“萩尾 世界の宗教というのは、最初、母源的というか、女の人が神様ってところから始まるんですけど、それが途中から、男の人が神様と呼ばれるように変化していくんですね。キリスト教もそうだし、仏教もそうだし。その変化の時に、神話の中で必ず男の人は竜退治をするんです。須佐之男命が八岐大蛇を退治したり。ジークフリートがファフニールを倒したり。
竜っていうのは、巻きついて子供を飲み込んでしまう母親のイメージなのだそうです。それを克服して、男の人は一人前に、つまり人間になる。それを助けるために宗教というのはあるんだと。イスラム教もキリスト教も仏教も、男の人を助けるための宗教なものですから最初は女性参加を認めていないんですね。男はアイデンティティを確立するために、宗教的な概念が必要だったと本には書いてあったのです。
――つまり、母の象徴である竜を倒さなければ、男は一人前になれないということですか?
萩尾 そう、そうしなければ自我の自立ができないというね。
原始アニミズムの宗教、女が支配してる時はどうだったのかというと、男の人は大人になれなかった。もちろん、成長もするし、髭も生えるのに。物語として伝えられているものに、宗教催事として、畑に作物を実らせるために少年を連れてきて切り刻んで肉片をまいてそこから芽が出る、というものがあります。女の人が子供を生むために、そのぐらいしか男は役に立たないという、切り刻まれてしまうような存在だったんですね。その世界が終わって、男の人は大人になったわけです。本当に大人になったのかな?というのが最近考えてることです。”