WIRED.jp – 「拍動しない人工心臓」で生きた人
55歳のクレイグ・ルイス氏は、心臓の拍動が止まったまま1カ月間生き続けた。胸で心臓の音を聞くと無音だった。心電図に接続すると、見慣れたリズムはなく、フラットな線が現れた。
ルイス氏の心臓は、1対の無拍動流ポンプに置き換えられていたのだ。このポンプは、スクリュー型のプロペラを使用して、拍動なしに一定量の血流を送り続けるものだ。
ルイス氏を担当したテキサス心臓研究所(Texas Heart Institute)のビリー・コーン医師とバッド・フレイジャー医師は、このポンプに、既存の植え込み型の補助人工心臓と「いくつかの手作りの機器」を組み合わせた。
コーン医師は、公共ラジオ局NPRの記事の中で、心臓の拍動は、現行の心臓のメカニズムにおいて必要なだけだと語っている。本人の心臓の代わりに無拍動流の人工心臓システムを使用しても、「ほかの臓器にとってはそれほど問題がないようだ」と同医師は言う。
残念ながらルイス氏は、移植後1カ月をすぎたころに、もともとの病気[アミロイド症]が理由で亡くなってしまった。だが現在ももう1基、無拍動流の人工心臓が、子ウシのアビゲイルの体内で稼働中だ。コーン医師らによる人工心臓の移植を受けたアビゲイルは、予後の経過に問題はない。
コーン医師らによる無拍動流の人工心臓には可動パーツがひとつしかないため、間違いなく多くのメリットがあるだろう。コーン医師は、拍動する人工心臓について、初期の飛行機を設計していた人々が「羽ばたき」が必要だと考えていたのと似ていると述べ、自然を模倣することが常に最良のソリューションというわけではないと指摘している。[無拍動流ポンプは、人工弁などを必要としないので、小型化でき、耐久性が向上する可能性があるとされており、世界の多くの研究チームが開発を進めている]