眠段階は睡眠ポリグラフ検査により確認された。睡眠中、被験者には一連の音を単独または心地よいにおい(覚醒中に“においかぎ”[sniffing]反応量を増加させるにおい)、不快なにおい(においかぎ反応量の増加が少ないにおい)と組み合わせて聴かせた。
においはデルタ波を増加させた。音と心地よいにおいによる条件付けは、ノンレム睡眠よりもレム睡眠のステージにおいて強固に成立した(条件付けの程度は、条件付け成立後に睡眠中の音刺激単独に対するにおいかぎ反応量の増加に基づき評価された)。この条件反応はその後覚醒中に行ったテストでも持続性が認められたが、解析には訓練用の試行が含まれており、被験者は短時間覚醒していたことが睡眠ポリグラフ検査から示唆された。被験者がいったん覚醒しても条件反応が持続していたのは、ノンレム睡眠中に組合せ刺激の条件付けが成立した場合のみであった。被験者は睡眠中に条件付けの試行を受けたことに気づいていなかった。
コメント
これらの結果は、睡眠中に非言語性の学習が可能であることを示唆している。レム睡眠中に強固な条件付けが成立したことは海馬神経回路の活性化を示唆していると思われる。一方、低周波成分が主体の睡眠ステージにおいて学習の持続性が高かったことは、記憶の定着において睡眠が重要な役割を果たすという知見と一致する結果である。睡眠中に他の様式の学習が起こりうるのであれば、条件付けの効率がより高いアプローチを導入できる可能性がある。例えば、睡眠中に適応的でない結びつきを消去しつつ、新しい結びつきを形成することができるかもしれない。
—Steven Dubovsky, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry September 24, 2012