【10月21日 AFP】「フェイスブックは脳を変えるのか?」――世界で8億人のユーザーがいるソーシャル・ネットワーキング・サービス、フェイスブック(Facebook)に関する珍しい論文から、このような問いが浮かび上がった。
ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(University College London、UCL)の神経学者ゲレイント・リース(Geraint Rees)教授が率いる研究チームは、19日の学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に掲載された論文で、フェイスブックを使っている人の脳を3次元(3D)スキャン装置で検査したところ、フェイスブック上の「友人」が多い人ほど、脳の領域のうち社会適応能力に関する3つの領域が大きく、密度も高かったことを明らかにした。
UCLの研究員、金井良太(Ryota Kanai)氏によれば、この3領域のうち「上側頭溝」と「中側頭回」は、他人の視線に気づいたり、顔の表情から気持ちを読み取ったりするといった社会的認知能力に関連があり、「嗅内皮質」は顔と名前の記憶に関連しているらしいという。
2年前、英オックスフォード大(Oxford University)の神経学者、スーザン・グリーンフィールド(Susan Greenfield)氏がオンラインでの友人作りは若者に大きな悪影響を与えると主張して論争を巻き起こした。同氏は英上院で「21世紀半ばの人間は、集中できる時間が短く、興奮しやすく、共感性が乏しく、アイデンティティが脆弱という、ほとんど幼児のような精神的特徴を持つようになるだろう」と警告したのだ。
UCLのリース教授は、今回の研究はこの論争の核心に触れる問題を提起したと語る。社会適応能力に関連する脳の領域の大きさは人が友人を作る能力に関係するのか?ソーシャル・ネットワーキング・サービスを利用することによってその領域は変化するのか、それとも変化しないのか?この問題を解き明かすにはさらなる研究が必要だとリース教授は言う。
■付き合いの形態ごとに脳の異なる領域が使われる?
リース教授らのチームは、フェイスブックを利用している学生有志125人(うち46人が男子)を対象に調査を行った。対象者の平均年齢は23歳だった。フェイスブックでの「友人」の数は、数人から1000人近くまでさまざまで、平均は300人だった。
次にこれらの数値を別の40人の数値と比較し、統計的なバイアス(偏り)を把握した。
その後、学生有志の中から65人を選び、オンラインあるいは現実世界における交遊関係と脳の構造の間に何らかの関係がないか詳しく調べた。このグループの学生に対しては脳スキャンのほかに現実世界の友人に関するアンケート調査も行った。
こうして現実世界の友人とオンラインの友人の数を比べたところ、脳の「両側扁桃体」と呼ばれる領域が関係していることが分かった。この領域は感情的なできごとの処理と記憶に関連すると考えられている。
しかし、最初の実験で注目された「上側頭溝」、「中側頭回」、「嗅内皮質」にはそうした関係はみられなかった。リース教授は興味深い結果だととらえている。人間同士の社会的な付き合いにはいろいろな形があるが、そのそれぞれについて脳の異なる領域が使用されている可能性が示されているからだ。
これまでの研究で、脳は柔軟性の高い器官であることは実証されている。例えば、お手玉をするなど特定の運動技能を学ぶ時には、筋肉をコントロールする「運動皮質」という領域の灰白質が厚みを増す。
しかしリース教授は「灰白質が増えるほど、特定の作業に集中しようとする時の注意力が散漫になったという例もある」と語り、脳の特定の部分が大きいことが必ずしも良いことだとは限らないと言う。
「(オンラインで友人を作ることと)灰白質が増えることの関係はよく分かっていないし、灰白質の増加がいいことなのか悪いことなのかも分からない。どの細胞構成要素や神経細胞が関係しているのか、具体的にどのような現象が起きているのかも分かっていない。将来の研究が待たれるところだ」